白を基調にした簡素な一室は、スネージナヤパレスの中で最も日当たりの良い場所だった。バルコニーに繋がる大きなガラス扉と高い天井に設えられた天窓からは透き通った陽光が差し込み、壁際に備え付けられた暖炉はパチパチと音を立て、室内を暖かく照らしていた。
バルコニーにほど近い、ひときわ明るい場所に置かれた丸テーブルには、質のいいティーセットが四人分。窓際に主催のサンドローネが、その対面にはアルレッキーノが座しており、その両隣にコロンビーナとシニョーラが座っている。華やかな生菓子と香ばしい焼き菓子がいくつも並べられた銀製のティースタンドは陽の光を反射して、キラキラと輝いて見えた。
傍目に見れば、華々しくも可愛らしい、女性たちの小さなお茶会そのものだ。
――テーブルの中央に置かれた、不可解なマシナリーを除けば。
「アナタが見たいって言うから、わざわざ作ってあげたんでしょう!」
テーブルを強く殴打して、サンドローネは声を荒げた。その視線はまっすぐコロンビーナを射抜いているが、その目を向けられた本人は、どこ吹く風と言わんばかりに焼き菓子を頬張っている。
口の中のお菓子をむぐむぐと咀嚼しながら、コロンビーナは「うーん」と小首を傾げ、言った。
「試したの?」
柔らかく響いたこの言葉は、どうやらサンドローネの逆鱗に触れたらしい。彼女は一瞬言葉を止め、今度は拳を振り下ろした。
がしゃん、と大きな音を立て、カップの中身がテーブルクロスに小さなシミを作る。陶器が割れなかったのはせめてもの救いだろう。
「試すわけないじゃない!」
「でも、実験結果は自分の目で確認しろって博士が言ってた」
焼き菓子の最後のひと欠片を口に放り込んで、コロンビーナは次のお菓子へと手を伸ばす。選ばれたのは、求肥に包まれたもちもちとした生菓子だった。
「だからアナタで確認してあげるって言ってるのよ!」
だいたいワタシに生殖器はついていないわ! という爆弾発言には、その場にいる誰もあえて反応しなかった。
小柄な少女たちの諍いを横目に、シニョーラはマシナリーを手に取る。よく手入れのされた白魚のような指先が、茶色く無骨なキノコ型の――男性器を模したそれを優しく撫でた。
ごつごつとした見た目に違わぬ硬い感触に、ざらざらとした表面。駆動すると思われる接続部も、滑らかとは言い難い。
「どちらに使うにしても、少し大きすぎるんじゃなくて?」
二人のちょうど間にある、男性器を模したマシナリーを見なかったことにすれば、だが。
カピターノが部屋に入ったことに気がついたのは、入口に背を向けて座っていたアルレッキーノだけだった。サンドローネはコロンビーナをどやしつけ、シニョーラはティーカップを片手にいびつな形をしたマシナリーを観察している。
「……これは、どういう状況だ」
アルレッキーノがちらりとこちらを向いたのを切っ掛けに、カピターノは静かに問いかける。同伴していた最年少の耳をふさぎながら。
「見ての通りだ」
短くそう言って、アルレッキーノはティーカップに口をつける。柑橘系の茶葉の香りがふわりと広がって、一呼吸置いて再び口を開いた。
「私にもわからない」
土産の茶葉を持って来た時にはもうこうなっていたのだと、彼女は言う。
テーブルに転がっているマシナリーがなんなのかは想像に難くはないし、誰が作ったものなのかは説明されなくとも理解した。
何故、どういう意図で作成しこの場に持ち込んで来たのかは、恐らくサンドローネとコロンビーナにしかわからないだろう。
後日談しょたるとぱんどといけそうだからそのうち。
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