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okanon
2026-05-21 22:41:29
5910文字
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モスファイ
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海に沈む夏空①【🍷☀️】
学パロモスファイ
少しずつ増えてきた半袖の制服を着る生徒、不意に香る制汗剤の香り、開け放たれた窓から入り込む風。夏の訪れを感じる教室で、モーディスは一人、頬杖をついて青空を見上げていた。
海に沈む夏空
(一)
長方形に並んだ机から一つ飛び出た席、窓際にあるそこは激しいジャンケン大会の末モーディスが勝ち取った特等席だ。隣に人がいないため落ち着いて授業を受けられるし、本を読むにもちょうどいい。何よりこの席から見える青空がモーディスは特に気に入っていていた。
……
だというのに、今はその席の隣になぜか新しく机が置かれていた。
「はよー、モーディ
……
あ!新しい席!こないだ先生が言ってた"転校生"のかな?」
「だろうな
……
」
声をかけてきたクラスメイトは、どこか渋い顔をするモーディスを見て苦笑いを浮かべた。
「前々から言われてたことだし、新しく席を用意するならここしかないだろ。そんな顔するなよ!」
そう言って彼はモーディスの肩を叩くと、「今日もあちー」と言いながら別の友人達の元へと向かって行った。取り残されたモーディスは席に座り直し、朝のホームルームが始まるまでと本を開いた。
ほとんどの生徒が登校して教室の中も賑わってきた頃、チャイムがなると同時に担任が教室の中へ入ってきた。
「ホームルーム始めるぞー。ほら、早く席に着けー
……
よし、じゃあ今日の連絡事項
……
の前に。みんな気づいていると思うが、今日から転校生がうちのクラスに来ます!」
"転校生"の単語に教室は盛り上がり、男か女で盛り上がる生徒もいれば、「イケメンかなー」などと期待している生徒もいる。どうにか騒ぐ生徒を落ち着けた担任は扉の方を見て、頷いた。
「今日から勉学を共にする仲間だ。仲良くな」
その台詞が合図だったのか、教室の扉がゆっくり開き、一人の生徒が教室に入る。
太陽光を反射させながらなびく白髪、スラリと伸びた背に白い肌、そして青空を思わせるような澄んだ瞳。
教室の誰もが、息を呑んだ。
「
……
転校してきた、ファイノンです。よろしく」
担任が彼の紹介をしている間、モーディスはファイノンから何故か目が離せなかった。彼
……
というより、彼の瞳にだろうか。頭ではないどこかで、彼の名と姿に無いはずの記憶が揺さぶれる。その感覚にモーディスは静かに戸惑っていた。
担任がファイノンに席を説明していると、自然と彼の視線がこちらに向けられ、教室を見渡していた彼と目が合う。その時、彼の瞳が揺れた気がして
……
次の瞬間、彼はふいと顔を逸らしていた。
「
……
は?」
別に何かしら反応が欲しいと思っていた訳では無いが、今のは明らかに目を逸らされた。そう感じたモーディスが隣の席に着いたファイノンに何か言おうとしたが、彼はモーディスの方を見向きもせず、前の席の生徒とすぐ話し始めてしまった。
……
まぁ、無理にこちらから話しかけなくても、面倒事が減るならそれでいいだろう。
そう自分を納得させ、モーディスは担任の連絡事項へと耳を傾けた。
視線を感じる。
普段と変わらず授業を受けている間も、次の授業の準備をする休憩時間の間も、モーディスはチラチラと隣から感じる視線に辟易としていた。
午前中の授業が終わり、生徒が各々自由に過ごす昼休み。相変わらず隣の転校生がこちらを見ている。朝はそちらから目を逸らしたというのに、その不可解な様子にため息をついたモーディスは、見上げていた空から目を離し転校生の方を向いた。
「
……
用があるなら声をかけたらどうだ」
「えっ!?あ、いや、その
……
」
盗み見していたのを気づかれていないと思っていたのだろうか、目の合った彼はやけに狼狽えていた。視線を彷徨わせながら、気まずそうに話しかける。
「そ、空を見るのが好きなのかい
……
?」
「
……
何?」
「ほら、休憩時間も今も、暇さえあれば窓の外を見ているだろ?」
「ああ、それは昔からの習慣で
……
特に理由はない」
「そう
……
」
二人の間に、静かな風が吹く。意図しない空気に気まずくなったモーディスは、一度咳払いをした。
「
……
無理に話す必要は無い。クラスメイトとはいえ、好ましく思わない相手と無理に付き合う必要は無いからな」
「
……
えっ!?僕、君に何かした
……
!?」
「?貴様が俺と距離を取りたいのだろう?」
