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スサ
2026-05-19 21:53:54
2418文字
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【鬼水】鬼水ファミレスに行く〜鬼夢女子が隣席だったら〜
成立済鬼水です。一時的に成長鬼。
鬼太郎はモテる。
これは昔からだ。少しだけ通った小学校もでそうだった。
確かに気味悪がられることもあったが、運動神経がよく、力が強くても乱暴ではなく、弱いものいじめをせず、言葉遣いもどちらかといえば丁寧、水木が身だしなみにはうるさくした結果ハンカチの持ち忘れもない、性格も物静か、しかし茶目っ気もないではないではない。
水木が心配したよりは、鬼太郎は案外馴染んでいたように見えたものだ。怪我させない程度にならやり返していい、という水木の教えから、入学早々、上級生のいじめっ子数人を軽々のしてしまったことから、ちょっとしたヒーローのようになってしまったのも大きかっただろう。
おかげで、午前中の授業はうつらうつらしている鬼太郎に勉強を教えてくれたり、家に忘れ物を届けてくれたりするクラスメイトに、同級生は同級生でも、野球をやろうと誘いにきてくれる隣のクラスのまでいた。
水木は義息が学校生活に馴染めるか心配していただけに、これがとても嬉しかったのだ。自分も家にいる時など、良かったら上がってくれとか、お菓子を持っていきなさいとか、鬼太郎にちょっと呆れられる程の歓待ぶりだった。
…
ちなみに鬼太郎に言わせると、水木のその心底嬉しそうな笑顔がとてつもない魅力となり、鬼太郎の家に行きたい同級生が増えたので、モテていたのは水木ということになる。
というわけで、水木の中で、「鬼太郎がモテる」はれっきとした事実である。
なので、モテていても、そうだろう、と鼻高々というところだったのだが
…
。
──このあたりは「鬼太郎のお膝元」とでもいおうか、要するにねぐらがあり、よく出現すると知られている街である。
そのため、老若男女問わず鬼太郎を知っている人が多いし、鬼太郎だ、と声をかけられることすらある。勿論、鬼太郎が気配を消すなり何なりすれば別だ。認識阻害とか、なんとか。
とにかく鬼太郎は有名人──ならぬ有名妖怪であるため、最近は水木と連れ立って歩く時、姿を変えることもあった。単純な変装─妖怪メガネ─の時もあれば、姿そのものを変えることもある。今は後者で、年齢を上げた姿をとっていた。雰囲気や顔の作りは同じだが、背が伸び、体形がかわり、なによりちゃんちゃんこを着ていなければ、さすがに鬼太郎とはわからない。
最近はその、擬似的に成長した姿で出かけることが鬼太郎は増えていた。鬼太郎が有名になりすぎてしまったせいだ。とりあえず、この姿なら鬼太郎だとばれることはない。
「
………
」
水木は無言で、高校生か大学生くらいの姿をした、黒と黄色のボーダーTシャツを着た義息の肘をメニューでつつく。
先程から、隣席から聞こえてくる会話のせいだ。ファミリーレストランとあって席は広い。扇形のようなソファ席の隣も、そこそこ余裕のあるソファ席。そこには三人の女性グループがいて、先程からそのうちの二人が熱心にとある人物の話をしているのだ。
水木は無言のまま、じろりと鬼太郎を見た。鬼太郎はぶんぶん首をふる。あせっているというか、かなり困っている顔だった。
「
…
おまえ、実は俺が知らないところで遊び歩いてるのか?」
「そんなわけないでしょう
…
!」
顔を近づけ、ヒソヒソ声で話し合う。水木は「本当に?」という顔で鬼太郎を見る。鬼太郎は強く頷いた。
「だからぁ、鬼太郎ってすっごくかっこいいんだって!」
その背後というか、隣というかから声がする。鬼太郎の肩がビクリと跳ねた。
「ちょ、声でか!」
周りのテーブルもきっと聞こえているだろうが、特に笑ったりするような反応は見られない。
水木はといえば、まあうちの鬼太郎はかっこいいからな
…
と静かに頷いていた。鬼太郎はまいってしまってテーブルに突っ伏す。
…
この状況で鬼太郎と呼びかけたらちょっと騒ぎにならないだろうか。水木の胸に悪戯心がわいたが、いや面倒事はまずいか、と踏みとどまる。
「注文は決まったのか」
「あ、はい」
のろのろと鬼太郎は顔を上げた。隣では鬼太郎トークがヒートアップしており、勘弁してくれとばかり鬼太郎は顔を覆った。
「
…
別に身に覚えがないならいいだろ」
ぼそ、と水木がつぶやく。え?、と鬼太郎が手を顔からどける。
「で、何頼むんだ。オムライスか、ハンバーグか。お子様ランチうまそうだぞ」
「
…
僕のこといくつだと思ってるんですか?リブロースステーキお願いします」
「かわいくない
…
」
「かわいくてたまるか」
呆れ顔で言う鬼太郎は注文用のタブレットに手を伸ばす。
「水木さんは?」
「俺は
…
、たらこスパゲッティとチキンステーキどっちがいいと思う?」
水木は優柔不断なたちではないので、これは珍しいというか、もしかしたら少し甘えてくれているのかも、と鬼太郎は思った。思ったのだが、口は勝手に普段通り動いてしまう。
「鶏の方がいいんじゃないですか」
「なんでだ?」
「魚卵はコレステロールが
…
」
コレステロール、の単語で水木は鼻の頭にしわを寄せた。
「スパゲッティくらいでコレステロールが変わると思うか?」
「でも朝もたらこ焼いて食べてませんでしたか?食べ過ぎなんじゃないかな」
正論に水木も一瞬黙る。だが一瞬だった。
「うるせー」
口を尖らせた水木は子どもっぽくて、鬼太郎はつい笑ってしまった。ほんの少し目をたわめた顔には不思議な、目を離せなくなるような魅力がある。
「
…………
」
「俺はサーロインステーキにする」
「え?鶏でもなく?」
「肉を食って精をつける」
「は
……
?」
あっけにとられる鬼太郎に水木は顔を寄せた。
「今夜は覚悟しろ」
「は
…………………
」
言葉を理解するのに少し時間がかかったのは、水木は普段そんなことをめったに言わないからだ。
じわじわと赤くなっていく鬼太郎の背中を軽く叩いて、おまえも肉食え、と水木は言った。
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