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Ykanokawa
2026-05-22 01:57:34
7789文字
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クリテメ
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【オクトラⅡクリテメ】雲の上は晴れているもの
・pixiv掲載「君とあなたの廻り道」
https://www.pixiv.net/novel/series/15590322
・こぼれ話その2 本編その後の小話(本編を読了済みでないと不明な設定があります)
・初雪の夜を過ごす二人
・現パロの国柄や世界観は雰囲気
以上を承知の方のみお通りください。自衛ご注意。
「明日は雪だーっ!!」
オーシュットの雄叫びを、クリックは夕飯後の皿洗いをしながら聞いていた。彼女が真ん前を陣取っているテレビには、天気予報の画面が映っている。文字の読み書きが苦手な彼女も、地図上に表示されるポップな天気マークは読み取れる。
少しだけ身を乗り出してみると、確かに雪の結晶を模したマークがくるくると回っていた。
楓の季節が終わり、各部屋にはたっぷり日に当てた冬用の厚い毛布が運び入れられている。このシェアハウスに来てから感謝することばかりだが、これだけ細やかな配慮がされるのも有り難い。素直でない家主は「冬用の寝具は高価ですからね」と澄ました顔をしていたけれど。
「ということは、今夜は冷え込むな」
クリックから食器を受け取り、クロスで水気を拭き取っていたヒカリが呟く。喜色満面のオーシュットとは対照的に、彼は雪による気温の低下を歓迎できないらしい。そういえば、彼は砂漠地帯の出身だった。いつだか、故郷の気候について語っていたことがある。砂漠の真昼は灼けつくように暑いが、夜の冷え込みは尋常ではないのだとか。
「雪かぁ。寒いのは苦手だけど、雪は楽しみだね」
アグネアがココアのマグカップを両手に包みながら言う。声がやや楽しげだ。彼女の故郷も温暖で雪は降らないと聞いた。滅多に見られない雪は、彼女にとって心が踊るものなのだろう。
アグネアの傍ににじり寄ったオーシュットが、こてん、と首を傾げる。
「雪ってアイスクリームより早く融けちゃうんだよね? そんなに融けちゃうなら、みんな、雪だるまとか雪合戦なとかどうやってやってるの?」
オーシュットは今年、このシェアハウスに入居したばかりの南国育ちだ。アグネア以上に雪と縁がない。
ふふ、と肩を震わせたアグネアがスマートフォンを手にして、二人で画面を覗き込む。一瞬だけ白い景色が見えたので、雪の写真か動画を共有しているのだろう。オーシュットの丸い目がきらきらと輝き出す。
最後のコップを拭き終えたヒカリが、ふと気がついたようにクリックを見た。
「クリックは、雪はどうなのだろうか?」
「雪、ですか」
両手をタオルで拭いつつ唸る。今の世の故郷では、積もらない程度に降っていた。だから馴染みがないことはない。代わりに特別な感慨もない。雪、と聞いたときに蘇るのは、やはり遥か遠く、あの頃に住まいとしていた吹雪の町だ。
春も夏も短く、日はほとんど差さない。一年を通して分厚い雲が町を覆っている。大半の同僚は雪など見飽きたと言っていた気がする。否。見飽きた、というだけならばマシな方かもしれない。何せ、雪に纏わる諸々は騎士にとっては訓練だった。
機関本部や町中の雪かきで体力をつけ、寒々しい町と雪道にある発掘現場を警邏し、雪中で魔物を待ち構える耐久訓練を行う。うんざりだと愚痴を吐く者も多かった。我慢強い方であったクリックですら、曇天の切れ間を探して日差しを望んだことがある。
強くなれたのは間違いなく雪のおかげだが、同時に大敵と表現しても正しい気がする。
