ポほ
2026-05-21 00:12:35
4208文字
Public オトメビギナー
 

二人ともどうしたの?

第4話。
りやめの吉田の身長は1年の4月時点で156cmにして、夏休みに160ちょいまで伸びてまた伸びて…というつもりでいたのですが、今回で4月時点で160cmくらいにします
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コン太郎の設定とかも気がついたら変わってるかもしんないです

 入学式の翌日。
 樹は昨日よりも少しだけ軽い足取りで家を出ていた。
(名取さん……今日も話せるといいな)
 コン太郎が消えたかもしれないことについては、全く気にしていなかった。
(宗真も、宗真のままだったし……写真もお母さんに見せられて良かったな)
 スマホを取り出し、昨日撮ってもらった写真を開く。月城家の前で並んで写る、自分と宗真。
 今の身体になった影響なのか、以前より少し背が低くなっている。それでもまだ宗真より5センチ以上は高いのだが、以前より身長差が縮まっていることが、なんだか不思議で……少しだけ感慨深かった。
(男って、中学ですごく背が伸びるって聞いたことあるけど……
 そのうち、宗真が自分より背の高い男の子になる日が来るのだろうか。
(って、俺が女の子のままで想像しちゃった。……何考えてんだ)
 自分で自分にツッコミを入れていると、不意に後ろから声が飛んできた。
「おはよ」
「おはよう。……あれ、なんかあんまり元気ない?」
「やっぱ樹にはバレるかー。今日さ、身体計測だろ?」
「うん……
「今年も、うちのクラスの男子ではオレが一番背ぇ低いんだよ。今からちょっと気が重いっていうかさ〜」
 宗真は、樹と出会った頃から小柄だった。身長は150センチあるかないか程度。それでいて剣道で勝ち続けているのだから、むしろすごいことなのだが。
「剣道もだけど、なんのスポーツやるにしてもフィジカルって大事だろ。こんだけ動いて食べて寝てんだし、もう少し伸びないかね〜」
……
 少しだけ考えてから、樹はぽつりと言った。
「でも、宗真っていつも堂々としてるからかな。身長とか関係なく、私にとっては大きく見えるよ?」
「い、樹……!」
 思わず言葉に詰まる。
(なんでいきなりそういうこと言うんだよ!)
 朝の日差しの中、宗真の耳がじわっと赤くなっていくのを見て、樹はきょとんとしていた。

 女子の身体計測は、体育館の隅をカーテンで区切った簡易スペースで行われていた。
 樹は順番を待ちながら、どこか落ち着かない気持ちで列に並んでいた。
「次、吉田さん」
 呼ばれて測定器の上に立つ。
(156cmか……やっぱ、男の時よりちょっと低くなってるんだ)
 女の子になったあの日、視界が少し低くなった気がしたのは、どうやら思い込みではなかったらしい。
 続いて体重計に乗る。表示された数字を見て、樹は一瞬固まった。
(あれ、身長に比べるとあんまり変わって……?)
 少し考えてから、はっとする。
(む、胸の分だよね!?うん、きっとそう!)
 ひとりで勝手に納得していると、不意に後ろから声が飛んできた。
「樹ちゃん、どうだった? 身長、伸びてた?」
「ひ、ひゃいっ!?」
 思わず変な声が出る。
「えっと、ちょっと縮ん……いや、き、去年よりは伸びてたよ! あはは……!」
 慌てて誤魔化す樹を見て、名取は小さく笑った。
(テンパってて、可愛いな)
「な……名取さんは背高くて、いいなー?」
「ありがと。昔は『デカ女』とかいって男子にからかわれたりしてたから、そう言ってもらえるの、ちょっと嬉しい」
 その言葉に、樹は少しだけ目を伏せる。
(確かに……俺をいじめてたような奴らって、そういうノリだったかも)
 男子たちの無神経な言葉を思い出し、胸の奥が少しだけ重くなった。

 だが、名取はそんな空気を変えるように、ふと思い出したように口を開く。
「そういえばさ、ちょっと前まで、身体計測の時に胸囲を測ってたんだって」
「えっ!? 女子も……?」
「らしいよ。ほんと、なくなってよかったよね」
(みんなの前でなんて、恥ずかしすぎる……!)
 想像しただけで、一気に顔が熱くなる。耳まで真っ赤になった樹を見て、名取はくすっと笑った。
「樹ちゃん? 顔赤すぎでしょ〜」
(樹ちゃん、スタイルいいけど……何センチあるんだろ)
 名取はもちろん声には出さなかった。

「吉田さんって、胸大きくて羨ましいなぁ」
「何かやってる? ルーティンとかある? 牛乳飲むとか……
「えっ!?」
 クラスの他の女子達から突然話題を振られ、樹は思わず肩を跳ねさせた。
(俺そもそも男だし、コン太郎のやつが勝手に……なんて言えるわけないか)
「な、何もしてない、よ……?」
「えー、ほんとにー?」
 半信半疑といった様子で、女子のひとりがぐいっと身を乗り出す。そして興味本位のまま、樹の胸元へ手を伸ばしかけた、その時だった。
――ね。吉田さん困ってるし、その辺にしたら?」
 名取の声がそれを止めた。静かだけれど、不思議と有無を言わせない迫力があった。
 女子たちはぴたりと動きを止める。
(わ、かっこいい……!?)
「う……うん。ごめんね、吉田さん。びっくりしたよね」
「う、ううん……大丈夫!」
 助かった、と胸を撫で下ろしながら、樹はちらりと名取を見る。
 名取は特に気にした様子もなく、いつもの涼しげな顔で前を向いていた。
 その横顔が、少しだけ頼もしく見えて。
(名取さんって……なんか、すごいな)
 樹はほんのり熱くなった頬を誤魔化すように、小さく視線を逸らした。

