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みずあめ
2026-05-23 12:17:07
5176文字
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brmy
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明揺
前半明星不在で春日と大河が多めです。
なんか、明星が変。
俺が呟いた言葉に、春日は少ししてから「なにが?」と返事をした。おこげから視線を上げると春日はゲームをしていた手を止めて俺の方を向いている。俺はもう一度視線を落として言葉を探した。
「よくわかんない
……
」
「
……
なにがわかんないの」
「
……
」
「
……
オヤツにするか、おこげ」
みゃう、と鳴き声を返したおこげに思わず笑い、俺も「オヤツにしよ」と話しかけて立ち上がる。自分から話し出したのに、何をどう話せばいいか分からなかった。春日がオヤツだと言ったのは多分おこげのためじゃなくて、俺のためだ。春日はいつも優しい。
「春日も」
「はいはい。なんか食べもんあったかな」
「あるよ。甘い匂いする」
「また大河がなんか作ってんのかな」
「パンケーキがいい」
「俺に言われましても」
ふわ、とあくびをする春日と一緒に部屋を出て、もう階段を下りているおこげの後ろを追いかける。リビングに行くと予想通り大河が何かを作っていた。カウンターから覗き込むといろんな形をしたクッキーの生地が天板に乗っている。
「どれくらい焼くの?」
「十五分くらいだな」
「早く食べたい」
「焼いたものがこちらに」
「三分クッキングかよ」
「食べていい?」
「ちゃんと手洗ってこい。なんか飲むか?」
「牛乳がいい」
「了解。春日は?」
「アイスコーヒー残ってる? なければいい」
「ある。お前も手洗ってこい」
「へいへい
……
」
洗面所まで甘い匂いが届いて、ご機嫌なまま手を洗う。後ろで待ってた春日と場所を変わると春日はめんどくさそうな顔をしながらそれでもちゃんと手を洗って、振り向いて俺を見ると「なに」と怪訝な顔を作って言った。
「クッキーだった」
「あ、ね。パンケーキがいいんじゃなかった?」
「クッキーも好き」
「さよか」
「春日も好きでしょ、大河のクッキー」
「
……
別に普通ですけど」
「猫の形のもあったよ」
「
……
そうだね。ほら、早く食べたいんだろ」
「うん」
ぐいっと春日に肩を押される。俺は全然強くないその力に従ってリビングへ向かった。テーブルの上に並べられた俺と春日のコップと、お皿に山盛りのクッキー。大河はまだキッチンに立っていた。
「大河」
「うわっ。どうした?」
「まだ何かするの?」
「うん? 次の焼けるまでの間に洗い物をしちまおうかと」
「後でいいよ。大河も一緒に食べよ」
「いや、俺はいいから二人で」
「大河、クッキーは冷めても美味しいけど、焼きたても美味しいんだよ。食べないともったいない」
「
……
そう、だな。じゃあ、俺も一緒にいいか?」
「うん」
大河が自分のコップにアイスコーヒーを入れるのを待って、俺は大河を引っ張ってテーブルに連れて行った。おこげを撫でながら待っていた春日が大河を見上げてふっと笑う。
「強引だな」
「大河は春日の隣ね。俺こっち」
「ああ、わかった」
「いただきます」
「いただきます」
「
……
ます」
まだ温かいクッキーを食べて、いつも通りの美味しさに笑みが浮かぶ。春日も大河もいつもより機嫌が良さそうだ。俺は春日が一枚をゆっくり食べる間に三枚食べて牛乳を飲み、ふうと息を吐いた。
「大河にも聞いていい?」
「ん? どうした?」
「最近、明星が変なんだけど、どうしたらいいかな」
「樋宮くん?」
「うん」
「変って、その、どんなふうに?」
「
……
」
「
……
別に向こうに話したりしないし、揺の思った通りに言えばいいよ。俺も大河も何言ってもバカにしたりしないし」
「
……
話、へたかも」
「いいよ」
「ああ、ちゃんと聞くから、大丈夫だよ」
「
……
、この前、明星が俺に好きって言ってきて」
俺がそう言うと大河がグラスを倒しかけて「わっ!?」と声を上げた。ギリギリこぼれなかったけれど、慌てた様子の大河の顔は赤い。春日はチラッと大河を見た後、はぁとため息を吐いた。
「大河のことは気にしないでいいよ。話、どーぞ。好きっていつもの感じの、言い方悪いけどリップサービスみたいな軽いやつじゃなくて、ってこと?」
「うん、なんか、結構まじな感じで」
「ほえ〜
……
んで?」
「それで、
……
たぶん、俺も明星のこと好きなんだけど」
「え!?」
「え?」
「あ! いや! 悪い! 話続けてくれ!」
「声でか
……
」
「黙ってる!」
