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菜穂子
2026-05-17 23:09:16
2679文字
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夜が明ける
生理痛のはなし
【注意書き】
生理ネタです
晶くんの過去捏造しています
晶くん女子寮ルームメイト少し出てきます
「晶?今日部活じゃなかったっけ?」
「腹痛くて休んだ
……
」
やっとの思いで女子寮の扉を開いて、まっすぐベッドに飛び込む。いつもならば制服のまま横になることなど考えられないが、部屋着に着替える元気すらもう残っていなかった。
「ああ
……
そんな生理重いのによく男のフリなんてできてたよね」
「うるせ、ほっとけ
……
」
なにやら色々と話しかけてくる声が耳には入ってくるが、頭には全く入ってこない。頭もお腹も瞼も鉛のように重たくて、ほとんど気絶するように意識が遠のいていく。
初めての生理が来たのは、小学6年生の夏だった。
保健の授業は男女別で、当然男子の方しか聞いていなかったものの、教科書の女子のページも密かに確認しておいてあった。そのおかげで、自分の身体に何が起こったのかは理解ができた。その頃にはプールの授業を見学する女子も出てきていたし、赤飯を炊いてお祝いされたなんて話も耳に挟んでいた。だから、心のどこかで抱いていたんだ。自分も祝ってもらえるんじゃないかなんて、そんな淡い期待を。
父にそれを打ち明ければ、深いため息をひとつついたあとに、女だと知られないようにより一層気をつけろと、その一言を告げられておしまいだった。生理用品はあとから伊織に渡された。
今でもあの顔が忘れられない。穢らわしいものを見るような、そんな視線が。女に産まれてごめんなさい。悲しみと心苦しさで胸がいっぱいだった。でも泣いたらきっとさらに不快に思われるだろうと思い、涙を流すことすらできなかった。
本当に男に産まれてきていたならば、どれだけ楽だっただろうか。性別を偽る必要さえなければ、膨らみ始めた胸を無理やり締め付ける苦しさも、生理を隠す煩わしさも、なにも味わうことなんてせずに済んだのに。それからは毎月生理が来るたびに、とてつもなく憂鬱な気持ちになった。この苦い思い出がそうさせるのか、生理というものがそういうものだからなのかは、よく分からないが。
「ん
……
」
目を開けば、いつも通りの女子寮の天井が見えた。なにやら嗅ぎ慣れない甘い匂いが漂っている。
「晶くん、目、覚めた?なんかうなされてたけど」
巧海の声がしたキッチンの方に視線を移す。女子寮の風景と巧海との組み合わせに違和感しかない。これもまだ夢なのかもしれない、と頭の片隅でぼんやりと思った。でも巧海の夢ならいくらでも見ていたい。少なくとも、さっきの夢よりずっと良い。
「昔の夢、見てた
……
やな夢だった」
「そっか
……
ココア、よかったらどうぞ」
ベッドからゆっくりと降りて、差し出されたマグカップを受け取った。一口飲んでみれば、ココアの温かさと甘さがじんわりと身体に沁みる。ようやく頭が働き出して、これは夢ではないのだと理解した。お腹の重さも少し和らいできた気がする。
「ありがとな
……
でもなんだって巧海がここにいるんだ?」
「晶くんのルームメイトの先輩が来て、鍵貸してくれたんだ。晶、生理痛でしんどそうだからできたらお見舞い行ってあげて。私はこれからバイトだから!って言ってた」
「そうか
……
」
心配してくれたのはありがたいが、なにもわざわざ生理痛だと伝えなくてもいいのではないか。なんだか無性に気まずいような、恥ずかしいような居心地の悪さを感じてしまう。もっとも、巧海のことだから伏せていたとしても気がつきそうなものではあるが。
「晶くん、男子寮の時も今日はよく寝てるなって思う時、たまにあったな。今思うとあの頃も生理辛かったよね。気づかなくてごめんね」
「いや、それは気づかれた方が困る」
「あはは。それもそうだね」
男子寮で生活していた時の生理中には、生理用品の後片付けを誰にも見られないようにしたり、トイレや排水溝をすこしでも汚さないようにしたりととにかく気を張ることが多すぎた。あまり思い出したくもない。
「今でも、時々考えちまうんだ。俺が本当に男だったら
……
って」
男のふりをさせられていたのはHiMEの戦いを有利にさせたいがためであって、男児が欲しかったからではないことは、今は理解している。それでも、時々考えずにはいられない。自分が男だったら、HiMEなんか関係ない世界で生きていたら。よその家の子たちのように、成長を親に喜んでもらえただろうか。
「女の子って色々大変そうだけど、僕は晶くんが女の子で良かったなって思うよ。男同士で親友になれてたら、それはそれで楽しそうだけど。それに
……
」
巧海は自分の分のココアを一口飲んで、マグカップをテーブルに置いた。
「晶くんが男の子だったら、僕の彼女になってもらえなかったしね」
「おまえはまたそういうことを恥ずかしげもなく
……
」
巧海は照れることもなく、ただ当たり前のことを言っただけのように微笑んでいる。なんとも直球なその物言いに、顔が熱くなると同時に、鼻の奥がツンとした。今まで誰にもそのままの自分を受け入れられていると思えなかった。父親からは媛星の力を手に入れる手段として扱われており、敗れて帰った時には叱責され、心配されることもなかった。女子生徒として改めて学園に通い始めた時は、かっこいいと思ってたのに残念だと女子に噂されていた。
みんな勝手に期待して、勝手に失望していく。女に産まれたことも、HiMEだったことも、男装していたことも、美少年と評価されていたことも、自分で望んだことなど何一つなかったのに。
でも巧海は、出会った時から今まで、ずっとそのままの自分を受け入れてくれていた。ずっと男だと騙していたのにそれを咎めることもなく、HiMEの闘いに巻き込まれて消えることすら厭わなかった。それにどれだけ救われていたか、改めて自覚する。
「あ、晶くん!?大丈夫?まだおなか痛い?薬かなんか買ってくるよ?」
堪えきれず溢れてきた涙を見た巧海は、焦って部屋から出ていく準備を始めた。その腕を掴んで、引き寄せる。
「いや、大丈夫だ
……
もう少し、ここにいてくれ」
「晶くん
……
」
躊躇ったような少しの間の後に、巧海の腕が伸びてきた。両腕でふわりと抱きしめられると、改めて実感する。巧海の身体は骨ばっていて、肩幅も胸板も大きくて、女の自分とは違うのだと。こちらの腕も巧海の背中に回せば、身体が密着してなんともいえない心地よさを感じる。初めて、心から思えたかもしれない。女に産まれてきてよかった、と。
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