「嫌いではありませんが
……
。雪の積もるところに住んでいたことがあるので、雪かきは大変だと感じますね
……
」
いろいろと思い返していたら、変に神妙な声になってしまった。ふむ、とひとつ頷いたヒカリに背中を叩かれる。
「ならば、今年は積もっても安心だな。男手が一人いるから、快く近所も手伝える」
「ああ、なるほど
……
。そうですね。もちろん、お手伝いします」
会得して頷きを返した。シェアハウスの敷地はこの人数が同居できるだけあってそこそこ広い。加えてこの近辺には隣家を始めとして、いい歳をしたご老人がいる。雪が降るとなったら、若い働き手はいくらあっても困らないのだろう。
幸い、力なら有り余っている。この辺りの雪はあの吹雪の町ほどひどくはないだろうし。
――
あの人は。
どうなのだろうか。雪が降るとなったら。
リビングにいない恋人の姿を探してしまう。あの人は平熱が低い。夜の冷え込みは大丈夫だろうか。指先や足先が冷たいときがあるから、湯たんぽか何かがあればいいのだけれど。寝る前にエイル調剤薬局の
薬草茶
ハーブティー
か、ホットミルクでも。
そこまで思考を巡らせたとき、洗面所のドアから当の恋人が顔を出した。
「お風呂が沸きましたよ。オーシュット、アグネア君、先に入ってしまってください」
はーい、と二人分の声が唱和する。女性二人が一番風呂、というのはハウス内の暗黙の了解である。
自室に向かう女性陣を見送り、テメノスがテレビに目を向ける。画面は天気予報のまま、ニュースキャスターが夜中の冷え込みと初雪について触れていた。唇が閉じられ、長い睫毛が伏せられる。その振る舞いから、雪を好いていないことは察せられた。
「テメノス、明日は雪が降るそうだが朝はどうする?」
――
?
クリックの隣からヒカリが声をかけた。どうする、とはなんのことだろう。何かあるのだろうか。
問い質したい気持ちを抑えて見守っていると、不意に翡翠の瞳と目が合った。何かを問いかけているでもなく、訴えかけられているでもない。ちらりと目を向けられただけ。それだけのことだったが、直後にきゅ、と結ばれた唇の血色が妙に気にかかった。
「
……
遅くに起きますので、朝食は取って置いてもらえると」
「そうか。承知した」
謎が深まった。テメノスは予定がなくとも朝にしっかり目を覚ます質だ。未だにクリックは彼より先に起きられた試しがない。それが遅くに起きるという。気象病、というのなら雪に限った話ではないだろうし。
首を捻っていると、テメノスが曖昧に淡く笑う。
「こう見えて寒いのは苦手なんですよ。雪が降る日はなかなか起き上がれなくてね。初雪の時期は昼頃まで自室で過ごしているんです」
「そう、なんですか?」
「ええ、恥ずかしながら」
初雪の時期に。昼まで自室で。
寒いのが苦手、というのはなくもないかもしれない。あの頃のテメノスなら、特に寒がりというわけではなかったはずだけれども。彼が暮らしていた聖火教会の本部がある町は、山間から吹く風が冷たい冷涼な気候だった。夜ともなるとそれなりに寒かった。
だが、あの頃のテメノスと今の世のテメノスとは違う。薪と暖炉が欠かせなかったあの頃と違って、暖房器具も充実しているし、防寒着の温かさだって段違いだ。その快適さに馴れてしまったなら、というのはあり得なくはない。
――
でも。
何かが、引っ掛かった。
テメノスとヒカリは明日の朝食について話している。明日の朝食当番はヒカリだ。後から温めて食べやすいものにするらしい。テメノスが丁寧に礼を述べている。その横顔がどうにも、曇っているような気がして仕方がない。
ぱちり、とまた目が合った。今度はにこりと平素と変わらない笑みを浮かべて。
「では、アグネア君たちが上がったら、君たちも入ってしまってください。私は最後にいただきますから」
白い指がリモコンを拾い上げ、テレビの電源を落とす。雪の結晶マークが画面から消える。吐いた息にほのかに安堵が混じっている。
