萌音
2026-05-16 18:24:00
5631文字
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お茶受けに龍の恋の話は甘過ぎる

リオヌヴィwebイベ「龍の恋は紅茶の後で」アンコール開催記念。
女子会で恋バナをするヌヴィレット。リオセスリは不在。恋をして少し変わったヌヴィレット。
公爵の不動産情報が気になって仕方がない今日この頃。

とある昼下がり。午後の審判の予定もなく、急ぎ取り掛からねばならない書類もなかったヌヴィレットは、少しばかり場違いなお茶会に出席していた。というのもこのお茶会のメンバー、ヌヴィレット以外は全員うら若き乙女達なのである。

「今日のお菓子はマカロンと、あとエスコフィエに習ってシュークリームを焼いてみたの。あ、ヌヴィレットさんには別でバブルオレンジのババロアを用意してあるわ」
「ありがとう、ナヴィアさん」
「うわぁ〜!どれも美味しそうじゃないか」
「ナヴィアが作ったお菓子は、どれも絶品ですから」
「もう。褒めすぎよ、クロリンデ!ま、事実だけどね」
本日の出席者はヌヴィレット以外に三人ーーフリーナ、クロリンデ、そしてナヴィアであった。とは言えこの集まりに参加するヌヴィレットを〝場違い〟などと称するのは傍から見た事情をよく知りもしない人間だけで、その実、この面子でのお茶会は以前から度々開かれていた。
「でも、せっかくならエスコフィエも参加してくれればよかったのにね」
「あー……どうしても外せない予定があったみたいなのよ」
フリーナに心酔しきっているエスコフィエが、この世の終わりと言わんばかりに本日のお茶会に参加できないことを悔やむ様を思い出しながら、ナヴィアは言う。
「じゃあまた次の機会だね」
「フリーナが気にかけてたって伝えておくわね」
ナヴィアの言葉を聞きながら、それはそれで絶叫しそうだ、と思いながらクロリンデは続けた。
「シグウィンさんにも声を掛けたんだが、診察が立て込んでいるらしい」
「そうか、ヌヴィレットも残念だったろう?」
「気遣い感謝する、フリーナ。だが、あの娘が自身の役割に責任と誇りを持ち懸命に向き合っていると思うと、大変誇らしく思う……
「あー、もー!いつもの娘大好きパパモードに入っちゃったじゃない。今日はそういうのじゃなくて、楽しくおしゃべりしましょってことだったでしょ?」
ヌヴィレットは生真面目にすまない、と断りを入れた。
元々はフリーナ、ナヴィア、クロリンデの三人による友達同士の集まりがはじまりだった。いわば女子会である。時折参加者を増減しながら、この集まりは定期的に開催されていた。ある時、シグウィンが参加するということでパレ・メルモニアの一室を会場として提供したヌヴィレットが流れで集まりに参加することになり、それ以降もヌヴィレットは度々この〝女子会〟に参加している。
「そう言えばシグウィンさんから、今度は要塞でこの集まりをしないか、と提案があった」
「えぇー?要塞でかい?」
「はい。フリーナ様やナヴィアは水の下に出向くことはあまりありませんから。新鮮なんじゃないかと」
「確かに」
「それに、公爵の執務室には珍しい銘柄の茶葉も沢山ありますから」
「あら、良いじゃない!」
「良いね!じゃあ次回はメロピデ要塞の一室をお借りしようじゃないか!もちろん、ヌヴィレットも参加するだろう?」
「いや……良い、のだろうか?」
クロリンデの提案に、嬉々として良い反応を示すフリーナとナヴィア。しかしヌヴィレットだけは違った反応を見せた。
「それではリオセスリ殿に迷惑が掛かるのでは……
……むしろ公爵は喜ぶかと思いますが」
「そうだろうか?」
要塞の管理者のことを案じ難色を示していたヌヴィレットは、部下の思いもよらない返答に目を剥く。
「そうよ。自分のテリトリー内にヌヴィレットさんが居るってだけでテンション上がってそう」
ナヴィアの発言に、全くもって同意だというようにクロリンデはうんうんと頷く。
「それで、美味しいお茶を振る舞ってくれるかもしれないじゃないか!」
「フリーナはリオセスリ殿秘蔵のお茶が楽しみなだけだろう」
「うっ……
痛いところを突かれた、とフリーナは言葉に詰まる。そんな元主君、いや、現友人の様子に、クロリンデが助け舟を出す。
「ですが、あながち間違いではないでしょう。私達だけで訪ねるよりも、ヌヴィレット様がいらっしゃる方が公爵も歓迎してくれるのではないかと」
「う、む?」
「むしろヌヴィレットさんと二人きりが良かったーって言いそうね」
「なんてったって君達は、恋人同士なんだからね」
いまいちピンと来ていない様子のヌヴィレットに、ナヴィアとフリーナも畳み掛ける。そう、リオセスリとヌヴィレットは恋仲であった。
「歓迎どころか、公爵はむしろ私達に感謝すべきなんじゃないかしら」
「そういえば、公爵からヌヴィレット様とお付き合いすることになったと報告はあったが、私達への感謝の言葉はなかったな」
「僕達はいわば君達二人の恋のキューピッドなのにさ」
「その節は……非常に感謝している」
フリーナの言う通り、リオセスリとヌヴィレットが恋仲となったのはこの会がきっかけだった。リオセスリとヌヴィレットは互いに想い合いながらも、それを告げ合うことができず、ただ絶妙に微妙な関係性を続けていた。元々リオセスリの想いを知っていたクロリンデや、ヌヴィレットから相談を受けていたシグウィンを通し、二人のこの両片想いの状況を知っていたお茶会のメンバーは、ヌヴィレットにあれこれとアドバイスを行い、二人はようやっと結ばれたのである。

