2026-05-19 00:50:27
1228文字
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🧪🦎の短いお話


あくび

天気の良い日は窓から差し込む光が心地良く、陽に誘われた魔トカゲもソファでゆっくり読書をしていた......それと、饅頭も。
饅頭というのは荘園が生んだ摩訶不思議な生物のことであり、どことなく魔トカゲに似ている。他にも複数個体がおり、荘園の人間達はソレらをまとめて饅頭と呼んでいたので、私もそれに倣っている。
本を片手に近付く私を軽く一瞥し、無言で一人分の席を開ける。そして二人並んで読書をする。特に決めたわけではないが、今ではそれが二人(と一匹)の日課になっていた。
二人の間に会話はない。あるのはページの捲られる音、それから規則的な秒針の音。
ここに座って何十分経っただろうか。ふと今まで一定間隔で聞こえていたページを捲る音にズレが生じていることに気付いた。
ちら、と隣を見やると、視線こそ本に落ちているものの意識がそこにないことは明らかであり、時折前のページに戻る動作から、既に本の内容も頭に入っていないのだろうと思った。
私は、平静を装いながらも普段あまり見ることの出来ない魔トカゲの無防備な姿に、観察対象としての興味と、それとは別種の感情が混ざるのを自覚する。
ページを捲る手は完全に停止し、彼の動きから目を逸らせないでいた。
次の瞬間、魔トカゲはゆっくりと瞬きをしたかと思うと、大きなあくびをした。
「君......」
呼びかけが最後まで形になることはなく、彼の身体はゆっくりとこちらへ傾き、私が避ける間もなく重みが肩へとのしかかった。
私と魔トカゲでは体躯に大きな差があるので、正直寄りかかられるのは楽ではないのだが、わざわざ起こすほどの理由も見当たらない......というのは建前で、魔トカゲの方から接触してくる事は普段滅多に無く、ならば今この状況は遠慮なく享受すべきだろうと判断した。なんなら至福と言って差し支えない。
「生産性の無い時間だ」
くつくつと笑い、膝の上でうとうとしている饅頭を人差し指で撫でてやる。
くぁ......と一際大きなあくびをしたかと思うと、饅頭は丸い身体を僅かに沈ませそのまま眠りに落ちていった。
本を閉じ、目を瞑り、思考が霞んでいく。
今や顔すら思い出せない口煩い同僚に、もう少し人間らしい生活をしろと言われたことを思い出した。あの時は何を言ってるんだと思ったが、なるほど存外悪くない......。
あれだけ研究に没頭していた私が、今や最も生産性の無い行為に甘んじているとは。

肩口から伝わる魔トカゲの寝息のリズムが妙に心地良く、そういえば以前誰かが言っていた......あくびはうつる......と............。




くぁ......。


くぅくぅ、すやすや、
二人と一匹、規則正しい寝息が奏でる小さなお昼寝合唱団。指揮者はいません。観客もいません。
きらきら、ぽかぽか、
窓から差し込む光がスポットライト。
さて、今日の夕食は何にしよう!
今はひとまず、おやすみなさい。