仕事を片付けてきます、と言い残し、彼は階段を昇っていってしまった。その背が見えなくなってから、クリックはヒカリに声をかけた。
「あの、テメノスさんは雪の時期にいつも
……
?」
「ああ。俺は三年間、ここで過ごしているが、初雪のときはあの通りだ。
……
寒いのが苦手、という言い方をしてはいるが、実のところ雪が好きではないんだろう。理由はわからないが」
「何故、そう思われるので?」
「簡単な話だ。昨年はほぼ雪が降らなかったんだが、寒さは変わらなかった。そのときは、ああいったことがなかった」
「そう、なんですか
……
」
寒さではなく、雪が苦手。雪の日は起きてくるのが遅くなる。
「
……
」
断言はできない。テメノス本人から何かを聞いたわけではないから。だが、放っておけるかと言われたら、できるはずもない。〝物語〟のクリック・ウェルズリーも、今の彼の恋人としてのクリックも。
「あの、ヒカリさん。お願いがあるのですが
……
」
「うん?」
ヒカリに頼み事を口にすると、快く頷いてくれた。何故か、と訊かれるか身構えたが、彼は何も言わずに目元を和らげただけだった。
……
一応、クリックもテメノスも〝そういう関係〟になったということは隠している、はずだ。だが、ときどき薄っすらと隠せているのかどうか不安になる。
――
避けられたりはしないから、それは有難いけど。
とりあえずはテメノスだ。ヒカリに二番風呂を譲り、椅子に腰を下ろしたクリックはスマートフォンを取り出した。今の時代は便利なもので、指一本あれば誰でも密やかに伝言を送ることができる。いつの世も便利なものは悪用されがち、というのが悲しいことだけれど。
メッセージアプリを起動し、白い猫のアイコンを探す。かつては蔑称として〝犬〟などと呼ばれていた彼だが、付き合いが深まるほど、あの人は猫だと思う。気紛れであるし、ふらりとどこに行ってしまうかもわからないし。
――
うん、どこかに行ってもらっても困るから。
これが杞憂だとしても、こうするのが正解なのだと思う。あの人が勝手に設定した羊のアイコンが、ぽこん、と可愛らしい音を鳴らしてメッセージを吐き出した。
『今夜、部屋にお邪魔してよろしいですか?』
温めたミルクをポットに注ぐ。茶葉が漂い、紅茶と干しブドウの甘い香りが鼻先を包む。直接、ミルクで茶葉を蒸らす淹れ方は、贅沢な気分になる。反面、ちょっとした罪悪感がある。しかし、冷え込む真夜中に大事な人へ差し入れるものだ。それくらいの特別感があっていい。
砂時計をひっくり返してから、トレイを両手で持ち上げる。微かにかちゃり、と茶器が鳴ってしまった。思わずハウス内の気配を探ってしまう。が、誰かを起こしてしまった様子はない。
ほっと息を吐き、キッチンの照明を落とす。そろり、そろり、と忍び足で階段を昇る。それでも古い階段は静かに軋んでしまうのだが。二階の薄暗い廊下に、彼の寝室から橙色灯の光が漏れていた。起きて待っていてくれたようだ。弾む心裡を抑えてドアへと向かう。
ドアの前に立ってから、はたと気がついた。両手が塞がってしまっている。開いているからといって、まさか足で開けるわけにもいかないし。どうしたものか。思案したところで、内側からドアが開いた。
薄闇の中で、二つの澄んだ翡翠の宝石がうつくしく煌めく。
「
……
いらっしゃい」
「お邪魔します」
緊張の滲む硬い声音だ。珍しい。でも、服装を見てやはり寒さに弱いというのは嘘なのだとわかった。生地の厚い寝間着を纏っているし、上着も羽織っている。が、室内履きに収まっている足は裸足だ。
クリックが部屋に入ると、テメノスはドアを閉めて錠前を落としてしまう。かちり、と響いた音に胸の辺りがむず痒く疼く。こっそりと固唾を飲み込み、深呼吸をする。まだ早い、と口に出さずに三回ほど唱える。この身体は些細なことで勝手に何かを期待するから困る。
