asahito
2026-05-16 10:57:34
5046文字
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XYZ③

前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/7583585 一部R18です
続編である今作の第1章(錦上京キャラ中心)はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/14625442 一部R18です
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。

鉱石の展示って綺麗ですよね。

「はあ……
 企画展が終わり少し落ち着いた時期になったとしても、職員が落ち着くとは限らない。次の企画展の告知はしている以上それの準備に追われるのだ。
 加えて寄贈や研究機関との窓口対応、公開講座の開催。やるべきことは山ほどある。それの合間に自分の研究を進めるとなると、本当マルチタスクもいい所だ。
 研究が活かせて人と関わることが少ないと思い目指した職業だが。人と関わらないで済む仕事なんて、本当に皆無だ。
 定期的に開催している公開講座の準備は終わり。安堵の溜息を吐くと思ったより大きな音で吐いてしまったらしく。
「お疲れ様。根詰め過ぎないでね」
 同僚である職員が私にチョコレートのお菓子を差し出してくれた。右手にコーヒーを持っていたので、左手で差し出す形となったが。その薬指に見慣れないものがついているのが見えて思わず声を掛ける。
「ありがとう。あの、その指輪……
 チョコレートを受け取りながら尋ねると。同僚は少し照れくさそうに笑い答えてくれた。
「うん、昨日役所に婚姻届を出してきてね。職場では元の苗字のままで呼んでくれていいから」
 そういえば同僚は昨日午後休を取ると言っていたが、そういうことだったのか。私もユイマンと届出を出すときは休みの日を選んだ。
 ああいうときの休暇はより鮮明に覚えているものだ。誰かにとってはただの勤務日の一日に過ぎずとも。
 万全の状態ではないユイマンだったため、彼女の笑顔は弱々しかった。周囲の誰にも言えなかったけれど。確かにあの日私達は伴侶同士となった。
「おめでとうございます」
 この先職場にユイマンとのことを話す事は、よほどのことがない限りはなかろう。例えば法が変わるなりして制度が変わったら?あり得るかもしれないけど。
 その時私やユイマン達のような人たちはどういった道を選ぶのか。私はどう振る舞うべきか、まだ答えは出ていない。
「ありがと。磐永にも祝ってもらって嬉しい」
 周囲を見ると慣れない指輪をつけて喜んでいる同僚を、呆れ半分、お祝い半分という表情で見ている仕事仲間。普段の仕事ぶりが認められている彼女に、浮かれるんじゃないと説教垂れる人はいない。
 指輪を嵌めた時の違和感と、重さと輝きは。そうだった、ふと口元が緩む感覚がした。
 今のご時世、同僚が結婚するなら次は私の番か。男の影もないが付き合ってる相手はいるのかなど、聞いてくる先輩や上司はいない。
 プライベートはプライベートで干渉はしてはならないという風潮は本当に助かる。昔は上司にお見合い相手を見つけて貰う時代があったと聞いた事もあるが。
 そうであったら、私は醜さから何度も断り続ける事になったのだろうか。それとも醜い痣を受け入れる相手がいたとしてもユイマンを選べただろうか。
……
 いや、きっと。彼女を一番に優先した。結婚したら家庭に入るのが当たり前の時代であっても。それはいつの時代であっても不変の信念だ。
 結婚で浮かれている同僚から頂いた喜びのチョコレート。休憩の大義名分を頂いたので脳を休ませるためにも、昼休憩が遅れていたのでちょっと出てますと言づけて職場の外に出る。
 自動販売機で温かいコーヒーを買って、同僚からのおすそ分けを頂こう。博物館の裏には職員の為の休憩室があるんだよ、とユイマンに最初話した時意外そうな表情をしていたけど。
 働く人がいるんだから休める場所があるのは当然だ。ユイマンの働くビルにだって、社食はあると聞いた。人を酷使する割に福利厚生だけはきちんとしている。
 出土品の保管庫や発掘物の分析を行う部屋が並ぶ廊下を通り抜け休憩室に入る。休憩室は、密室の場合部外者が入って来た場合のことや、正直誰がさぼっているかをすぐに確認するためにドアがついていない。
