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とはり
2026-05-18 00:00:03
4111文字
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いろいろ
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【燐こは】こどもとおとな
こはくが入院したという知らせを聞いてすっ飛んでくる燐音と、片想い中のこはくの奮闘記
こはくちゃんってああ見えても未成年だから重要書類には成人した保護者のサインが要るんだなぁかわいいなあと思ったのと、燐音が時折見せる"静"の部分にモエを感じているオタクの"癖"が込められている
ちょうど2年前に旧Twitterに載せて、こっちにも移したもんだと思ってたけど何故か見当たらなかった
おそらく前日譚を加筆したくて保管してたんだろうけど、しばらく加筆する時間を取れそうにないのでもう上げちゃう ちょこっとだけ修正した
備忘録として。
これ同日にpixivにも置いていて、本当ははらのなかでとける方にしようと思ったんだけど、泥濘の次がはらのなかなのはちょっと可愛げが無さすぎるかって思ったのと、これにも斑が出ていてちょうどいいやと思ったのでこっちにしたという経緯がある
以下、当時のメモ↓
ガンガン行こうぜ!(年上があえて適切な距離感を保っていることを知ってか知らずかお構いなしにぐいぐいいく様)なこはくちゃんが可愛くて好き
ひめこはの片想いこはは「好きでおってもええ?」ってきくかもしれないけど、燐こはの片想いこはは「振り向かせたるから覚悟せぇ!」だから……遠慮なんてしないから
『こはくさんが怪我をして病院に運ばれた。入院になる可能性が高い。病院の住所を伝えるから今すぐ向かってほしい』
端末に入ったメッセージに燐音はパチンコの予定をキャンセルしてぬかるんだ雨上がりの道を蹴るように進んだ。
指定された先はESと提携している大病院。受付でこはくのことを尋ねると斑が話を通していたのかスムーズに病室へと案内された。案内されたのが病室ということは、斑の予想通り入院が必要だったということだ。首の後ろを伝う汗が冷たい。
どうして斑と一緒にいたのか、そこで何が起こったのか、どの程度の怪我なのか、問い詰めたいことは山のようにあったが、斑に連絡を入れてもこはくに連絡を入れても未読のまま返事がくることはなかった。
果たしてこはくは話せる容態なのだろうか。駆けつける間もいまこの瞬間も次々に最悪のシチュエーションが浮かんでくる。逸る思いで扉を開くと、隙間から漏れ出した夕陽の光が燐音の視界を赤く染めあげた。
窓から射し込む夕焼けが全てを包み込んでいたから、病室に飛び込んできたのが誰なのかすぐには分からなかった。斑だとすれば随分と早い到着だなと思ったが、どうもシルエットが違う。揺れる茜色の光がその人の髪と同じ色だと気づいた時には名前を口にしていた。
「りんね、はん?」
咥えていたアイスバーを落としかけて、慌てて残りを飲み込んだ。血相を変えた燐音と気の抜けた表情のこはく。ふたりは時間が止まったみたいに見つめ合ったまま動けなかった。どうして燐音がここにいるのかこはくには見当がつかなかったし、燐音もまた、こはくが呑気にアイスを頬張っているとは思わなかった。
こはくの傍らにあるテレビからはバラエティー番組の笑い声が漏れ出している。
「お、お前
……
っ、怪我して入院って!」
目を大きく開いて声を固くする燐音に、現状に対する温度差を感じ、気まずくなってはにかんだ。
「あー
……
足を捻挫したみたいでなぁ。腫れも強いし折れとる可能性も否定できんから明日精密検査するんやって」