トレイがテーブルに置かれるのを見たテメノスは、ぽふん、とベッドに腰掛けた。初めての構図ではないのに、邪な妄想が過りそうになって振り払う。
砂時計は落ち切っていた。ポットを持ち上げカップへと中身を注ぐ。持ちながら話ができるよう、底の深いマグカップにしたから、優雅さには欠けるけれど。とぷり、と茶褐色の優しい色がカップの中で揺れる。冷え込んだ夜半の部屋に、香ばしいレーズンとミルクの甘い芳香が広がった。
二杯分のミルクティーを淹れる間、テメノスは何やら、じい、とこちらを注視していた。
「
……
あの、何か?」
「いえ。君がそうしてお茶を淹れるところを見るのは、新鮮だなと」
「何度も淹れているとは思うのですが
……
」
「君が言い出して、君がお茶を淹れてくれるのは、新鮮です」
言われてみればそうかもしれない。ハウスの食卓でお茶を淹れることは何度もしてきたけれど、この二人きりのお茶会でクリックが茶を淹れる、という機会はあまりなかった。
彼に押し付けていたつもりはないのだが。こうして正式に恋人となる前は、クリックはどうしても受動的であったし、誘われたときには大方の準備が整っていたのもある。小狡いことを言えば、楽しそうに自分のために茶を用意してくれる彼の姿を見て、浸っていた部分も、ある、気がする。
「
……
今度からは、僕が淹れます」
「フフ。そこまで律儀になることはありませんよ。たまに、お願いするのも悪くないなとは思いますが」
「でも」
「だって、あれは私がそうしたいんだもの。だから、ね?」
私の楽しみを奪わないで?
そんなふうに屈託なく微笑まれてしまったら、何も言えない。
熱が集まりかける頬を引き締めて、カップを置く。青いマグカップを彼に手渡し、椅子に掛けようとしたところで袖を引かれた。
「こっち」
目線でベッドの隣を示される。さすがに目が泳いだ。何度も言っているがクリックは至って健康体の男なのだ。このうつくしい造作をした人は、いつまでも自覚も理解もしてくれない。どうにも、動けないでいると、ぽつりと声が落ちる。
「君は、寒い、というのが、嘘だと思ったから来てくれたんでしょう?」
「
……
」
クリックが座ると、一人用のベッドはやっぱり、ぎしり、と軋んで沈み込む。テメノスの身体が傾いてきたので、カップを持つ手をやや上に挙げて受け止めた。丸っこくて小さい彼の頭が首元に寄せられて、さらりと揺れる銀糸が頬をくすぐる。一口、ミルクティーを啜る。おいしい、と幼げなテノールが零れる。唇の色が綺麗な珊瑚の色になった。数秒、無言で目を閉じる。
もうクリックだって気づいている。ここに来て、初めて抱擁されたときも、時折、背中や胸元に寄りかかられたときも。あれは恋人としての触れ合いを求めていたんじゃない。彼は、確かめていただけだ。
クリックの体温と、血の流れと、心臓の音を。きちんとそこにあって然るべきものを。
そんな彼が、雪の日はなかなか起きて来られない。
これは、何だか自惚れのように聞こえてしまうのだけれども。
〝聖堂騎士クリック・ウェルズリー〟が死んだのは、寒く、凍えるような、吹雪の夜だったのだ。
「
……
別に、ね。どうしても、何かダメになってしまう、というわけではないんですけど」
カップの縁を食み、子猫のようにミルクティーを舐める。
「嫌な夢を、見ることが多くて。目が覚めても、どこまでが夢で、どこまでが現実だったか。整理をする時間が必要で。今年は大丈夫じゃないかな、と、思ったんですけど、ね」
歯切れ悪く、ぽつぽつと紡いで零していく。あの一時、こちらを見た視線はそういうことだったらしい。
室内履きから素足を抜いたテメノスが、ちょい、と足先でクリックの足に触れてくる。その足先が冷たいものだから、クリックも室内履きを脱いで、自分の足を添わせた。両足で挟み込むと、じんわり熱が移っていく。子ども体温と揶揄される平熱も、こうしてみれば役に立つものだ。