互いにピンと来ていない様子に、何かがおかしいと気づいたモーディスは今朝の事をファイノンに話した。目を逸らしたことについて言及していくうちに、ファイノンはだんだん申し訳なさそうな表情になっていった。
「あぁ
……
ごめん、そういうつもりはなかったんだ。その
……
」
「さっきからなんだ。歯切れが悪いぞ」
「
……
昔の知り合いに似てて」
「
……
は?」
思ってもいなかった回答に拍子抜けしたモーディスの顔を見て、ファイノンは「変な事言ってるのは分かってるんだ!」と慌てて付け足した。
「他の人を重ねて、勝手に一人で気まずくなってたんだ。不快に思わせて悪かったよ」
「いや、その事についてはあまり気にしていなかったから、悪く思わなくていい」
「
……
へぇ、気にしてなかったんだ。わざわざ話題に持ち出したのに?」
「
……
昼休みが終わるぞ」
わざとらしく話を逸らしたモーディスにファイノンは笑い、モーディスの方へと手を差し出した。
「改めて、隣の席のファイノンだ。よろしく」
「
……
モーディスだ。これも何かの縁だろう」
転校生も意外と悪くない。そう思って握り返した手はポカポカと温かく、何故かモーディスの手に馴染んだ。
(二)
あれからファイノンとモーディスは仲を深めた
……
という訳もなく、見た目と人当たりの良さから一気にクラスの人気者となったファイノンは、毎日あちらこちらから引っ張りだこになっていた。
朝登校したら挨拶を交し、授業で指示されたら隣の席同士話し合いをし、帰る時は軽く挨拶を交わす。そんな静かな日々が二人の間で穏やかに過ぎていった。
——
穏やかだったからこそ、その日の違和感にモーディスは気づいたのだろう。
「
……
ファイノン、今日も部活の助っ人か?」
「あぁ、モーディス。そうそう、バレー部で休みの人が出たみたいで
……
対戦形式の練習をするのに手伝いがほしいんだって。ここのバレー部、部員数が少ないみたいだから
……
」
そう言っていつも通り話すファイノンの顔を見ると、額に薄らと汗が滲み出ていた。教室のクーラーは先日稼働しだしたばかりで、室内は少し寒いくらいだというのに。
「?
……
汗をかいているが、クーラーが効いていないのか」
「え?あ、あー
……
そうかも。ここの席、あまり風が当たらなくてね。それで
……
それじゃあ僕、もう行くから!」
「ああ
……
」
急ぐように会話を切り上げ、ファイノンは教室を出て行ってしまった。彼の背中を見送りながら、近くにいた女子生徒の会話が耳に入る。
「うわっ、この席寒っ!」
「クーラーの風、直撃じゃん」
「次席替えする時は、この席は避けた方がいいかもねー」
違和感を拭いきれなかったモーディスは、バレー部の助っ人をしているファイノンをひと目見ようと体育館へ足を運んだ。開け放たれた扉から中を覗き込み、熱気を含んだ空気に眉をしかめながらコートの方に目を向ける。
……
しかし、いくら探してもあの目立つ白髪はどこにも見当たらなかった。
不思議に思っていると、バレー部の中の知ってる顔
——
クラスメイトの一人がモーディスに気づき扉の方へと駆け寄ってきた。
「モーディスじゃないか!体育館に来るなんて珍しいな。どうかしたか?」
「助っ人でファイノンがここにいると聞いてな。
……
いないのか?」
「あー、なんか外せない用事ができたみたいで、すぐ帰っちゃったんだよ」
「用事?」
先程までバレー部の助っ人をする気満々の様子だったのに
……
この数分で事情が変わることなんて無いとは言いきれないが、それでも違和感の方が勝つ。
クラスメイトに礼を言うと、モーディスは体育館を離れ、校内を探してみようと歩き出した。
積み重なった小さな違和感は、もう無視ができないほど膨れ上がっていた。
「ファイノン?あぁ、白髪の男子だよね。うーん、見てないなー
……
目立つから、帰ってたら気づくと思うんだけど」
クラスメイトが言っていた通り、すでに帰ったのかもしれないと思ったモーディスは、校門近くで練習していた吹奏楽部に声をかけた。しかし、何人かに声をかけてもファイノンが校門から出た様子を見た人は誰もいなかった。その後も校内中歩き回ったが、ファイノンの姿もなければ見かけた人すらいなかった。
風がよく通る階段に腰をかけ、モーディスは一息ついていた。歩き回った体は火照り、滲み出た汗が風で冷やされ心地がいい。静かに目を閉じ、頭の中で校内図を広げて行っていない場所を探していく。
ここまで探しても見つからないということは、ファイノンは人目を避けて移動したに違いない。残された場所から、さらに人気の少ない場所へ絞っていく。
顔を上げ、ゆっくりと目を開き
…
視界に入った階段を見て、はたと気づく。
「
……
屋上への階段か」
この学校では屋上への出入りは禁止されており、そこへ繋がる階段に近づく生徒はあまりいない。大体の目星がついたモーディスは、重くなりかけた腰を上げ、ファイノンの元へと急いだ。