言って、布団の中から包帯でぐるぐるに巻かれた足を燐音の眼前に晒す。包帯に隠れて今はつぶさに確認できないが、隙間から覗く皮膚は暗赤色に変色し、足首の辺りの包帯はうっすらと膨らんでいる。燐音の表情が歪んだのを見てこはくはさっと足を布団の中に再びし舞い込んだ。怪我をした自分よりも悲痛な顔をするのは、ずるい。罪悪感が芽生えて、痛くもなかったところがちくちくと痛みを訴え始める。
「まぁ、この感じの痛みやったら骨はどうもないと思うで。骨折しとるかしてへんかくらいわしなら分かるし」
努めて明るく、何でもないことのように言ってのける。早口になってしまって少し恥ずかしかった。けれど、今は自身の足の心配よりも燐音に悲痛な顔をさせてしまったことの方が心苦しくて、この痛みから解放されたかった。大事には至っていないことを理解した燐音から肩の力を抜けたのを見てほっと息を吐いた。
「んなことなら連絡のひとつくらい入れろっての。二人揃って俺っちの連絡無視しやがってよォ」
「携帯水没して修理中やから手元にないねん。転んだ時に水溜まりにぽちゃん、や。斑はんがその辺も含めて駆け回ってくれとるみたいやけど、だいぶ忙しいみたいやなぁ」
「ンだよ
……
ったく、人騒がせだなァ」
すっかり気が抜けた燐音はベッドの横に置いてあった椅子に腰を落とす。
「すまんすまん。そんな大袈裟なことになっとるとは思わんくて」
燐音が結構真剣に自分のことを心配してくれていたことが単純に嬉しかった。不謹慎にニヤつきそうになる頬を食いしばりながら、夕焼けを背に浴びてやけに画になる燐音をぼんやりと見つめていると、冴えたターコイズブルーがその奥を鋭く光らせながら視線を寄越してきて、不意な眼差しに心臓が高鳴る。
「ンで。こはくちゃんは何で三毛猫チャンと一緒にいて、どういう事情でケガしたわけ?」
「
……
気になる?」
口角が緩むのを今度は我慢できなかった。探るような視線に少しでも嫉妬が混じってくれていたらいいのにと、その色を探して燐音の瞳の奥をじぃっと覗き込んだ。
「はいはい気になる気になる。そういうのいいから」
「つまらんなぁ」
軽くあしらう態度はあいかわらず相手にされていないようで気にくわないが、これ以上もったいぶって逆鱗に触れるのは本望ではない。こはくは事の次第を正直に話した。
「
……
たまたまや。サークルの買い出しを一緒にしとっただけ。その道中に目の前でひったくりに遭遇したんよ。相手は素人やし捕まえるんはわけなかったんやけどなぁ。ちと揉み合った時に地面のぬかるみに足をとられて無様に転んだっちゅうわけ」
派手にすっ転んだ数時間前の自分の醜態を思い出して今日一番の深いため息をつく。履き慣れない靴で暴れるものではないなと反省した。
「ま、DoubleFace絡みの案件ちゃうから安心しぃ」
言うと燐音は虚を突かれたような顔をした後、居心地悪そうに視線を逸らした。どうやら図星だったらしい。DoubleFaceは解散したのだからそういう仕事は回ってこないはずだと伝えているのに、そういう反応はいまいち信用を得られていないように思えて不服ではある。
視線を移した先のテーブルに白い紙が散らばっているのを見て、大事な用件を思い出した。
「せや、燐音はん。これにサインしといて。わしのサインだけじゃアカンねんて」
言ってかき集めた紙の束を燐音に手渡す。中身は入院のために必要な書類で、患者本人の署名欄には既にこはく自身の名前が記入がされている。ぱらぱらと紙を捲って確認する燐音の手元を覗き込む。
「ここ。代諾者っちとこ。成人した保護者の名前がいるんやって。斑はんは事後処理で手が離せんから、見舞いに来た大人に書いてもらえって。まさか燐音はんやったとはなぁ」
指差した空欄は代諾者の欄で、傍には『本人が未成年の場合は代諾者がこちらに署名ください』と注意書が記載されている。こういった書類ひとつとっても自分の名前だけでは年齢が規定に達していないだけで認められない世の中の仕組みに不便さともどかしさを感じる。
