ローエンに任務報告した時の話

※実装前作成のため、口調の捏造などにご注意を

 目深くフードを被り、指定場所へ急ぐ。もうすぐ夕刻、時間だ。

 待ち合わせ場所は、とある町外れのベンチだ。夕日の差し込むこの場所は、二つのベンチが背中合わせに配置されていて、どちら側にも座れるようになっている。そのため――人に見られてはならない報告などにピッタリだった。

 私が先に到着したらしい。指定時刻はもう間も無くだった。早く着きすぎても、遅れてもいけない。この場所に居られる時間も限られているからだ。
 人通りも少ない場所だ。このベンチに誰かが座っているのを見たことはない。今回も誰も居ないので、そっと腰掛ける。思わず、ふぅ……と細く長い息を吐いた。

 ――カタン

 思わずピクっと動きそうになりながらも、それは耐えた。気を抜いていた訳ではないが、人の気配は感じられなかった。まぁ……この人に本気で気配を消されてしまったら、私程度では太刀打ちできないのだが。
 背中側のベンチに人が座ったのだろう。相手は、そう――ローエン副隊長だ。
 私と彼は、『偶然』このベンチに同時に座った者同士、と表向きではそう見えるようにしている。人通りが少ない場所とはいえ、通り向こうでは人の声も聞こえる。

「ふぅ――、現場の状況は?」
「はい、ご報告します。まずは――

 私はとある任務のために、ローエン副隊長の指示で敵勢力への潜入調査中なのだ。そこまで長期ではないものの、この場所での報告も数回目となる。元々諜報活動を教え込まれていたので、ローエン副隊長から直々に指名されたと聞いた。やるからには期待に応えて必要な情報を集めなければ……と日々奮闘中だ。とはいえ、この潜入調査期間も、残りわずかだった。
 顔を伏せて口元を見られないような体勢で、背後のローエン副隊長にだけ届く声を出す。

――とのことです。以上です」
「ん、お疲れ」

 予定していた報告事項はこれで終わったので、また潜入先に戻らねばならない。小さく息を吐き出し、ベンチから立とうと体重移動させようとしたところで――

……待った」

 ローエン副隊長から声が掛かる。追加の指示だろうか、再びベンチへ体を戻したところで、背後から肩を叩かれる。
 思わずバッっ振り返ると、彼も顔だけこちらに振り返っていたため、お互いの目線が交差した。そんな馬鹿な、いつもなら顔を合わすことすらなく解散なのに……
 
「これ、やるよ」
 私の顔を横目で見ながら彼はそう言って、こちらに腕を伸ばしてきた。握られている手の中には何かが入っているようだ。
 思わず掬う形で両手を差し出すと、握っていた何かを私の手のひらへ落とす。これは――
 
…………飴玉?」

 受け取ってしまったそれは、キラキラと光を反射する包装紙に包まれた飴玉だった。……ローエン副隊長の真意が読めなくて、私としては気が気でない。
 飴玉から顔を上げてみたが、すでに彼は前方へと体勢を戻していたし、手元に愛用の小刀を出して磨いていた。
 
「私と……潜入調査中の部下と接触するなんて、どう言ったおつもりで?」
「ハッ! 何言ってやがる。誰も見てなきゃ問題ねぇだろ?」

 彼は人差し指を伸ばし、手首を頭上でクルクルと回す。……周りを見ろってことか。
 そこでようやく気が付いた。先程まで辺りにあった人の気配が、ない。一体どうやって人払いを――いや……何らかの方法で、私に休憩時間をくれたのかもしれない……ってことか?
 これは、してやられたっぽいな。おそらく、驚く私の反応を見て内心笑っているのだろう。ローエン副隊長は、時々そういったきらいがある。

……あと、何分ありますか?」
「んーそうだな、五分ってところか? ……相変わらず、お前は状況把握が早ぇな」
……!」

 な……何故かいきなり彼から褒められてしまい、思わず目をぱちぱちとしてしまった。私の顔など一切見てないはずなのに、彼がククッと小さく笑った。……まだ反応を観察されているようだ。
 それならば――と、私は貰ったばかりの綺麗な包装紙を広げて飴玉を口に放り込んだ。……とても甘い。ベンチへ座り直してから目深に被っていたフードを取り去り、沈みゆく夕日を眺める。
 背後には信頼できる上司もいるし、こんなにゆっくりした時間は久しぶりかもしれない。

 手で握ったままだった飴玉の包装紙が目に入った。そこで――ふと、ローエン副隊長を少しだけ驚かせる案を思い付いた。ふふ、彼は一体どんな反応をするのだろうか?
 綺麗な包装紙を丁寧に広げると、手のひら程のサイズの正方形になった。光の加減によって色が変わるセロハンのようだ。さて……まずは角と、反対側の角を合わせて折って――



 時計は持っていなかったが、体感五分が経過する前に立ち上がり、ローエン副隊長へ声をかけた。

「貴重な休憩時間、ありがとうございました」
「おう。で、あと何日潜るんだったか?」
「あと五日程ですね」
「そうか。残りも上手くやれよ、待っててやるからな」

 ローエン副隊長は、また顔だけ私の方へ向けてニッと笑い、手をヒラヒラと振ってから、その手を私へと差し出してきた。飴玉の塵を受け取ってくれるつもりだろうか。
 ……その手は私にとって、とても都合が良かった。伸ばされていた彼の手のひらに、そっと『ソレ』を乗せる。
……へぇ、結構器用じゃん?」
 その言葉を聞いた私は少し得意気に笑い、その場から去ることにした。

 少し距離が離れたところでローエン副隊長の方を振り返ると、彼も立ち上がってこちらを見ていたようだ。
 彼は先程渡したばかりの、飴玉の包装紙で作った小さな折り鶴を指で摘んで、夕日を反射させるように翳して笑っていた。



『一匹だけの鶴へ祈りを乗せるには、少々荷が重そうだな』