氷酒
2026-05-16 13:48:09
696文字
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『掌編 はじめて、』

まりみや組掌編。

「まりん!」
「うわっ……!?」
 急にしゃがんで、なんて言われかと思えば、そいつは迷うことなく俺に向かって突進してきた。
 いや多分、ぶつかることが目的なんじゃないと思う。その証拠にその勢いはさほど無く、体格の差もあって受け止めることは容易かった。
 問題はその後だ。
 何思ったのか、そいつはぶつかった後も離れずに、こちらにしがみついてきたのだ。
 ぎゅっと、俺の首の後ろに手を回して、離さないとばかりに服を握りしめる。
 重いとか、苦しいとか、そんな言葉だったと思う。とにかく文句を言おうとして、しかしそれはそいつが言ってきた言葉に全て消し飛んだ。
「えへへ、まりん、だいすき!」
 俺の方に自分の頭をこすりつけて、こんなに至近距離にもかかわらず、大声でそんなことを言われて。
 そこで俺は今、ようやくそいつに抱きしめられている、ということに気が付いた。
 おそるおそる、両手をそいつの身体に回す。よく女の身体は柔らかい、なんていうけれど、まだ十かそこらの子供など、そんな比じゃなかった。
 少しでも力を込めればあっという間に折れてしまうんじゃないかと錯覚するほどだ。
 小さくて、柔らかくて、脆い。しかし、この小さな体のどこにそんな力があるのか、触れた個所から心地よい暖かさが伝わってくる。
 大丈夫だ、こいつの前では取り繕う必要がないんだ、なんて。
 今まで何度も人を抱きしめていた時に感じていた緊張が馬鹿らしくなり、息を吐く。
「ねぇねぇ、まりんは?」
「ああ、俺も大好きだよ、美夜」

 人を抱きしめるってこんな気持ちになるんだなんて、たぶん俺はこの時に初めて知ったんだ。