星の約束

???×ツバキ前提のジョイス×ツバキ
※第2章ネタバレあります

最近学校の裏手で幽霊を見たと噂がたっている。
俺たち教師陣は「そんな馬鹿な」と笑い飛ばしていたが、それを見たという生徒たちは必死に伝えるほどに恐怖に怯えていた。
さすがにそれは無いだろと正直半信半疑になりながらもこれ以上幽霊の話を否定するのも可哀想なので、念の為に夜の見回りを受け入れることにした。
「そういえばツバキさんはよくあそこにいますが、見ていないんですかね」
そんなことを冗談半分に、クスクスと笑いながらケイレブが口にする。

ツバキ──かつてこの学校の問題児だった彼女だが、あの試練を乗り越えてからだいぶ成長したように思う。兄であるエクラもその変わりように驚きつつも喜んでいる(実際はツバキは養子みたいなもので本当の兄妹ではない)
そんな彼女は星を見るのが好きらしく、俺が専門にしている占星術を早く受けたいと駄々をよくこねている。だが、まだ受けれる期間を過ぎていないので、たまに個別で教えたりしているのだが……

そうだ。ツバキはよく学校の裏で星を見ていた。
もしかしたらそんな彼女の後ろ姿を生徒たちが見間違えた可能性もある。
今夜も晴れる。もしかしたらツバキも星を見るかもしれない。
心のどこかで彼女と星を見たいという下心を隠しながらも謎の幽霊騒動を終わらせなければという気持ちがあった。

仕事を一通り終え時計を見あげれば夜の七時を回っていた。そろそろツバキもいるか、と彼女の顔を見るとどこか浮き立った気持ちになる。
いやいや、そもそもアイツらが幽霊を見たなんて言うから……と昼間の会話を思い出していた。

『見慣れない服だった』
『軍服だったかな』
『その人ジョイス先生くらい大きかったよ』

そう生徒たちは口々に言う。そして、何より引っかかったのは──

『背中に大きな剣を背負ってた』
『エクラ先輩と同じ感じの』

……まさかとは思いたい。ふと見渡せば離れた席でまだ残っていたエクラを見つける。
「なあ、エクラ」
「はい、なんでしょう」
「お前のその剣って──……

***

俺は走った。もしかしたら、いやほぼ確信を得ている。
暗闇の中、彼女を探した。耳をすませば女の独り言が聞こえた。
「──でね……
その声の主に聞き覚えがあった。声のする方に顔を向けると、月明かりに照らされた真っ白な髪が見えた。
「ツバ……
彼女の名を呼ぼうとした。だが、俺は目の前の事に衝撃を受け、息を詰まらせた。

ツバキの横に誰か男が立っている。
俺と同じエレゼン族の男。まるで軍服のような格好。そして、その背中には──……

『この剣は、俺の相棒で、ツバキの恋人の形見なんです』

エクラと同じ銀色の大剣を背負っていた。
男の顔はよく見えない。だが、口元を見れば、上がっている。それは悪い笑でないことだけは分かった。
「クォーツ、ごめんね。私好きな人出来たの」
風に乗ってツバキの声が聞こえてきた。
「本当はもう失うのが怖いから好きになりたくなかった。でも、また会えた時、二度と手を離したくないって、思ったんだ」
ツバキの隣に寄り添う男は微笑みながら頭を撫でていた。
「先生は……ジョイス先生は、きっと素敵な人をお嫁さんに迎えるんだろうけど、それでもこの気持ちは否定したくない。ただ傍にいられるだけでいい」
ふと軽くなった足取りで自然と近付いていた。
ツバキの横に立つ男はこちらに気付くと、一瞬険しい顔をしていたが、次の瞬間には目を丸くし、俺の方を向いて敬礼したのだ。
そして、その口は動いたが、声は聞こえない。だが、その口の動きで何を言っているのか何となく分かった。
……あぁ」
俺が口角を上げれば男──クォーツは満足そうに笑い、星のように小さな光となって消えた。

……ジョイスせんせ!? 」
俺の声にやっと気づいたのかツバキは焦りを覚えた。慌てる様子に俺は近づき、姫抱きする。
「ちょっと!? 」
「なぁお姫様」
「おひ……
お姫様という単語に声をつまらせていた。月明かりでも十分に分かるほど白い肌が赤く染まっていた。
「なーんで俺を誘ってくれないんだよ」
「え、だって……
「だってじゃねえだろ〜」
ケラケラと笑えばツバキはそっぽを向いた。
「まさか聞いてないよね」
「さあな? 」
俺の返答に怒ったお姫様。可愛いから頬にキスを一つ落とせばすっかり大人しくなってしまった。
「体冷やすと怒られるぞ」
「やっぱ聞いてたよね……!? 」
「お前の兄ちゃんにだよ」
……下ろして」
「やーだね! 」
俺を誘わなかった罰だ!と笑えばごめんって!と互いに笑いあった。




『ツバキを頼んだ』
真面目で誠実で優しかったとあの兄妹が評価する好青年。話に聞いていた通りだった。

いつ消えてしまうか分からない記憶の残滓でしかない俺に任せるなんて、とは思ったがかく言う俺もツバキを守りたいという気持ちが日々膨らんでいく。

俺はツバキの騎士にも王子にもなれない。

それでも、あの時二度と離れたくない、離したくないと思った気持ちは本当だから。

いつか本当の別れがくるその時までは──……