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吾妻
2026-05-17 16:33:15
3118文字
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アークナイツ
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とびきりかわいい
テキ博♀ 意味もオチもなくイチャイチャしているだけ。またしても酔っ払いに絡まれ、耳を弄ばれる話
「わっ」
恋人の私室に踏み込んだところで、青年は思わず間の抜けた声を上げた。
「ドクター、あんまりいたずらしないで。危ないからさ」
テキーラは、抱き上げて運搬中の上司兼恋人の顔を見上げ、たしなめる。
ほろ酔いで上機嫌の彼女が、なんの前触れもなく彼の犬耳を触ってきたからだ。
「危なくなんてない。君が私を落とすわけがないんだから」
声は明瞭で、呂律もしっかりしている。だが、発言内容は彼女らしくもないものだった。
確かにテキーラは、彼女を落とすような不手際をしたことはないし、するつもりもさらさらない。しかし、この世には〝絶対〟なんてものはないのだ。そんなこと、慎重なドクターは誰よりもわかっているはずなのに。
ここまできっぱりと言い切るとなると、おそらく。
(見た目より酔ってる
……
)
根拠もなく絶対の信頼を寄せてもらえる。それはとても喜ばしく、光栄なことだけれども。できれば素面のときにお願いしたい。
酔っ払ったドクターは、突拍子のない言動に及びがちで、スキンシップも多くなるからだ。
今も、テキーラの両手が塞がっているのをいいことに、鼻歌交じりに男の頭頂部の犬耳を指先で弄んでいる。
「ど、ドクター
……
」
「だいたい、君がわるいんだぞ。こんなにかわいらしいものを頭にくっつけて
……
」
「同じような耳の人はロドスにもたくさんいるでしょ
……
」
「それもそうか
……
じゃあ、君の耳だから特別にかわいいのかな
……
?」
「
……
」
心臓に悪い。
ドクターは酔いに任せて饒舌になるほうだが、心にもないことを言う人ではない。酔っ払うと普段より本音が外に出やすくなるのだ。つまりドクターは、普段からテキーラの犬耳を〝かわいい〟と認識しているということで
……
。
かわいいよりはかっこいいと思われたいという本音はこの際置いておいて、ドクターが自分(の一部)を好意的に見てくれているのは素直に嬉しい。
しかも
――
(俺の耳だから特別
……
)
青年は、酔っぱらいの言葉を反芻し、噛み締める。
恋人から特別扱いされて喜ばない人間など、ほとんどいない。エルネスト・サラスもまた、大喜びするほうの人間だった。
そして、あまりにじっくりと喜びを噛み締めたせいで
――
垂れた耳の片方をぺらりとめくりあげたドクターが、その裏側にちゅっと吸い付いてくるのを防ぐ手立てがなかった。
「ちょ、っと、ドクター
……
!」
ドクターは上機嫌で、何度も耳の裏側にキスをする。
薄い皮膚に柔らかい唇が押し当てられる感触。
はじめはくすぐったいだけだったのに、ちゅ、ちゅ、とキスを繰り返すドクターが吐息混じりの笑い声をこぼすので、段々と邪な欲望が頭をもたげはじめる。
「そんなに俺の耳が好き
……
?」
吐息を多めに囁きかけると、雰囲気が変わったのを感じ取ったのか、ドクターは犬耳への執拗なキスを中断した。
見上げてくる青年の瞳を真っ直ぐ見つめ返し、ふんわりと花が綻ぶように微笑む。
「すきだよ。こんなにかわいい耳にはなかなかお目にかかれないからね」
あまりにストレートな好意と蕩けるような笑顔を向けられて、テキーラはあっけなく白旗を揚げそうになった。だが、ここで屈したらいつもと何も変わらない。余裕のある男でいたいのに、恋人が好きすぎるせいで、毎回毎回やり返されて子犬のように尻尾を振る羽目になる。
「俺よりも、俺の耳のほうが好きなのかな?」
