みずあめ
2026-05-17 21:33:08
2152文字
Public brmy
 

神麗

2周年イベストネタバレあります

一通りピクニックが終わってそのままほとんどの人が参加しそうな二次会の計画が立ち始める横で、俺は肩に寄りかかる重さをしみじみと味わっていた。話し声が行き交う騒がしい輪の中でもかすかに届く寝息が心をくすぐる。このまま朝までだって彼の枕になっていたかった。
「よし、それじゃあ決まり! 来れる人はこの後Aporia集合で!」
「はーい。なあなあ、灯世さんたちは二次会は?」
「今日はもう帰る」
「俺も」
「あはは、バッサリ。かみやんはー、……行けなさそうやな?」
「うん、俺も今回はパスで」
「特務は仲良くてええねぇ。なんかおもろいことあったら今度教えたるから、麗くんちゃんと送ってやり」
「ありがと! 責任持って送るよ」
俺たちの前にある使い捨てのお皿や箸をさりげなく回収してくれた明星くんの背中にもう一度ありがとうと声をかける。振り向かないままでひらりと手を振って見せる後ろ姿に「かっこいー!」と歓声を上げれば明星くんはパッと笑顔で振り向いた。笑い声を重ね、ありがとうと俺からも手を振る。
まだのんびり飲み続けている人もいるけれど、今日は車だったから一口も飲んでいない有さんはすでにテキパキと帰り支度を始めていた。俺もそろそろ麗を起こしてあげた方がいいかな。まだこのままでいたい気持ちもあるけど……。悩んでいると、灯世さんが俺のすぐ横に跪き視線を合わせてくれた。
「麗は起こすか。このまま寝かせておくなら車を回してくるが」
「あ、うん……どうしようかな。たぶん起こしたら起きると思うんだけど」
「どうせ通り道だ。寮まで送る。いいか、有」
「問題ない。神家は、酔った麗を見たことがあるのか」
「え? ……ううん?」
「そうか。扱いに慣れていそうだなと思ったが、お前は飲み会によく行くから酔っ払いに慣れているだけかもしれない」
「ああ、うん、それはあるかも。まあこんなに大人しくて可愛い酔っ払い他にいないけど」
……灯世、上着」
「あぁ、ありがとう。神家、麗を一人で運ぶのに問題はないか」
「うん、大丈夫だよ」
「それじゃあ俺たちは車を取ってくる。そこの公園の入り口まで麗を連れてきてくれ」
「了解。ありがと」
二人が荷物をまとめて輪の中から離れるとすぐに気がついた芦佳さんが大きな声で別れの言葉を投げかけ、それに呼応するようにみんなが二人にまたね、ばいばいと声をかけた。
今日一日だけで何度も感じたこの人たちの温かさにまた一人で胸を打たれていると、身動ぎした麗がゆっくり頭を持ち上げた。俺はすぐに顔を覗き込み、まだ完璧には開いていない瞼を重たそうに瞬かせる麗をじっと見つめる。
……麗、起きる?」
「ん……、かみや……?」
「うん。神家だよ。まだ寝てても大丈夫だよ?」
……なんか、うるさ」
麗はまたすぐに俺の肩に寄りかかって、ぐりっと、甘えるように額を擦り付けてきた。ぎゅーっと心臓が締め付けられて一瞬で体温が上がった気がする。うらら、と口をついた声は情けなく震えてた。
「んだよ…………かえんの、おまえ」
「か、かえるよ、一緒に帰ろ?」
……今日、あんま飲んでねえだろ」
「え? そんなこと、ないよ?」
「いいのかよ」
拗ねた声音を聞き漏らさないように、うん?と優しく相槌を打って顔を寄せる。いつもより素直な瞳がまっすぐに俺を見つめた。
「他のやつといるほうが、たのしいんじゃねえの」
「そんなことない。……俺、麗といるの好きだよ。俺が麗といたいから一緒にいるんだよ」
……うそだ」
「どうして。嘘じゃないよ。見て、めちゃくちゃ本気の顔してる」
「しらねえよ、あほづら」
「あ、ひどい」
……ほんとに、いいの」
「うん? いいよ、もちろん。麗は俺でいい?」
…………他にいねえから」
「ふふ、おねがい、もう一声」
「ばか。……ちっ」
さっきよりも赤くなったほっぺたも、照れて逸らされた視線も、それなのに俺の服をぎゅって離さないのも、全部可愛くて仕方ない。本当は言葉なんてなくても全然構わなかった。だって、わかるよ。麗がどうしたいか、俺にはちゃんとわかるから。
……おまえがいい」
……うん、俺も麗がいい。よし、帰ろっか。歩ける? そこまで有さんたちが車回してくれるって。抱っこしようか?」
「あるけるわ、あほ」
二人分の荷物をまとめて持ってから差し出した手は叩き落とされたけれど、立ちあがろうとしてフラついた麗を支えるために伸ばした手はちゃんと立てた後も振り払われることがなかった。手を繋ぐよりも近い距離で高い体温が俺に寄りかかる。
よく知った麗のヘアワックスの匂いがいつもより強くして思わず視線を逸らすと、こちらを見ていた篠信くんたちと目が合った。どうしよう、揶揄われたら突き飛ばされてしまうかも、と咄嗟に固まった俺に、二人は声を上げずに破顔し無言のまま手を振った。いつのまにか他の人たちもこっちを見て、麗に気が付かれないように声をかけずに見守ってくれている。芦佳さんは樹帆さんに口を塞がれながら涙目で大きく手を振っていた。
ありがと!と口パクで言って、俺は麗を支えたまま歩き出す。有さんたちと待ち合わせている公園の出口までのほんの少しの距離でも、この体温を離したくなかった。