三分の二ほど干したカップを、テメノスがテーブルへ戻した。両手が顔に伸びてくる。くしゃくしゃと纏まりのないクリックの巻き毛を遊び、熱っぽい耳殻の形をなぞって、そうっと両頬を包む。透明な翡翠の眼差しがクリックを見つめてくる。
意図を察してクリックもカップを置いた。顔を傾けると、翡翠の瞳がそっと睫毛を下ろしていく。
甘い呼気が唇に触れる。軽く触れ合って、互いの熱と柔らかさを味わって、ほんの少しだけ下唇を食んで吸う。
「ん
……
」
ひくり、と細い肩が震えた。手を伸ばし、宥めるように両腕を擦り、背に回す。クリックの胸元に縋っていた手が、おずおずと首の後ろを撫でて結ばれる。
このうつくしい人の唇が、こんなに甘くて温かいなんて、聖堂騎士クリック・ウェルズリーは知らなかった。たぶん、意地悪で不信心なことばかりを言う、よくよく回る口だなぁ、と。そんなことしか知らなかった。
でも、それはテメノスとて同じだ。彼は、彼の人は、クリックが淹れるミルクティーの味なんて知らなかったし、聖職者らしからぬ欲深いところなんて考えもしなかったと思う。
だからこそ、知って欲しかった。
悪夢を見るのは避けられない。クリックも、テメノスも、互いに互いを傷つけたから、聖火にこの記憶を焼かれずにいた。今さらその傷を否定するのは違う。懸けた想いを忘れるなんてできない。なら、目が覚めたとき、せめて悪夢に囚われず現実はこちらなのだと手を引けるように。
「
……
ふ、はぁ」
唇を離すとテメノスは肩を揺らして、大きく息を吸う。キスの息継ぎが上手くないことも、最近、知ったことだ。鼻先と、丸い額と、それぞれ触れるだけの口づけをして抱擁を解く。これ以上はやめられなくなりそうだ。
こつり、と額をくっつける。瞳が重なる。目尻がほんのり赤い。
「来年も、雪が降ったら僕がミルクティーを淹れます」
「
……
本当?」
「カモミールティーでもいいですけど」
「
……
ううん、ミルクティーがいい」
「そうですか?」
「その方が、君らしく感じる」
つまり、甘くて子どもっぽいということだろうか。
密かに落ち込んでいると、フフ、と笑った彼に髪を撫ぜられた。
「私は、子どもにこんなに甘えませんし、こんなキスもしませんよ」
二人でカップを干して、隣に寝転がる。後片付けは明日の自分たちの仕事だ。
「眠れそうですか?」
「ううん、まだ寝たくない」
「
……
不真面目というより、なんだか我儘になりましたね」
「おや。そうですか?」
「はい。その方がテメノスさん、という感じがするのでいいんですけど」
「君、昔からそういうところがありますよね」
「お嫌いですか?」
「まさか」
毛布に包まりながら二人で笑い合う。緊張も強張りも解けて、空気が緩んでいる。相変わらず二人で共寝するには狭いし、どくどく鳴っている心音もきっと丸聞こえだ。でも、触れ合う足先はぽかぽかしているし、繋いだ手を握ると握り返してくれる。
「テメノスさん。眠れないのなら、また、何かお話を聞きたいです」
「君は昔話が好きですね」
「だって、知らない話ばかりが出てくるから。聞きたくなりますよ」
「フフ。では、そうですね。難しい病気で治療を諦めかけた女の子が、何を望んで希望を取り戻したか、お話ししましょう」
もう外では雪が降り始めていたけれど、毛布の中は幸せで温かかった。
「ふあああ、雪だーっ! 本当にまっしろだー!」
「あ、オーシュット! 庭に出るのはご飯を食べて、ちゃんとあったかくしてからだってば!
……
あれ、ヒカリくん、クリックさんの分は?」
「ああ。後ほど、テメノスと食べるから取って置いてほしい、と頼まれた」
「テメノスとクリックのあんちゃん、仲良しだなー」
「そうだな。早く仲良しだと明かしてくれたらいいんだが」
「そうだよねー」
「うん???」
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