 二人で教室へ戻る途中だった。まだ春の空気が残る廊下を並んで歩きながら、樹は少し迷った末に口を開く。
……さっきはありがとう」
「ううん。女の子同士でも、樹ちゃんが嫌がることするのは違うって思っただけだから」
 さらりと言ってから、名取は少しだけ目を細めた。
……もしあれが男だったら、手が出てたかも?」
「あはは……
 乾いた笑いが漏れる。
(この流れで俺自身が男だなんて言えるわけない……
 少し気まずくなって、樹は話題を変えるように尋ねた。
「名取さん、もしかして男の子が嫌いなの……?」
「うーん、そうなのかな……?」
 名取は少し考えるように視線を上げる。
「性別っていうか、くだらないことで騒ぐ人が嫌いって感じかも。そういえば、樹ちゃんの友達の月城くんは、いい子そうだったね。樹ちゃんが倒れたら、真っ先に飛んできたもん」
 その名前が出た瞬間だった。
「うん……! 宗真は、ほんとに自慢の友達なんだっ。小学校の頃から……
 思わず前のめりになる。普段おとなしい樹にしては珍しい勢いだった。
「い、樹ちゃん……?」
 わずかに気圧されたように目を瞬かせる名取。そこで樹は、ようやく自分の勢いに気づいた。
(あ、引かせちゃった!? やば、名取さんが宗真のこと褒めてるのが嬉しくて、つい……!)
 樹は基本的に、心の中ではおしゃべりだ。ただ、それを表に出すのが苦手なだけで。
「ごめん、ちょっとテンションおかしかったね……
「謝ることじゃないよ」
 名取は小さく笑う。
「ただ、男の子と女の子でそんなに仲良しの友達って、珍しいなーって。そういうことでからかってくるヤツとかいなかった?」
 そして、何気ない調子で続けた。
……あ。もしかして彼氏さんだったり……?」
「そ、宗真とはそういうんじゃないから!」
 反射的に否定する。けれど言った直後、樹の頭の中で言葉が引っかかった。
(からかわれなかったのは、それまでは男同士だったからで……
 そこまで考えて、はっとする。
(あれ、今は宗真と……男同士じゃ、ない?)
 
 ……が、すぐに考え直す。
(いや、宗真は確かにいいヤツだけど、友達だろ……! 何変なこと考えてんだ、俺は……
 頭の中でぐるぐると考え込んでいた、その時だった。
「樹ー! どうだった? 身長伸びてた?」
 後ろから突然声をかけられ、樹はびくりと肩を跳ねさせた。
「な、なにっ!?」
 思い切り声が裏返る。
「うおっ、そんな驚く!?」
 宗真は少し引きながらも、すぐに名取へ視線を向けた。
「あ、昨日オレと一緒に樹を助けてくれた……えーと、名取さんだっけ。仲良くなったんだな! 良かったな〜。うんうん」
 なぜか保護者のような顔で、一人しみじみ頷いている。
(な、なんでそんな満足げ……?お母さんなの?)
「今、ちょうど月城くんの話してたんだよ」
「え、オレの?」
 名取はくすっと笑って、さらりと言った。
「樹ちゃん、月城くんのこと『自慢の友達』だーって。……ね?」
「え、樹が、オレのこと?」
 樹の顔がみるみる赤くなる。
「ちょ、名取さん、恥ずかしいって……!」
 思わず両手で顔を隠す樹だが、名取はどこか楽しそうだった。
「だって本当のことでしょ?」
「そ、それはそう、なんだけど……!」
「へ、へぇ〜……
 宗真も照れ隠しに頭を掻いた。
「なんか、改めて言われると変な感じだな……
(いやでも、やっぱ嬉しいかも……
「も、もうこの話終わりっ!」
 顔を真っ赤にしたまま歩き出す樹。そんな樹の後ろ姿を見ながら、名取は静かに目を細めた。
(樹ちゃん、月城くんのことになると、ほんと分かりやすいな……
――そして。
(この二人の言葉を信じるなら……「友達」同士なんだよね)
 その事実に、名取は胸の奥でそっと安堵していた。もし恋人同士だったなら、自分が入り込む余地はないだろう。
……月城くんは、その辺のバカな男子とは違う。樹ちゃんが言うぐらい、きっと本当にいい子なんだ)
 それは認めている。
 けれど――
(月城くんはクラスも違うし、そもそも男の子だし。いつも樹ちゃんのそばにいられるわけじゃない……
 ふと、名取の口元がわずかに緩んだ。自分の優位性に気づいてしまったからだ。
(女子同士なら……月城くんが踏み込めないことだって……
 更衣室。 恋バナ。 体育の授業。同性だからこそ距離を縮められる場面は少なくないのではないか。
「名取さん、どうかした?」
 宗真に不意に声をかけられ、名取ははっと現実に引き戻された。
(私のことまで気にかける余裕……か)
「ううん、なんでもないよ」
 にこりと笑う。綺麗に作られた笑顔だった。
 宗真は特に気にした様子もなく、「そっか」と軽く返しただけだったが――
 樹だけは、ほんの少しだけ違和感を覚えていた。
……あれ?)
 名取は笑っている。いつも通り優しそうに。
――なのに、一瞬だけ。 なんだか知らない顔を見たような気がした。