これまで感じていた違和感は今、モーディスの中で嫌な予感へと変わっていた
頭が痛い。体が熱い。
今はもう慣れてきってしまった身体の不調をギュッと両腕で抱きしめ、治まるのをただひたすら待つ。大丈夫、何も問題はないから。誰かに心配をかけるほどの事じゃない。
——
そう、思っていたのに。
「
……
ファイノン?」
突然名を呼ばれ、肩をビクッと震わせたファイノンは、慌てて顔を上げる。そこにはなぜか、目を見開き驚いた様子のモーディスが立っていた。
彼を見つめ返すファイノンの瞳は金色が混じり、真っ白だった白髪は毛先が金色に染まり始めていた。
「モーディス
……
?君、どうして
……
」
「教室での様子が気になったから、探していたんだ。
……
体調が優れないのか」
そう言ってファイノンの前にしゃがみこみ、そっと額に手を当てる。手のひらから伝わる熱は通常の人よりもずっと熱く、色の違う髪は汗で肌に張り付いている。
「
……
熱いな。熱が出ているのに何故こんな所にいるんだ。それにその髪
……
」
モーディスが髪のことに触れた途端、ファイノンの熱で赤くなった頬から色が消えていき慌てて隠すように毛先を手で覆った。
「な、なんでもないんだ!ほんと、平気だから
……
今は放っておいてくれないか」
「
……
」
顔を背け、目を合わせようともしない彼にモーディスは溜息をつき、カバンからタオルを取りだした。タオルをファイノンの頭に被せると、近くにあったファイノンの鞄を手に取った。
「ちょ、何して
……
!」
「保健室に行くぞ。歩けるか」
「ほ、ほっといてくれって言ったじゃないか!」
「聞いたが、病人をこんな所に置いていけるわけないだろ。
……
歩かないなら、抱えて行くぞ」
「なっ
……
!」
有無を言わせない態度に観念したファイノンは、少しふらつきながらもゆっくりと立ち上がった。
「無理はするな、ファイノン」
「無理してでも歩くよ。この歳で、同級生に抱えられたくないからね」
日が傾き始め、窓から日が差し込む保健室。窓の外からはグラウンドで練習をしている野球部の声と、ボールを打つ音が聞こえてくきていた。
ちょうど養護教諭は席を外しており、モーディスはファイノンを窓際のベッドへ寝かせた。棚の中から清潔そうな布巾を手に取り、水で濡らしてしっかりと絞る。
「気休め程度だが、少しでも冷やしておけ」
「はは、甲斐甲斐しいね
……
」
「こんな時まで茶化すな」
ファイノンの軽口に呆れながら、冷やした布巾を彼の額に乗せる。窓から時折入る風がカーテンを揺らし、ようやく気が緩んだのかファイノンは深く息を吐いた。
「
……
助かったよ。あそこから動けなくなっていたから、どうしようか困っていたんだ。
……
この髪じゃ、目立ってしまうからね」
そう言ってファイノンの指が髪に少し触れる。よく見ると、先程よりも金色が薄くなっているようだった。
「
……
動けないなら誰か呼べば良かっただろう。熱はすぐ下がるものでもないし、迎えを呼んだほうがいい。その後は病院にでも行って
……
」
「それはダメだ!」
モーディスの話を遮る勢いで起き上がったファイノンは、先ほどまでの落ち着いた表情からは打って変わって、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「ダメなんだ
……
親には、心配かけたくない
……
」
「
……
親は子を心配するものだろう」
「違う、違うんだ
……
」
そう言って俯いてしまったファイノンは、それからしばらく顔も上げず、シーツを握りしめた手をじっと見ていた。
そして、おもむろに口を開く。
「
……
昔からあるんだ、突然熱を出すことが。何度も熱を出して、その度に両親が僕を抱えて病院に行って
……
でも、結局原因は分からなかった。分かっているのは
……
僕だけだ」
「なに
……
?」
ファイノンがモーディスの方を向いたその瞬間、一際強い風が吹き、なびいたカーテンでファイノンの姿が見えなくなる。その白いカーテンの向こうで彼は、どんな表情をしていたのか。風が落ち着いた時にはもう、ファイノンはいつも通りの笑顔で微笑んでいた。
「少し休んだらだいぶ楽になったよ。これ以上酷くなる前に僕は帰るね。また明日、モーディス」
「待て、さっきのはどういう
……
!」
モーディスが問いかける前にファイノンは荷物を持って歩き出してしまい、振り返ることなく扉から出て行ってしまった。
一人保健室に取り残されたモーディスが立ち尽くしていると、入れ替わるように養護教諭が扉から顔を覗かせた。
「あら、怪我でもしたの?何年生?」
「いや
……
、俺は大丈夫です
……
」
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