大河は両手で自分の口を塞いで首を振った。別に喋ってもいいけど、まあ、確かに声は大きかったからほっといてもう一枚クッキーを手に取った。かじって牛乳を飲んで、いつも通りの春日を見て心が落ち着く。
「だから、俺も好きだよって言おうと思ったんだけど、そしたら今度は明星に避けられてるみたいで」
「? どういうこと?」
「わかんない。なんで俺避けられてるの?」
「
……
なるほど。それで、『明星が変』?」
「うん。どうしてか、二人はわかる?」
明星に好きって言われた。その時はびっくりして何も返せなかったけど、俺も好きだったから好きだよって言おうと思った。それなのにここ最近、明星が俺のことを避けているみたいにタイミングが合わない。
同じ部屋に住んでいるはずなのに、昼間はお互い仕事とかで出掛けてるし、夜は明星が帰ってこない。朝、出勤前とかの忙しい時に顔は合わせるけど、ゆっくり話していられる時間はないから。
「明星は俺に好きって言われたくないのかな」
「むこうが先に好きって言ったくせに?」
「そうだよ」
好きって言われたのは俺なのに、なんで俺が追いかけることになってんの? ムッとすると春日がクッキーに手を伸ばすついでにお皿をこっちに寄せたから、俺もクッキーを二枚まとめてとって口に放り込んだ。焼きたてから少し冷めて、さっきまでと違うサクサクした食感になっておいしい。たぶん俺用に、特にチョコチップが練り込まれているクッキーはとても甘くて、イラつきかけた心が溶かされていく。
「
……
俺は好きじゃない方がいいのかな。明星って、そういうめんどくさいところあるんだよね」
「あー、まあ、なんとなくそんな感じはするけど。
……
樋宮くんが何考えてるかは俺には分からんけどさ、揺は揺の好きにしたらいいと思うよ。揺が明星くんのことめんどくさいところあるって思ってるのに好きなら、明星くんも揺の自分勝手なところも好きなんじゃない?」
「こら春日、お前言い方ってもんが
……
!」
「じゃあ大河もアドバイスどーぞ?」
「えっ、
……
ええと、当たって砕けろ
……
? って、これも絶対良くない方の言葉だ、悪い忘れてくれ」
「
……
ふふ」
あたってくだけろ、と口の中で転がすように呟くと、大河が泣きそうな顔して「今のはなしで
……
!」と言う。春日がくすくす笑って、俺も笑った。
「ん、じゃあ、とりあえず当たってくる。たぶん、砕けないから、大丈夫」
「お、強気」
「ふふん」
「なにか割れないお菓子とか作るか」
「割れないお菓子?」
「砕けないように願掛けを
……
」
「ああ、うん。じゃあパンケーキがいい」
「了解した」
大河は真面目な顔で頷いて、春日は面白がって笑ってる。たぶん俺の中で最初からやることは決まってて、それでも二人に背中を押してほしかったんだ。
その場で明星に『帰ったら話したい』と送ると、すぐに既読がついてOKというスタンプが返ってきた。その画面を春日に見せて「おー、がんばれ」と雑な応援をもらい、大河に見せて「揺なら大丈夫だ!」と力強く言われ、俺もこくんと頷きを返す。材料があるからって大河がすぐにパンケーキを作ってくれて、メープルシロップをたっぷりかけたそれを大河と分け合う。春日は匂いだけでお腹いっぱいと言ってコーヒーだけを飲んでいた。
残ってるクッキーを袋に入れてもらって、いつもより早くハウスを出た。今日は、夕飯は明星と食べよう。お腹空いたから作ってと言えば明星は俺にごはんを作ってくれるし、一緒に食べるでしょと頼めば断らないはずだ。明星は俺に甘い。だって俺のことが好きだから。
大丈夫、と自分に言い聞かせながら寮に帰り、部屋の扉を開ける。「ただいま」と小さく呟くと「おかえり」の声が返ってきた。それだけで、ほっと息を吐く。
「帰ってくるの早いやん。春日さんのとこ行ってたんやろ?」
「うん。明星と話したい。いい?」
「
……
ん、ええよ。ココアでもいれよか?」
「ありがと。あ、大河のクッキーもらってきた。明星も食べる?」
「え、ええの? ゆらの食べる分減ってまうやん」
「いいよ。大河が一緒に食べなっていっぱいくれたから」
「ほんま? ほな一緒に食べよ。俺もコーヒー入れるわ。ちょっと待っててな」
「うん」
避けられてもないし、普通に話せてることに、心の中であれ?と首を傾げる。俺が話したいって言ったから? でも昨日までだって、何回も話しかけようとして、その度に逃げられてたんだけどな。
まあ、いいか、話ができるならそれで。荷物を置いて手洗いを済ませ、明星の部屋のソファーに座る。袋を開けてクッキーを食べていると明星がコップを二つ持ってきて俺の隣に座った。
「おまたせさん。俺も一枚ちょーだい」
「ん、これチョコチップ入ってないやつで、こっちは入ってるやつ」
「わは、二枚くれた。ありがとう」
「それで話なんだけど、明星、俺のこと好きなんだよね?」
「あー、
……
忘れてくれたりは」
「? どうして?
