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やまだ
2026-05-17 23:26:04
1473文字
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無双オリジンズ
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紫鸞と郭嘉の炉辺話 真エンド側
「俺ひとりの力ではない」
「互いに運がよかっただけだ」
「あなたがよく踏みとどまってくれていたからこそ間に合った」
戦場で格別の武働きをした紫鸞を褒め、あるいは感謝すると、ほぼ確実にこれらの台詞のうちのどれかを返される。謙遜も過ぎれば嫌味になるものだが、残念なことに彼はごく真面目に、心からそう思って口にしているものだから強くたしなめづらい。かつ、もどかしい。
「あなたはもっと厚顔であるべきだね。紫鸞殿」
せっせと郭嘉の杯に白湯を足していた同僚は、室内を動き回って火鉢の炭を起こしたり、夏侯惇の衣装箱から掠め取って来たという毛皮の外套を羽織らせたりなどしてくれてから、ごく浅く首を傾けた。
「元譲殿には登城前に、もっと慎ましくあれと言われてきたばかりだ」
「まあ
……
そうだろうね」
面倒見のよい夏侯惇はなんだかんだと紫鸞に甘い。たしか、この狐裘は今冬の初めに彼が曹操から下賜されたもののはずだ。郭嘉の体を冷やすまいとかいがいしい紫鸞の心遣いは正直にありがたいが、返却する際に夏侯惇から不摂生について苦言を呈されるような気がする。
さて、と考えこんだ郭嘉の表情を読んだか、板間に寝転んだ紫鸞が僅かに唇を歪める。
「元譲殿が、それは奉孝殿にさしあげると言っていた。殿も文句は言わないだろうと」
「おやおや。夏侯惇殿には礼を言わねばならないようだ」
「皆、あなたが思っているよりずっとあなたのことを心配している」
「それは、あなたもなのかな? 紫鸞殿」
「もちろん」
許都の凍える城内に、紫鸞の明快なひと言が白い霧となって立ちのぼる。火鉢の傍らで毛皮にくるまりぬくぬくと読書に興じる郭嘉とは違い、紫鸞はあまり着込まずにいる。動きにくいのだそうだ。
紫鸞のように無官の将として立ち回るようになって数年が経ったが、同じ目線で眺めてみると彼の挙動は実に目まぐるしい。夏侯惇に付き従って北部へ遠征に出たかと思えばひとりで馬に乗り長江を越えてみたり、いつのまにか城内で于禁の調練に混じっていたりする。合間合間に軍師たちの酒盛りに顔を出すことも忘れない。曹操と碁を打っている日もあった。
「ねえ、紫鸞殿」
郭嘉は夏侯惇が紫鸞に対して特別甘くなる理由を知っている。
ひとつところに長居せずあちこち飛びまわっている瑞鳥が、自分のところへは羽を休めに現れて、あれが欲しいこれが欲しいと他人には見せない図々しさでねだるのだ。しかもこの鳥は常日頃から自分自身への称賛を受け取ろうとしない。絶好の機会だろう。
「皆が私のことを心配してくれているのも事実だろうけれど。あなたを喜ばせたい、という理由もあるのだと思うよ。きっとね」
「奉孝殿の体調が快方に向かうのは国益に繋がるが、俺の機嫌がよくなっても何にもならない」
「そうかな。では、試してみようか。紫鸞殿」
「試す?」
板間に寝転んだままの紫鸞が、首だけを巡らせて郭嘉を見る。その、きらっと光る暁天の瞳へ、郭嘉は微笑みながら頷いた。
「しばらく、誰かに称賛されたら否定する代わりに感謝してみるといい。ありがとう、嬉しい、と口にしてごらん。きっと面白いことが起きるよ」
「まさか
……
」
胡乱な顔の紫鸞だったが、素直な彼は最終的には渋々ながら頷いてくれた。これが紫鸞なりの郭嘉に対する信頼の形だ。
「
……
あなたがそう言うのなら」
うん、と郭嘉は微笑んだ。
郭嘉は面白いことが大好きだ。愉快そうにしている人を見るのも好きだ。
きっとこれから、郭嘉にとって楽しくてたまらない冬が始まるだろう。
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