なえつき
2026-05-21 16:35:41
1285文字
Public 『うちの上司は情緒がヤバい』
 

安定緒へのお題は『君限定の魔法の言葉』です。

『うちの上司は情緒がヤバい』の2次創作小説です。 お題ひねり出してみた (https://shindanmaker.com/392860) からお借りしました。情ヤバ五周年おめでとうございます。


「えッ、安定先輩、今日お誕生日なんですか!?」

 五月二十日。職場の給湯室でコーヒーを淹れていた私とばったり出くわした後輩ちゃんと二人で雑談を交わしていた平日の昼下がり、なんとなくの話の流れで「ああ、そういえば私、今日誕生日なんだよね」と口にしたのがきっかけだった。
 後輩ちゃんは衝撃からか、手にしていた書類を床に落とした。天変地異を目撃したかのような愕然とした表情で口を半開きにしている後輩ちゃん、そこへカロリーメイトを差し込んでみる私。後輩ちゃんは私に食べされられたカロリーメイトをさくさくと咀嚼し終えると、駄々っ子みたいに両拳をぶんぶんと上下に振る。

「もー! それなら早く言ってくださいよ! いろいろ用意できたのに!」

 地団駄でも踏みそうな勢いで悔しがる後輩ちゃん。私とは違って、感情表現豊かで見ていて面白い。
 誕生日。小さい頃は親に祝ってもらったけど、両親が事故で亡くなってからは、私が生まれた日付なんて何の価値もない日になってしまった。

「誕生日かー、昔はそりゃあケーキとか食べてたけど、今は別にいいかなーって」

 後輩ちゃんと一緒に散らばった書類をかき集めていると、「うー」とか「むー」とか飼い主に構ってもらえない子犬みたいな不満げな唸り声を発していた。後輩ちゃんの頭をくしゃくしゃと撫で回したくなる衝動が湧いてくるけど、さすがにセクハラか、と自重する。

「納得いきませんッ! だって、誕生日はケーキをホールで食べてもいい日なんですよ!? まさか先輩はケーキを食べずに誕生日という今日この日を終えるっていうんですかッ!? そんなのあんまりですよッ!?」
「後輩ちゃんの誕生日への認識ってケーキを暴食する日なの?」
「そうですよッ!」

 あまりにも早い即レス、私でなければ聞き逃しちゃうね。てか後輩ちゃん、誕生日はいつも一人でホールケーキ食べてるの? まじかよ。

「ああもう、まったくしょうがないですねえ! 今日仕事終わったら先輩に真の誕生日ってやつを教えてあげますよッ! 覚悟の準備をしておいてくださいッ!」
「ええー、いや、だからいいって……

 ちょっと暴走気味な後輩ちゃんは私の声は耳に入っていないのか、なにやらスマホでお店の予約などを入れながら給湯室をあとにする。待って、私、今日仕事終わったらホールケーキ食べさせられるの? 吐くよ?
 どうやって後輩ちゃんには諦めてもらおうか悩んでいると、駆け足で給湯室に戻ってきた後輩ちゃんが、純粋無垢な笑顔で、一言。

「安定先輩、お誕生日おめでとうございますッ! 今日も先輩がいてくれて、私、とっても嬉しいです!」

 再び、ぱたぱたと給湯室を出ていく後輩ちゃんに、私は何も言えず、魔法にかかったみたいに硬直していた。淹れたばかりのコーヒーを口にする。あまりにも熱くて火傷しそうだった。

「はぁ……不笠にも付き合ってもらうかぁ……

 後輩ちゃんが言うところの真の誕生日に向けて、万が一のヘルプ要因、もとい道連れにするべく同僚へ連絡を入れつつ、私は現場へと戻るのだった。