……
忘れたほうがいいの?」
「や、そういうわけでもないんやけど
……
」
「俺も明星のこと好きなのが嫌?」
「え?」
「明星の考えてること分かんないから、教えて。好きって言ったのは明星なのにどうして避けられてるのかも分かんない。やっぱり嫌いだった?」
「ま、待って待って。嫌いなわけないやん。
……
嫌いやないよ、本当にゆらのこと大好き。避けてたのは
……
ゆらに好きって、言われたくなくて」
「
……
どうして?」
「俺、ゆらのこと幸せにできんもん」
ぽつりと落とされた言葉が理解できず、俺は数秒固まってから「は?」と返した。いつもなら目を見て話す明星が、今日はじっとマグカップの中のコーヒーだけを見つめてる。服の裾を引っ張って「明星」と名前を呼ぶと、明星は困ったように笑った。
「ゆらは俺のタイプ知ってるやろ?」
「
……
明星に興味ない感じの、冷たい子?」
「そういう子が、俺のこと好きになってぼろぼろのぐずぐずになってくれるのが好き」
「
……
?」
「けど、な。俺、ゆらのことゆらのまんま、大切にしたいねん。ゆらが俺のこと好きやったら、俺、ゆらのこと傷つけてまうかもしれん」
「
……
よく分かんない。俺が明星のこと好きでも好きじゃなくても、明星は明星でしょ。明星が優しいのも、性格悪いのも、めんどくさいのも、変わんないよ」
「いま悪口の方が多くなかった?」
「俺のこと大切にしたいなら、大切にしていいよ。上手くできなくても、今さら嫌いになれないと思う。嫌なことあったら嫌っていうし、ムカつく時は怒るけど、それだけ。それでも明星のことが好きだよ」
「
……
いま、すごい、きゅんとした」
「そう。それで、明星は?」
「
……
俺もゆらのこと好き。ごめんな、こそこそ避けたりして。覚悟決めてちゃんとゆらのこと大切にする。俺と付き合ってくれますか?」
「うん、いいよ」
やった、と明星が笑って、俺のことをぎゅっと抱きしめた。背中に回る腕の力は少しもキツくないし、俺のことを包み込む大きな体は温かい。何を不安に思ってたのか知らないけど、明星はいつも、俺のことちゃんと大切にしてくれてたよ。
「春日さんたちとなんか話してきたん?」
「うん。明星が変って話聞いてもらった」
「わー、誤解が生まれてそう」
「大河が当たって砕けろって」
「
……
どこまで話したん?」
「でも砕けないように、パンケーキ焼いてくれた」
「
……
お付き合い初日にごめんやけど、ゆら、ちゅーしてもええ?」
「いいよ?」
緩んだ腕の中で顔を上げて、明星と目を合わせる。とろっと蜂蜜みたいに甘そうな瞳が近付いてきて俺は瞼を閉じた。そっと重なった唇はすぐに離れ、目を開けると明星が眩しそうに目を細めてる。なに?と首を傾げたらもう一度前触れなく唇が重なった。視線が重なったまま、明星の唇が俺のそれを食べるみたいに挟んだ。
「すごいわ」
「
……
なにが?」
「ゆら、お菓子でできてるみたいやね。こんな甘いキス初めて」
「
……
明星、クッキー食べて、ココア飲んで。コーヒーはだめ」
「ふ、俺のことも甘くしようとしとる? ええよ、甘かったら、ゆらからもキスしてくれる?」
ふっと笑う明星がクッキーに手を伸ばすより早く、俺はその唇にキスをした。全然甘くないけど、それでもいいよ。そのまんまでも明星のこと、ちゃんと好きだよ。
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