用件を理解した燐音はため息をひとつついて、テーブルに置かれていたボールペンを手に持った。
「俺っちを便利に使いやがって
……
。燐音くんは忙しいンだからなァ?」
「どうせパチンコ打っとっただけやろ。たまには頭目らしいことしてくれてもええやんか」
「はァ? 俺っちはいつも頼りがいのあるリーダー様だろうが」
「普段の行いがそうならわしもこんなこと言わんわ」
燐音が書類に目を落としたまま次々と欄を埋めていくのを膝を抱えながら眺める。静かなターコイズブルーが書類の文字を追って忙しなく動くのを近くで見ていると、今だけはふたりのためだけに時間が流れているような気がして、ぽかぽかと体が熱をもつ。とろけそうになる心の反動で無意識に足先を擦り合わせた。
「痛ェの?」
「え?」
「足。痛むのか」
目は書類に向かったまま、やけに調子を落とした声で訊ねてくる。直前の軽口を踏まえての気遣いなのか、純粋にこはくの身を案じてくれているのか。理由は何であれ、気をかけてくれたことが嬉しくて、きゅうっと胸の奥が切なく鳴いた。我ながら単純な心が恥ずかしくて、抱えた膝の上に頬を乗せた。
「別に。今は痛ない。骨に異常なかったら腫れが引くまでしばらく安静は必要やけど、じきにいつも通りの生活に戻れるやろって」
布団の上から更に膝を強く抱き締めて、医者から聞いた言葉を思い返して伝える。
「ん、ならいい。ほら、書けたぞ」
わしゃわしゃと髪を少し乱暴にかき混ぜられて顔を上げると、燐音が綺麗に整えられた書類の束を寄越した。
「おおきに」
受け取って、ぼんやりと書類を眺める。自身が書いた『桜河こはく』の文字に並ぶ『天城燐音』の文字が目に入って、不意に心臓が甘く痺れた。
(わしと燐音はん、家族みたいなったみたいや
……
)
アイドルとして並ぶサインとも、ユニットとして名前が並ぶ時とも違う、畏まった書類に並ぶふたつの名前がどこか特別な形を保っているように思える。むずむずとした感情が泡のように湧きあがって、溢れた分が口からこぼれでる。
「んふふ」
「ンだよ、ニヤニヤして」
組んだ足に頬杖をついて訝しげに眉をひそめた燐音へ向かってベッドから身を乗り出す。足がツキンと痛みを訴えるが、気にしていられない。捉えるなら今だと思った。
燐音の唇に指の腹を当ててその上から自らの唇を重ねる。燐音の目が大きく見開くのが見えて気分が良かった。
「わし、燐音はんが好き。絶対振り向かせたるから足が治ったら覚悟せぇよ」
「っ
……
!」
「あ、今動いたらわし落ちてまうかも♡」
反射的に後退ろうとした燐音の首に腕を巻きつけて動きを封じる。おどけた口調で体を寄せたが、ほぼ片足の一点でベッドの縁に踏ん張っている体勢は冗談抜きで紙一重のバランスだ。ほとんど燐音にしがみつくような形で視線を送ると、燐音が小さく舌打ちした。
「お?」
不意に体が浮き上がってくるんと視界が回る。大きな手のひらに背中と腰を支えられ、燐音の体温が体に密着したのを認識すると、一気に心拍数が跳ねあがった。
天井と水平になった体はベッドへと背中からゆっくりと降ろされる。そうして横たわった体には上からばさりと布団を被せられた。見上げた燐音の顔に何とも言えない表情が浮かんでいて、してやったりと口の端が上がる。
「乱暴ぉ♡」
「どこがだ。大人しく寝てろ、マセガキ」
不服に口の端を歪めた燐音はどかりと窓辺に体を預けた。
明らかにこはくを意識した距離の取り方に腹の奥がくすぐったくて、けらけらと笑みがこぼれてしまう。茜色が満ちるこの部屋では燐音の頬もこはくの頬と等しく朱に染められている。
本当の口づけは燐音が心を決めたその時にまで取っておこう。待ってはやらないけど、時間をかけてでも必ず。いつかきっと。
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