haruon1018
2026-05-22 09:50:18
2132文字
Public infernal hero (ヘクマン)
 

ビター&シュガー

新刊のおまけSSのような内容
本編よりは殺伐としてないけどまだくっ付いてない二人です。

 マンドリカルドの朝は早い。
 泣く子も黙るアウトレイジ『トロイア』の顧問であるヘクトールの護衛になって半年が経つ。
 一口に護衛と言っても雇い主によって仕事内容は様々だ。
 あくまでビジネスパートナーとして必要なときにしか呼ばない主従関係を持つ者もいれば、マンドリカルドのように朝から晩まで仕事させられる人間もいる。
 だからと言って、今からヘクトールに手渡すブラックコーヒーのように、真っ黒な訳ではない。
 ヘクトールが外出しないとき、すなわち『お仕事』をしないときはヘクトールが借りたマンションの一室にさえいれば、何をしていようがマンドリカルドの自由である。
「ン……珈琲淹れたけど飲む、」
 その日はなんとなく豆から挽いた珈琲が飲みたかったので、ベッドから下りるとすぐにキッチンへと向かっていた。
「おッ気が利くね、丁度飲みたいと思っていたところ、」
 上半身裸でベッドから起き上がったヘクトールにマグカップを渡すと、マンドリカルドはベッドの端に座り、珈琲に口を付ける。
 実家で暮らしていたときにこんな無作法をやれば、雇っていた家庭教師が湿疹を起こしそうだと笑ったのは、別れた彼女だったかマンドリカルド自身だったかもう忘れてしまった。
「ふぅ、目が覚めの一杯にはこいつだな」
「酒でも飲んだみたいな感想だな、」
 珈琲を啜ったヘクトールが息を付くのをみて、マンドリカルドも口を付ける。
(やっぱり苦い)
 珈琲の好みの好みは人それぞれである。甘みのある珈琲が好みな人間、 酸味を求める者、香りにコクとあげればキリがない。
 その中でヘクトールが求めているのは苦みとコクだった。
 マンドリカルドもブラックコーヒーを嗜むがヘクトール好みで用意しすると、味わうよりも先に苦みが口の中を襲う。
 格好は悪いがパリスから貰った、金平糖をつまみながら、味わえば甘さの後に来る苦みを楽しめた。
「良い物持ってるな、オジサンにも一つ頂戴、」
 トレイに置いた皿を差しながらヘクトールが笑う。
「ん、やるよ、と言うか……
 トレイごとヘクトールの方にやったマンドリカルドが、まだヘクトールと半年しか一緒に暮らしてないが、疑問に思っていることを口にした。
「何、」
「パリスはまぁあの見た目だから甘党なのも分かるし、そもそもヘクトール様が暮らしている地域ってすげぇ砂糖を使うのに、なんでブラック飲んでるのかなって」
 トロイアの本拠地がある地域はコーヒーに砂糖を入れる文化が根付いている。
「地域に住んでたからって全員が甘党とか限らないだろ、まぁオジサンが珈琲に求めているのは、どんだけ効率よく頭をシャキッとさせるかだからね」
 糖分も大事だがそれは別で取れば良いと、料理人がいれば刃物が飛んできそうな答えを出してきた。
「へぇ、」
 流石はトロイアの智将と思う反面、淹れた人間としては面白くない答えである。
「だがまぁ、オジサンも歳だからね、甘いもんがあれば口を付けたくなる、
パクリとヘクトールが口に含んだ金平糖の色は白。
たまたま指で取っただけだろうとマンドリカルドが、もう少し欲しいと皿を寄越せと目で訴えれば、ヘクトールがこっちに来いとポンポンと主のいない枕を叩く。
「朝っぱらからなんだよ……
「そんなんじゃねぇって。朝寝の後の行為なんて慣れてなくてねぇ。ましてや受け入れた側から珈琲を貰えるなんてことはなかった」
……嘘つき、」
 トロイアのヘクトールに侍る美女や美男子なら相当いただろうし、何よりこの男には世話をやきたいと思う何かがある。
(まぁ本人が世話好きなんだから、淹れた珈琲なんて飲んだことがなかったのか)
「本当だって、ピロトークの後にお強請りばかりするヤツばっかりだったから」
「それはオッサ……ヘクトール様がそういうやつしか相手にしなかっただけじゃねぇンすか」
「そうとも言う、けどお前さんは違うだろ、」
 ンとマンドリカルドを射貫く瞳が妙に輝いて見えたマンドリカルドは一気に珈琲を飲み干す。
「あとで手稽古付けてくれたらって我が儘を言っても、今日こそ首取る」
「可愛いお強請りだ、でもその前に、」
 枕の前に座り直したマンドリカルドが、ヘクトールの瞳に耐えきれず悪態をついても、ヘクトールの方が一枚上手だった。
「そういうつもりじゃなかったのかよ、」
 マンドリカルドの掌の上に手を重ねたヘクトールは意味ありげな手の動きをする
「今なった、随分と慣れてきたねぇ」
「オッサンより先に起きられるくらいには、そのうちアンタの寝首を掻くかもしれねぇぜ」
「こっちは加減してやったってのが分かんないかね、でもまぁ」
 折角お前さんが淹れてくれたコーヒーを味わってからでも遅くないとヘクトールは言葉を続ける。
「手稽古ってなら珈琲を飲んでいる間に、オジサンの手から逃れてみろ、そうしたら何にもしねぇよ、」
 旨いブレックファーストでも食いに行こうというヘクトールに、逃れてやると動かしたが片手一本でもヘクトールに敵わなかったマンドリカルドはベッドの中に閉じ込められ、苦く甘い経験をした後に、夕刻に甘い甘いカフェオレを飲んでいたのだった。