「それで、最近公爵とはどうなんだい?」
ヌヴィレットが制御できないままに、二人の恋を成就させたお礼にメロピデ要塞を次回のお茶会の会場にさせてもらうという方向で話は進み、ついでにリオセスリに良いお茶を振る舞ってもらおうということでほぼまとまったところで、フリーナはそう切り出した。
「どう、とは?」
フリーナの質問の意図が掴めなかったヌヴィレットは、そのままに聞き返す。
「なんだかんだ君達が恋人同士になって結構経つだろう?恋のキューピッドとしては、二人がうまくやってるのか気になるのさ」
「ふむ」
フリーナの説明に合点がいったようないっていないような様子でヌヴィレットが頷く。リオセスリとの関係を始めて以降、幾分か自身の感情を言葉にすることに慣れてきたヌヴィレットだったが、こうして話を振られたときにはどのように言葉にすれば良いものか、と戸惑うこともしばしばある。
「まあ、要は恋バナが聞きたいのよねー私達」
「ナヴィア。明け透け過ぎじゃないか」
「でも、あんただって聞きたいでしょ?」
ナヴィアの言葉にクロリンデは押し黙る。沈黙は肯定の意だ。どの時代も、うら若き乙女は甘いものと恋バナに目がないのである。
「どう、と言われても……何を話せば良いものか」
「なんでも良いから、公爵との心躍るエピソードやきゅんきゅんするような話はないのかい?」
「きゅんきゅん……
「そうねぇ。例えば最近二人でどこに出かけたーとか、こんなことをして楽しかったーとか。公爵にこんなことを言われて嬉しかったーとか。そんなところかしら?」
まったくもってアドバイスにもなっていない二人のアドバイスを聞きながら、ふむ、とヌヴィレットは思案する。
「そうだな……ああ。二人で出かけるわけではないのだが、次の休みにリオセスリ殿の家に招かれている」
「それって要塞にある公爵の私室ってこと?」
「いや。水の上にあるリオセスリ殿の自宅だ」
「えぇー!?公爵って水の上に家があったのかい?」
「最近購入したものだ」
「水の底から一生上がって来そうにないあの男が、ですか?」
プライベートがほぼほぼ謎に包まれているリオセスリのプライベートな情報に、一同興味津々だった。
「今の発言は目を瞑るが……確かにリオセスリ殿はその生涯の多くを要塞で過ごしている。しかし水の上に資産を持つことも藪坂ではなかったようでな。故に私が購入を勧めたのだ」
「ヌヴィレットさんってば案外積極的〜」
「ナヴィア」
上司への不敬な物言いに、クロリンデがその名を呼んで窘めた。
「だって、もしかしたら将来的にその家に二人で住むことになるかも知れないじゃない?そんな家を買うように勧めたって考えたら、とっても積極的よね」
すごく良いと思うわ、と、クロリンデの窘めを意にも介さず、悪気などまったくない様子でナヴィアは言う。
「リオセスリ殿がどのように考えているかはわからないが……私としてはいずれ共に暮らすことができれば、と思っている」
そんなナヴィアの言葉に、少しだけ気恥ずかしそうにしながらヌヴィレットは答える。リオセスリとヌヴィレットの両片想いについてこのお茶会のメンバーで相談に乗っていた頃、ヌヴィレットは二人の未来はおろか、自身のリオセスリへの想いを口にすることすら躊躇っていた。それが今はどうだろうか。あの時は想像もし得なかった、ヌヴィレットがリオセスリとの未来を語る様子に、一同は二人の仲を取り持つことができた喜びと達成感を噛み締めた。
「良いね良いねぇ!おうちデートってやつじゃないか」
ヌヴィレットの話に、うんうんと大きく頷きながらフリーナが言う。
「しかも新居でしょ?どんな感じの家なのかしら。モダン?それともシックな感じ?」
「公爵はセンス〝だけ〟は良いからな。きっと落ち着いて過ごせる空間だろうとは思う」
「物件選びにはヌヴィレットの意見も反映されたのかい?」
「そもそも公爵だって、ヌヴィレットさんと一緒に住む気満々で選んだんじゃない?」
「確かに!」
ナヴィアの発言に、フリーナとクロリンデが声を揃えて笑いながら言った。
……少し、尋ねたいことがあるのだが」
わいわいと盛り上がる三人に、ヌヴィレットは話題についていけないといった様子でこう尋ねた。
