大雨警報が発令されて線路が土砂と倒木で止まってしまったあの日。生徒は早めに下校させていたが教師は確認や連絡のために残っていた。そろそろ俺たちも上がろう。そうなった時には既に電車が運転停止してしまっていた。
悲鳴嶼さんと宇髄は車だが女性陣を送る。煉獄は歩いて帰れる。伊黒は彼女をバイト先まで迎えに行くという。
俺の家は歩いて帰るには遠いし、タクシーやバスは既に長蛇の列となっている。さてどうするか。
「不死川も早めに帰せば良かった」
すまない、なんて悲鳴嶼さんに謝られてしまったが、俺は今年度の生徒指導担当でもあったのでそんなこと出来るわけがない。
大丈夫です、なんてやり取りをしていたら煉獄がうちに来るか? なんて言ってくれたものの、ご家族がいるうちにびしょ濡れで泊まるのは申し訳ないとそれも断った。
みんな考えることは同じで駅前のビジネスホテルや漫画喫茶はもう満員だろう。幸い明日は休みだから待たされるのを覚悟でタクシーの列に並ぶか。こんな時、頑丈な男で良かったとしみじみと思う。どうせ雨に濡れても風邪なんてひかないだろうし。
「不死川、乗れ」
「ア?」
職員用玄関を施錠し駅まで行こうとしていたら背後から肩を叩かれる。冨岡だった。そう言えばこいつもいたんだった。無言でいたからすっかり存在を忘れていた。
「乗れも何もテメエはいつもバスだろうがァ」
「今日は公共交通が止まるかと思って車で来ている。不死川は方向が同じだろう。乗っていけば良い」
冨岡は相変わらず無表情だ。感情が読めない。だから苦手なのだ。
だが、送ってくれるというのは現状ではとてもありがたい。今日履いている革靴は新しいのであまり濡らしたくなかった。
「悪い。世話になる」
そう言うと何故か冨岡がホッとした顔をする。
「車を回してくるからここで待っていろ」
おまけに必要以上に濡れないように気まで使って貰って。なんだ。冨岡はどうした。失礼だが少し心配になった。
絶対こいつは運転が下手。
そう決めつけていたのに、いざ助手席に乗ってみたら冨岡はびっくりするほど安全運転だった。渋滞対策で細い路地へ入っていっても危なげが全く無い。安心してしまったのか外は横殴りの大雨だというのに眠気まで感じる。
「家はだいたい分かっているから寝てて良いぞ」
そう言われたらもう目蓋が重くて目を閉じる。
冨岡は声も良いんだな。
眠りに落ちる寸前、そんなことを思った。
そこからだろう。
俺が冨岡を見る目が変わったのは。
こいつは言葉選びが悪いだけで意外と良いやつなのか。そう思い始めて接すると、今まで俺の方が冨岡を色眼鏡フィルターをかけてしまっていたのがよく分かった。
なんだ。俺が悪かったのか。
学校の行事下見で冨岡と二人で遠出させられた時も不快ではなくなっていた。その時も冨岡が車を出してくれたのだが、むしろとても楽しかった。
帰りは時間が掛かろうと問題なかったので少し遠回りだけれど海沿いの道を通った。
「この道は夏になると渋滞するが、今の季節なら空いているし何より海に沈む夕焼けがとても綺麗なんだ」
なんて蘊蓄まで披露される。
「よく知ってんなァ。お前モテるだろ」
その頃には軽口まで叩けるようになっていたからそれもいつものやり取りのつもりだった。何を返されても揶揄って笑ってやろうと。
「不死川に見せたかっただけだ」
ぽつりとそれだけを静かに返された。
隣を見る。
冨岡は真面目な顔をして前を向いて運転している。
「綺麗だから不死川と一緒に見れたら嬉しいと思った」
冨岡の目元辺りが赤くなった気がする。目が痛くなるような夕焼けのせいか。でも俺の顔も赤い。これも夕焼けのせいなのだろうか。
多分、違う。
だって熱いから。
顔だけが熱くなってきたから、多分それは夕焼けのせいなんかじゃない。
「ありがとう」
必死になって言えたのはそれだけで。でも冨岡は信号待ちの一瞬、こちらを向いて嬉しそうににっこりと笑うから、俺はますます顔が熱くなってしまった。
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