望月 鏡翠
2026-05-16 23:57:19
927文字
Public 日課
 

#2082 にやりと相棒9

#毎日最低800文字のSSを書く/@tmysmst


 僕たちは、最初それを海の生き物だと思いました。
 海の生き物にどんな姿をしたものがいるのか、全く知らなかったですし、特にここは南の海なのですから。びっくりするような色合いのものだっているし、形だって色々あるんです。
 イソギンチャクだって、すごく変な形をしているけど、ちゃんと生き物でしょう。
 何か違うなと思ったのは、その生き物が空に浮いてウロウロしていたからです。
 虫や鳥ならば空を飛びます。でも羽ばたかないといけません。風船が空に浮いているのは空気よりも軽いものが中に入っているからで、綿毛が空に浮かび上がるのはふんわりしているからです。
 みんな飛ぶ理由があって飛んでいます。
 自由に動き回ることができる生き物は、たぶん相棒くらいです。相棒の形にもよりますが、僕の相棒は手元を覗き込んできたり、僕の肩に乗ったりするのに、ズボンをよじ登ることはありません。
 だから、その生き物もきっと誰かの相棒だったのでしょう。
 近くに人がいるなら、お話をしてみたいと思いました。
 海が好きなのか、ここに何をしにきたのか。珍しい生き物を知らないか、お話してみたいと思ったからです。
 でもその相棒は、おんなじところをぐるぐる回るばかりで、どこにもいけません。そして近くに人もいません。
 海の生き物の形をしています。触ると紫色の液体を出すやつにそっくりです。あの子も紫色になるのでしょうか。
 途方に暮れたように、時折鳴き声をあげています。
 一体どうしたのでしょう。
 僕たちは、その子に声をかけてみることにしました。
 やっぱり、誰かの相棒です。
 雨雲みたいな灰色のもくもくに乗って、その下にはシトシトと手のひらサイズくらいの範囲で雨が振っていました。
 アメフラシみたいです。そうだ、紫色の液体を出すのってアメフラシです。いじめられるとそういうのを出すんです。かわいそうだから僕はやりませんが、そういう海の生き物がいるんです。
「どうしたんだい、こんなところで」
 僕の相棒が、相棒同士で親しげに話かけます。
 でもアメフラシくんは返事をしません。恥ずかしがりなのかもしれません。僕たち二人をみて、もじもじと岩陰に後退してしまいました。