けれど、テキーラもひとりの男なので。たまにはドクターをふにゃふにゃにしたくなる。ベッドのなかでもつれあっている最中だけでなく。ときめかせて、困らせて、その瞳に自分だけを映してほしいと願ってしまう。
だから敢えて、甘い意地悪を仕掛けることにした。
「そんなことは言ってないだろ。君の耳だからすきなんだ」
ドクターは子どもっぽく頬を膨らまして拗ねる。そんな顔を見られるのも、今はテキーラだけの特権だろうが、ドッソレス育ちの青年はそれなりに強欲なので、もっと困った顔をさせたくなった。
「だって、ドクターが夢中で耳にキスするから
……
。羨ましくて、自分の耳に嫉妬しちゃいそう」
テキーラは外面ほど寛容でもなく、むしろ内心では心が狭いタイプだが、ドクターに関することとなると、その傾向が更に強まる。
たとえ相手が自分の耳であろうと、ドクターの寵愛を一身に受けるのは気に食わない。
キスを受けるなら、もっとふさわしい場所があるはずだ。
ドクターは、挑発的な笑みを浮かべた青年の顔を、しばらくじっと見つめる。
女の顔には特別なんの感情も浮かんでいないように見え、テキーラは戸惑った。いつもなら、ムキになって言い返してくる頃合いなのだが。
「あの、ドクター
……
」
恋人のご機嫌をうかがうべく、テキーラが改めて声をかけた、そのとき。
ドクターの手が左右から青年の顔をがっしりと掴んで固定し、
「
……
っ」
テキーラの唇を、自身のそれで躊躇いなく塞ぎにかかった。
「ん
……
、は
……
っ」
柔らかい舌先が、さも当然のように唇を割って口内に滑り込んでくる。
互いの癖や弱点がわかりきったくちづけは、上等な酒にも勝る酩酊をテキーラにもたらした。
両腕はドクターを抱え上げるのに使用中で、顔もしっかり抑え込まれているから、抵抗する術もなく。
……
いや、もし腕や頭が自由であっても、これほど心地良いキスから逃れるなんて、そんなもったいないことができるはずがない。
ふたりきりの室内に、しばらく濡れた音だけが響いたのち。
やがて、離れた唇からどちらのものともつかぬ熱っぽい吐息がこぼれ落ちた。
「これで
――
」
間近にあるドクターの瞳は、しっとりと潤んでいた。
欲望の気配を宿したその瞳と、くちづけの名残で濡れたままの唇から、テキーラは目を離せない。
「やきもち妬く気はなくなった
……
?」
ドクターの指先が、テキーラの唇をなぞり、頬を辿って顔の横にある耳を撫で、仕上げとばかりに頭頂部の耳を指先でふにふにと弄ぶ。
「この大地のどんなものよりも、君が一番かわいいよ、エルネスト」
歯の浮くような殺し文句と共に微笑むドクターがあまりにも美しかったので、テキーラは瞬きと呼吸を一瞬忘れた。
そして、悟った。彼女には何があっても勝てないのだと。
なぜなら、柄にもなく、どうしようもないほどに、彼女に恋をしているからだ。
テキーラの背後で、人前ではほとんど揺れないはずの尻尾がふさふさと揺れているのを見て、ドクターはゆっくりと目を細め、蠱惑的に微笑んだ。
「そろそろベッドに運んでくれるかな。君のかわいい尻尾が、さっきから撫でてほしそうに揺れてるから」
「
……
撫でてくれるの?」
恋人を抱き上げたまま、テキーラはベッドのほうへ踏み出す。問い掛ける声は、他人には聞かせられないほど、甘ったるく掠れていた。
決して広くはない寝台に女の体を仰向けに横たえ、小さな頭の横に両手を置いて覆いかぶされば、ドクターは楽しげにくすくすと笑いながら再び青年の犬耳に手を伸ばす。
「どこを撫でてほしい? 君が『もういい』って言うまで撫でてあげる」
「そしたら、朝になっちゃうけど」
彼女が撫でてくれるというのに、『もういい』なんて言えるはずがない。
犬耳から髪、そして頬まで。宣言通りに至る所を撫でてくれる温もりに身を委ね、テキーラは目を閉じる。
ドクターは青年のかわいらしい垂れ耳をめくりあげ、
「じゃあ、どっちが先に音を上げるか、我慢比べってことだね」
とびきり甘い声を、その耳に囁きかけた。
【おわり】
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