「おうちデート、とは一体?」
「え、そこ?」
思わぬ質問に一同は目を剥いた。しかし相手はヌヴィレット。この会でリオセスリとの仲を取り持ち、交際を始めるまで、まったくもって恋愛初心者だった御仁だ。
「どこかに出掛けるのではなく、どちらかの自宅で過ごすデートのことですよ」
「ヌヴィレットだって、パレ・メルモニアの私室に公爵を招いて過ごしたことがあるだろう?」
「それをおうちデートって言うのよ」
「ああ……いつもの逢瀬のことをそのように言うのだな」
クロリンデ達の説明に合点がいったようで、ヌヴィレットは呟いた。
「逢瀬って言うとちょっと雰囲気が違う気もするけど……
「普段は公爵を招く側でしたから、招かれる側としてプライベートな空間で二人で過ごすというのは、また新鮮でしょう」
「二人でゆったり過ごすのももちろんだけど、将来的に一緒に住む場所かもと思って、家の隅々むでしっかりチェックもしないとよね!」
そう言われ、ヌヴィレットははたと何かに気付いたようだった。そうしてみるみる間にその頬を薄紅色に染めていく。
「え、どうしたんだい?ヌヴィレット」
「もしかして、改めて〝おうちデート〟だって気が付いて恥ずかしくなっちゃったのかしら」
一同は心配そうにヌヴィレットの様子を伺う。ヌヴィレットは小魚のように口をはくはくと開閉したかと思うと、次いで消え入りそうな声で言った。
「つまり……リオセスリ殿と共に暮らすことになれば、毎日がその〝おうちデート〟ということになるのだな……
……はい?」
「毎日デートをするなど、そのようなことをしても良いのだろうか……?それではまるで自堕落の渦に陥ってしまいそうだ……私としてはもちろん願ったり叶ったりではあるが、リオセスリ殿はそんな私を許してくれるだろうか……
耳まで真っ赤にしながら、もじもじとそう呟くヌヴィレットを見ながら、三人はお互いの顔見合わせた。
……ねぇ、フリーナ、クロリンデ」
「待ってくれナヴィア。言いたいことはわかるよ……
……だが、恋バナを聞きたいと言ったのは、確かナヴィア。あなたじゃなかったか?」
「ちょっと!あんた達だってそうだったでしょ?」
確かに三人は恋バナを思っていた。更にそれが自分達が力添えをしたカップルの話であれば、きっとあたたかな気持ちになれるだろうとも思っていた。実際、リオセスリに片想いをしていた頃よりも幾分か成長し二人の未来への希望を語るヌヴィレットに、喜びと達成感すら感じた。
しかし、相手はおうちデートという言葉すら知らず、それでもリオセスリとの濃密な恋人同士の時間を過ごして来たと思われるヌヴィレットである。惚気とも言うべきか、はたまたやや筋違いとも言うべきか、ヌヴィレット口から飛び出した三人の想像よりも幾分か斜め上を行く言葉に、三人は急速に冷静になったのだった。
「同棲したら毎日おうちデートか……その発想はなかったなぁ。流石はヌヴィレット、とも言うべきなのかな」
「あの公爵が相手なんだし、とても言うに憚るようなこともしっかりばっちりやってそうになのにね」
「毎日デートしたら自堕落になっちゃうと思ってるところも、なんか可愛らしいよね」
「案外ピュアというか、ズレてるというか」
「そこがヌヴィレット様の良いところだと私は思う」
いまだに頬を赤く染めながら何やら呟くヌヴィレットを他所に、三人は思い思いに語り合う。
「で、次のお茶会のことだけど」
もし要塞でお茶会をすることになり、公爵も参加することになるのならば、十中八九、このふわふわとした様子のヌヴィレットとそんなヌヴィレットを甘やかすリオセスリを見せつけられることになるだろう。ときめくような恋の話は聞きたいが、かと言って実際に目の前で繰り広げられるその様を見たいかは別の話である。
「あとでシグウィンさんに次はやはり別の場所でと伝えておこう」
「次は僕のアパルトマンを提供するよ」
「それが良いわね」
リオセスリとのおうちデートを重ねるめくるめく日々への妄想を膨らませるヌヴィレットを眺めながら、フリーナ、ナヴィア、クロリンデの三人は静かにティーカップに口をつけた。



end.