奥芝
2026-05-18 00:20:53
2152文字
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原藤ワンドロ/ワンライ 第21回 金平糖

+1.5hくらい
カルデアの原藤 生前原→藤で、今は交際している

そういうシーン出てこないけど事後ネタです!

 人間みたいなことをすると、人間みたいに腹が減るもんだ。時刻は午前二時を回っていたが、俺と平助は腹を満たせるものを求めて部屋を出た。
 サーヴァントたちの活動時間がまちまちだからか、こんな深夜でも売店は営業している。
「へえ、こういうものも置いているんだ」
 世界各地の郷土菓子が陳列された一角で、平助が呟いた。そこには我らが日本の棚もあって、羊羹、大福、どら焼き……という王道の並びの隣、色とりどりの小袋に視線が吸い寄せられる。
「金平糖か。現在いまはこんなに手軽に買えるようになったんですね」
 目を瞠る平助に「そうだな」と頷いて、ふと生前のことを思い出す。俺らの時代にも既に金平糖これは流通していた。触れられたくないかのように尖っちゃいるが、きらきらとして綺麗で、誰かさんみたいだと思って……当時はそこそこの貴重品だったそれを購入したことがある。特段甘味好みってわけでもなかったもんで、すぐに食うでもなく、でも持ち歩けば手の届かないそいつが懐に収まってるように感じられて、あの浮かれた感覚は悪くなかった、気がする。……俺は結局、あの金平糖をどうしたんだったか。
 物思いに耽っていると、もう夜食を選び終えたらしい平助が、焦れたように指を引っ張ってきた。
――原田さん? まだ買うもの決まらないんですか?」
……いや? これにするわ」
 適当に値引きシールの貼られたおにぎりを数個掴んで、手早く会計を済ませる。
 部屋に戻って、俯きかげんに買ったものを整理してる平助の旋毛を押すか押すまいか迷ってたら、パッと顔が上向いて大きな目に見つめられ、一瞬思考が止まった。
「はい、これは原田さんに」
「ん? なんで」
「あれ。まじまじ見ていたから、欲しいのかと思ったんですが」
 差し出されたのは、さっき見かけた金平糖だ。上品な透ける小袋に入ってて、青白くてきらきらした、平助こいつみたいなやつ。
――平助、好きだ」
「なんです、突然。菓子もらったくらいで現金だな」
 苦笑する平助の手を取って、指を絡めた。
「そういうんじゃねえけど。ずっと言いたかったから、」
 「好き」だ、と重ねつつ、生前あのときの俺はきっと、平助を思わせる綺麗なものを携えて、こんなふうに想いを告げたかったんだな……と、今更気付く。
 あの頃の自分てめえの身の上を思えば、とんだ夢物語だったが。身の程知らずに甘い夢を見て、自分では食いもしない金平糖を買ってはみたものの、そのときには平助は既に新選組を抜けちまってたはずだ。そして、会ってゆっくり言葉を交わす機会もないまま冬のあの日を迎えた。終ぞ贈れなかった菓子は、多分適当な誰かにくれてやったんだろう。あんまり覚えてねぇけど……平助じゃないなら、誰に渡したって同じだから。
 ところが――何が起こるかわからないもんだ。死んだ後にまたこいつと出会い、もう隠しごとをする必要もなくなって、今はこうして素直に気持ちを伝えられている。
 ……ただまあ、平助に贈ろうとしてたものを逆に贈られてるってのは、いまいち格好がつかねえか。でも、格好悪くたって平助と手を繋げるし、目を真っ直ぐ見て好きだと言える。俺みたいなのにとっちゃ、上等すぎるほどだった。
 何も言えずに終わったの分まで、なおも「好き」だと繰り返せば、平助は絡まったままの指をにぎにぎとさせ、視線を泳がせた。
「おかしな人だな……今まで言いたくても言えなかったみたいな言い方するじゃないですか。……小一時間前にも、何回も言ってくれてたのに?」
「いくら言ってもいいだろ、こういうのは」
「あー、はい、そうですね。もう、勝手にしろよ……
 こういうのにいつまでも慣れない平助が耳を赤くしてるから、繋いだ手を振り解かれたって、俺はやに下がってしまう。そんな俺をひと睨みした平助は、夜食を並べたテーブルに向き合うと、さっき選んでた値引きシール付きの菓子パンでなく、金平糖の包みを開いた。
「なぁ。それ、俺にくれたんじゃねえの」
「原田さんのために買ったのに、そんなに喜ぶでもなくおかしなことばかり言うから、もう僕が食べちゃおうかと」
「えっ。酷え」
「ふん……今更遅いんですよ」
 薄く笑って、ツンと顎を反らす。平助って、そういう表情かおもいいんだよな……と隣に座って眺めていれば、青白い星が小さな口へと運ばれていく。
「ん、甘いです」
 そうだろうよ。
「でも甘いといっても、チョコアイスの甘みとはまた違って、結構複雑な味で、」
 へえ、俺には違いがわかんねぇだろうな。
「そう、こんな感じで……
 平助が振り向く。潤んだ大きな目に見つめられて、息を呑む。いつまでも慣れないのは、俺も同じだ。不意打ちのように重なった唇から舌先に押し込まれたものは、とても甘かった。
――あの。また、まじまじ見ていたから、欲しいのかと思ったんですが……ちがいましたか」
 照れ隠しか、怒ったように言う平助を、腕の中に閉じ込める。
「違うもんかよ。この金平糖以外欲しくねえ、ずっと」
「また、おかしなこと言って……
 平助が抱かれたまま楽しげに笑ってくれるから、口の中の甘味が消えない。……本当、俺みたいなのにとっちゃ、上等すぎるだろ。