平熱
2026-05-21 23:29:53
1024文字
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afterimage(りょうたんのこと)

⚠️本編後軸、特2の職場環境など捏造
以前別アカウントに画像形式で投稿したSSをベースにしている部分があります
誕生日おめでとう!

 イカの心臓は三つある。
 いつどこでその小学生レベルの雑学を知ったのかは忘れたが、この銀行に連れてこられてからときどき思い出すようになった。
 頭に酸素が回っていない気がして大きく息を吸い込むと、こめかみがずきずきする。今が昼なのか、夜なのか、そもそも今いる場所が日本のどこなのかもよくわかっていないが、こういう体調のときは大抵もうすぐ日付が変わる頃だ。
 オレの人生にはきっと金とやわらかな女の子が必要で、あの頃はもっと遅い時間まで遊んでいたって平気だったはずだ。でも、途絶えない通知や、甘い酒で酩酊する感覚、目覚めたときに誰かが隣にいてくれることがなくなっても、夜や——朝を、繰り返している。
 考えるのをやめたら死ぬ、文字通り。考えても主任の理想に届かなかったら死ぬ。
 過酷な環境と不謹慎なくらい個性的な同僚は、ものすごいストレスでありながら、悲しみに浸る時間から守ってくれるようでもあった。全部を失ったというのに。
 落としてないメイクで睫毛が重い。リテイクの書き込みが頭に入らない。こういうときは下手に粘らず、強制的に気分を切り替える方が良いとわかってきた。
 一人で給湯室に向かうと、冷蔵庫に付箋が貼ってあるのを見つけた。
『りょうたん江♡ ココに注目↓』
「は? 何コレ……
 名指しされていることが不気味で素直に冷凍室の扉を引いた。
 中にはピノがあり、また付箋が貼ってある。今度は大きいサイズだ。
『誕生日おめでとう!』
「あ……
 そのびっくりマークの書き方は、企画会議のホワイトボードや動画で使うフリップで何度も見たことがあるものだった。
 社内スマホを取り出すと、あと数分で二十一日になるところで、オレは立ち尽くしたまま、忙しさで蓋をしていた感情に攫われそうになる。
 忘れていたわけではない。ただ、もう祝われることなんてないと思っていた。
 四人それぞれが書いたらしい一言が後に続けられている。でも仕事に戻れなくなるとわかっているから、ぎゅっと強くつぶって、熱くなった目が落ち着くまで一旦待った。
……てか同じ部屋にいるんだから声かけろよ」
 強がって呟いたひとりごとはダサい鼻声でくぐもっていて、あー、やっぱまだ胸の中がうるさい。日付が変わるまでのあと少しだけ、この気持ちをしまわないでいたい。
 震えそうな喉が痛いから、今ピノを食べるのは理にかなってるはず。付箋を丁寧に剥がして箱を開ける。……あ、星。