桃山外都
2026-05-18 17:09:26
4476文字
Public 企画
 

ミュリエル[花葬練り]


忘れられた盲目の王女

ミュリエルMuriel/享年16歳
呪われた血生前盲目だったが蘇生されて「皆が、空は目で見えると言うのに触れて確かめられなかったから、どんなものなのか、ずっと識りたかったんだ」「空とは、こんな姿をしていたんだな」と晴れやかな笑顔を見せる花嫁が見たい。呪われた血の王女。
空とは、見上げ、仰ぎ見ることが出来て、昼に夜にいろんな姿を見せるのに、触れられないどころか始まりや終わりすら無くて、絵画のように縁に触れて「ここにある」と確かめることすらできないもの。

悪魔に呪われた王家では赤は高貴の色であり、魔除けの色であった。ひるがえって、赤以外の色は禁忌とされ忌み嫌われた。赤以外の色は不吉であった。赤い髪を、赤い目を、赤い血を守るために王家はここ数百年近親婚を繰り返していた。呪われた血族は赤色に固執した。恐怖にかられるように。
王族は短命な者が多く、また先天的に聴覚などの障害を持つものがいた。盲目の王女のきょうだいの中にも何人もいた。多くの血族はそれを呪いと信じていたし、王城の中で赤い陽の差さない場所、青い影に悪魔が居ると恐れて城中に眩しいほどに照明を灯したりもした。
実際、悪魔がいたのかどうかは盲目の王女の知るところではない。何故なら彼女は赤以外の目の色を持っていたために、生まれてすぐに目を潰されて生涯光を見ることは一度も無かったから。彼女の目元には赤い文様が刻まれ、王城の奥深く、隠されるようにして育てられた。
彼女の高貴な血は疑いようのないものだったから、彼女の目が見えなかったことと、侍女と家庭教師などのごく一部の限られた人間としか接することが出来なかったこと以外、その暮らしぶりは王族に相応しいものではあった。身の回りのことは人にさせたから、生活に困ったことは無かったし、家庭教師は優秀で、彼女は王城の奥から外へ出ることは生涯ないと決められていたのにも関わらず、所作は気品に満ち、高い文化的教養を持っていた。
文化的教養に関しては天性のものかもしれない。彼女は目が見えない代わりに耳で、鼻で、指先で世界を敏感に知覚し、彼女の世界に色は無かったがしかし豊かであった。彼女が王族でなければと、宮廷の音楽家は何度か嘆いたかもしれない。
赤い信仰と青い悪魔赤色への信仰と固執は遡ると、幾百年か昔の王が燃えるような赤い髪色をした亡国の王女を妃として迎え入れたことに始まる。当時は一夫多妻やこうした外国からの輿入れも珍しくなかったが、この王女の孫の世代ころから、王家は彼女から始まる血を守るために近親婚を続けるようになった。
当時、赤髪の王妃はその人生の中で感染症の流行やら近隣国との政治関係やら戦争やら様々な面で王に助言を与え国を歴史上最大の隆盛を極めるまでに導いたとされ、表面上はその優れた血を称え、盲目の王女の代まで王家は血を守ろうとした、ということになっている。
が、実際のところ問題だったのは王妃に先立たれた、夫である王がその死の間際に放った言葉だった。
「悪魔を見た。王妃の枕元に寄り添い彼女とその子に呪いをかける異形のものを」
呪いの存在を証明するように、王妃の死後から国には様々な不運が訪れていた。
内乱や、政治の乱れ。実際はその前に戦争で領土を広げすぎたことと王妃のワンマン政治が招いたシワ寄せだったが、運悪く王妃の来た頃に流行ったのと似た感染症と天候不順による飢饉、病気による王と妃の間の第一子の夭折なんかが重なって残された子どもたち、次代の王は呪いを信じざるを得なかった。母のような燃える赤毛の女を妃とし、きょうだいの子同士に結婚させ、生まれた子どもが赤毛で無ければ王家から追放し、そうして燃えるような赤毛と、赤い瞳を持つ王族が続いていった。
当時も宗教的にいとこ同士の結婚はまずんじゃないかという認識があったので王家の近親婚を指して呪われている、と指した聖職者もいたかもしれない。王家が呪われたのは王妃が死んだからなのか、近親婚をしたからなのか、それとも、赤毛の王女を迎え入れたからなのか。誰にもわからない。
盲目の王女王族に生まれていなかったら、もっと自由に芸術に触れることができていたら、表現者として、或いは芸術の庇護者として才覚を発揮していたかもしれないが、王族に生まれなかったら触れられなかったものも多いし、何より彼女の目が見えなかったことが彼女の視覚以外のすべての感覚を鋭敏に受容する力を与えていたのかもしれない、その可能性は捨てきれない。
目を覚まして最初に口にする水も人に口元まで運ばせるし、顔を洗うのも着替えも当然侍女にさせる(着替えに関しては侍女にさせる前提のドレスだと思う(背面で結ぶコルセットとか))し、侍女に手を引かせて、黄金の装飾が施された赤い部屋の壁に指を伝わせて食卓に付けば食事が運ばれてきて、背筋を伸ばしたまま手のひらを上にして胸の高さまで手を持ち上げればそこにスープを掬ったスプーンが、一口の大きさに切り分けられた肉の乗ったフォークが差し出される。食器の大きさはよく触って把握しているから、スープが口から逸れて溢れたりすることはない。
声の美しい女に朗読させて本を読み、彼女のためのホールに集めた音楽家に演奏をさせる。当時そんなに風呂の頻度高くない気がするけど風呂も普通に侍女に手伝わせる。生まれつきでは無いけど物心つく頃にはとっくに目が見えなかったから、その代わりにあらゆるものを指で触って確かめるようにしていた。例えば真っ赤なシーツの触り心地とか、食器に彫り込まれたバラの文様とか、或いはもしかしたら油絵の表面の凹凸だとか、次女の顔に自分の成長と共に刻まれていくシワだとか。ずっと同じ場所で暮らしているから調度品の配置とか変えなければ本当は手を引かれずとも歩けたかもしれない。
絵は見たことはないけれど触って鑑賞するみたいなことが出来てたら(絵に触っても許される身分であるという点でも)面白いなと思う。当時の絵触ってセーフなのか知らんけど……当時と言っても時代はかなりぼかしたいので、まぁ、良しとするか……
動き、特に指先の動かし方に神経を尖らせていて、また指先の神経を尖らせているということを自然に十何年もしてきている人だけど、同時に「何でも触って確かめようとする」という一見無邪気にも見える好奇心や探究心を持っている人だと思う。それは生きるために必要なことでもあったのだけど。だから生き返ってしばらくは目に入ってくる情報の処理でお喋りが止まらないかも。「これが赤か!あまり好きではないな、こっちのほうが好きだ。何、これも赤?!どういうことだ?」「これは赤か、は?ピンク?どういうことだ説明しろ」「お前の肌は私と違うな……私の侍女はどうだったのだろうな」あんまりテンション上げすぎると五月蠅いから気品は崩さないでほしい(申し送り事項)。高慢さのにじむ話し方だけど堅苦しさはあまり無い。会話については厳密にマナーを学ぶ必要があまりなかったからかもしれない。
忘れられた王女革命の朝に忘れ去られた王女。王女が13になる年に起きた血の革命によって王族が処刑されていく中で、王城の奥深く、隠し扉と城の森と茨で隠された、忌むべき居室に押し込められていたために彼女の存在は忘れ去られた。
彼女の家庭教師、音楽家、使用人たちは彼女を最後まで愛していた(代わりに恐らく血族である家族は彼女のことをあまり顧みることはしなかった)ため、数年は彼らの手によって愛する王女は王城の奥深くで隠されて過ごした。

