沙里
2026-05-19 23:21:24
1267文字
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もういちど、ここから

GE2RBクリアしたから、うちの子。

「ブラッド隊長、入隊許可を」

――新しい世界で、もういちど始めよう。

 求めるように伸ばされたジュリウスの手を、力強く……取らずに。
 ぎゅっと手袋が擦れる音がして、握りしめられた拳は持ち上げられ、晴れ渡る青い空を背負って。

 ぽか。

 景気よく振り下ろされた先は、ジュリウスの頭だった。
 その場にいた、彼以外の全員がぽかんと口を開ける。拳を落とされた当人は、ぱちぱちと何度も瞬きを繰り返して、何が起きたのかを理解できずにいた。
「いまのは、お説教の代わり」
 握った拳を解いて、彼は静かにそう言った。
 他にも言いたいことはあるのだけどと、にこりと笑って。
「いまは、それだけ」
 意図が飲み込み切れない顔をしたジュリウスとは対照的に、ふは、とこらえきれない笑い声をあげたのはギルバートだ。くく、と帽子のつばを下げ、隊長の肩に肘を置く。
「良かったな、ジュリウス。うちの隊長のお説教は長いことで有名だ」
「そ、そう……なのか……?」
 確認のような、助けを求めるような視線を向ける。向けた先にいたシエルは胸に手を置いて穏やかに「そうですね」と頷いた。
「少なくとも、ジュリウスがする三倍はあるかと」
 隣でうんうんと訳知り顔でナナが頷いている。
 ジュリウス当人に「お説教」をした記憶は思い当たらなかったが、口にしていい雰囲気でないことは、何となく察するものがあった。
「ちなみに、正座をさせられるぞ。私はさせられた」
「リヴィさんは隊長の管轄外なので、フェルドマン局長と情報局の皆さんがとても困惑していましたね」
 次々と開示されるワードに、ごほん、と咳払い。
「それはともかく」
 咳払いを収めて、彼はジュリウスに向き直った。
 真っ直ぐで、力強く、意志を秘めた瞳。射抜かれるような衝撃に、ジュリウスも少しだけ、筋肉を緊張させた。
「これは、みんなに言っていることだけど」
 ぴ、と指を一つ立てる。
「独断専行をしないこと」
 隣の指をもうひとつ立てる。
「ひとりで抱え込まない、考え込まないこと」
 ゆっくりと折りたたんで、握りしめる。
 ああ、その決断を、その意思を、強くさせたのは、誰だったのか。
「それが約束できないなら、入隊許可は出せない」
 たとえ、元隊長であろうとも。
 力強く、しかし、透き通った氷のような鋭さ。
 それでも彼は差し出した。その手を。幾度も擦り切れたであろうグローブのままで。
……少なくとも、俺の目は確かだったようだ」
 道は、少し、間違えたかもしれない。歩み方も、もっと他に、あったのかもしれない。
 だけどもあの日、お前ならと託した判断だけは。
 差し出された手を取って、ジュリウスは「約束しよう」と告げた。
 不思議なほどに晴れ渡った青い空の下で、どこか緊張していた空気が紐解ける。誰かはわからないが、ほっと息を吐いた音がした。
「ようこそ、ブラッドへ。それから」
 彼は愛おしむようにその手を包み、
「おかえり、ジュリウス」
 かつて、花畑で出会った時のように笑った。