遊悟
2026-05-21 17:37:23
1168文字
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透明な悪意

遊悟と宿敵(透)の再会

―――すい
 その声で、その言葉名前を発された瞬間、自分の喉がヒュッと鳴ったのを感じた。
 何をされたわけでもない。ただ、捨てた過去の名前で呼ばれただけ。
 ただ、それだけなのに……息は詰まり、冷たい汗が背中を伝い、身体はブルブルと震えだした。
 身体だけでなく、心にまで克明に刻まれたトラウマが、俺の行動を縛り付ける。
 この人に逆らってはいけない・・・・・・・・・・・・・
 この人にはかなわない。もし逆らえば、ひどいこと・・・・・をされる。言うことにただただ従うべきだと、全身が叫んでいる。
「僕は、君をそんなコに育てた憶えはないんだけどな?」
 目の前で、細身の優男が笑っている。
…………とおる、さ、ん……
 あの頃とは違う。
 俺は背丈も伸びて、筋肉もついて、修羅場もいくつも潜り抜け、力をつけてきた。
 そう簡単に負けたりはしないはず。
 なのに。
 なのに……勝てる気がしない。膝を突いてしまいたい。ごめんなさいと、頭を垂れてしまいたい。
 それくらい、この男から負わされたトラウマは深刻だった。
「僕の最高傑作マスターピースが、なぜ正義の味方ごっこ・・・・・・・・なんてしてるのかな?
 君が居るべき場所は警察そこじゃあない。僕のそば犯罪者側だろう?」
「それ、は……
 口がカラカラに渇いて、否定の言葉がうまく紡げない。
 逃げられない。
 そう思った瞬間―――鋭い銀の一閃が、張り詰めた糸を断ち切った。
「なにボサっとしてんだ? 立て、遊悟」
 赤の美丈夫が、俺をかばうようにして立っていた。鋼の義手に、銀に光る太刀やいばを握りしめて。
……夜宵」
「おう、ウチ警察の遊悟に何のようだ?」
 夜宵が、あの人から俺のことを守るように、立ちはだかってくれている。
「遊悟。ああ、そうか、今はそんな名前だったね」
 失念していたよ、と優しい笑顔を崩さぬままに男は、あの人は、言う。
「君は……たしか、天使夜宵くん、だったか」
「なんで俺の名前知ってるんだよ」
 気持ち悪いなとぼやきつつも、夜宵は臨戦態勢を崩さない。
「二対一……いや、三対一、か」
 チラリと、あの人が俺の更に後ろへと視線をやる。振り返ってみれば、そこには、左手で手錠を持った陽が立っていた。
「殺人およびに殺人教唆、殺人幇助……その他諸々の罪で、逮捕します」
 陽の金糸のような髪が、日の光を受けて輝いている。
 陽の右手は、いつでも腰に差した刀が抜けるよう、柄に触れていた。
 その様を見て、あの人は苦笑してみせた。
「史記守くんまで出てこられては、分が悪い。
 しかたない。今日のところは出直すとしよう」
 ―――また日を改めて迎えに来るよ、翠……いや、遊悟。
 そう言って、あの人瞬時に姿を消した√を渡った