治世に関わった主要な王族の処刑が終わると一部の王族や使用人の証言か、何かしらの記録を元に革命の志と王族への怒りに燃える人々は「呪われた王女」を探し始めた。呪われた血の最たるものであり、古き悪政の象徴として彼女を処刑する必要があると、民衆は信じた。
革命から数年後、何も知らずにいつものように優雅に過ごしていた王女は、とうとう狂った愚衆の元に引きずり出される。王女の高貴な手に渡されたのは彼女の愛した侍女の一人の、手首。王女はそれに恭しく口づけをしたという。
王女は光の届かない、青い影が伸びる地下牢で首を刎ねられて処刑された。彼女は指先で地下牢の壁の凹凸を、震える侍女の頬を伝う涙を、無骨な処刑台の形をしっかりと確かめた。

王城の首が刎ねられた後、元使用人は巨額の富を革命政府の主要人物に渡す代わりに王女の亡骸を受け取り、彼女を愛した使用人たちの手によって仕立て直された真っ赤なドレスを着せて舟に乗せ、川へと流した。王女の魂が二度と呪われたこの国に戻らぬようにと。
その他旦那様と喧嘩したときに旦那に馬乗りになって「うるさいっ!この目を潰してやろうか、このっ!お揃いにしてやるーっ!」とか言っててほしい。元気

「お前に何がわかる」って旦那の胸ぐら掴んで怒鳴る高慢な女が見たいと思ったはずなんだけど今のところあまり怒るような女にも思えない。もしかしたら蘇生後に王女ではない人生を始めると、怒ることもあるかもしれない。

メモに残していた初期案では王女が13になる年に悪魔に嫁がせる(=生きたまま殺し、死後魂を悪魔に捧げる)ために王城の奥で隠して育てていたはずが、同年、革命により王権が崩壊。という設定があったけど、そこまでせんでも……感もある。
王族の、血縁者の中では不吉の色を持って生まれた王女をすぐに殺す選択肢もあったと思うんだけど呪いを恐れて一旦目だけ潰して生贄とかにした方がいいんじゃないかみたいな思考に走るのはあると思う。きっと血族の者は生まれた赤子に触れるのも恐れた。

王族は皆赤い目をしていて、赤い目は日光に弱かったから王城はあまり陽の光が入らない構造になっていて代わりに深く、青い影が差していた。そして王族はみなその青い影の中に悪魔の幻を見て恐れた。自分たちで部屋暗くして「なんかいる!」って怖がってる状態。
悪魔の花嫁にするつもりだったなら花嫁衣装がちゃんと準備されていたのも頷ける。ただ13歳で革命が起きてるとちょっと幼すぎるので、革命のあと数年は放置されて生きていてくれないとちょっとキャラのイメージとズレる。処刑に数年を要するの良しとして、死ぬはずの数年もいつも通りに過ごしていたメンタルの強さというか、ブレなさは彼女らしいと思う。使用人がなんとか手に入れてくる食事が徐々に貧相になっていっても彼女の高貴さは損なわれなかったし、使用人たちは彼女の失われない高貴さを敬愛していたのだと思う。
16歳くらいのイメージなんだけど、それはそれで13で殺すときの花嫁衣装はサイズが小さいんだよな多分……死後になんとかかんとか仕立て直した、というデザインにしないといけない。悪魔の花嫁として育てられたが呪われた血族は全部死んだから旦那様は悪魔以外がいいです。

多分彼女が処刑された翌年には革命政府もボロが出てまた革命起きるか他国に侵略されて政権変わってる。