 簡素にテーブルと椅子が並び。各自スマートフォンを触ったり、研究の本を読んだり、お茶を飲んだりして疲れた躰と脳を癒しているのだ。
 自動販売機で温かい缶コーヒーを購入し。窓から緑がよく見える位置を選び私は椅子に腰かけた。外は寒そうだけど、天気は相変わらずいい。故郷はそろそろ雪が降り始めるころだろうか。
 スマートフォンを取り出して何かニュースはないかと検索してみるが。ユイマンの会社の情報は全くなく、完全に話題というのはなくなったようだ。
 念のため株価情報も見ているがとくに際立った値上がりも値下がりもない。妹の夫になる存在は、ある程度は仕事のできる男であるか。あるいは、豊姫がまた何かしら余計な世話を焼いているのか。
 父の本当の意図は分からない。合併は明らかに得をしない対応だった。確かにあのシステムは私が毛嫌いする層には必須のシステムであるが。
 水道や電気ほど必須のシステムなのか。分からない、分からないが利益を重視する父でも血縁の私情を挟むのだろうか。
 私とは違い妹は父の会社のどこかでは働ことはわかっていたため、ユイマンの会社にいるかは分からない。システムには興味がないだろうから、系列の別業務の会社で働いている方が自然だ。
 夫婦そろって同じ会社に在籍すると言うも、周囲の社員としてやりにくいだろう。あの我儘な妹と一緒に働ける社員がいるというのか。
 蚊帳の外で好き勝手批評しておいて。血縁を毛嫌いしても、逃げた負け犬の遠吠えと言えばそうなのかもしれない。あんな血縁だらけの会社であっても、この国にとっては不可欠な企業でありその下に数えきれないほどの人間が働いている。そこが潰れれば何人の人間が路頭に迷うのか。
『この立派な建物も、誰かが手入れしなければいつかは壊れてしまうんだよ』
 幼い頃父が妹と私を連れて工事現場か何かを見せてくれたことがある。建築途中の鉄骨が組まれ、作業員たちが汗を流しながら重そうな工具を腰に下げ、忙しそうに動いていた。
『こんなに硬くて強そうなのに?』
 私は父に問い返した。妹はまだ少し幼く、それよりも工事現場の周りに咲いてる花に興味があるようだった。
『石も木材も時間が経つと壊れてしまう。変わらないものはない』 
 あんな高い所に登って、あんな深い穴に潜って、一生懸命手を動かして作っても壊れてしまうという。変わりたくないと祈っても、周囲が変えようとする。
『変えないようにできないのかな』
『もちろんできるけど。ずっと誰かががんばらないといけないね』
 だったら不変なんて本当はないし。不変という状況は異常で、誰かの介入なしには成立しないものなのではないか。化石だって、骨だって、保存状況が悪くなれば一気に朽ち果ててしまう。それは私が理解していることだ。
 会社を存続させるためにどれだけ父は動いたのだろうか。
「お父さん……
 誰にも聞こえない声で、呟いた。父はユイマンがいることを知っていたのだろうか。あの不祥事の事を知っているなら、被害に遭っていた社員の事も知っていただろうけど。
 それを知ったうえで何か手を打ったなら。自分の手で娘の伴侶を見ておきたいと言う気持ちもあったのだろうか。社長がじきじきに一般社員を個人的に見に行くにはかなり目立つため、豊姫を使ったのなら。
 結局仕事人間で厳しい決断をする人であっても、娘たちを完全に手放すことはできないのだろうか。母に頼まれたのかも分からないが。
 コーヒーを啜り家計簿のアプリを立ち上げる。
 ユイマンと暮らすとエンゲル係数が上がりがちなので、つけるようにはしているが。その中でもうひとつの家計簿を作り父にいつかマンションを購入する際に貰ったお金を、いつか返すための帳簿を準備する。
 公務員の給料で払い切れるか分からないけれど。結果的に父に返すことはできず、父から見ればはした金額かもしれないけれど。
 だけどそのお金がいつかユイマンの為に残せるお金かもしれないなら、貯める甲斐はあるだろう。
 チョコレートを食べ終えコーヒーを飲み干すと、頭に栄養が行くのかすっきりとした意識に生まれ変わる。
 休憩室を出て分析を行うための部屋に同僚が入っていくのが見えたので声を掛けると。私も一緒に見て欲しいものがあると言われ一緒に部屋に入った。 
「どうしたの」
「ずっと研究してる石があったじゃない。あの石の事なんだけど」
 あの人からもらった謎の石。その石について話題にする人は今の職場ではほぼいなくなってきた。本当、最初はあんなに騒いでいたのに。
 埒が空かず他の研究機関、もっと言えばあの人の一族で石を研究する施設を作った所に私が藁にも縋る思い出お願いした結果が来たのだと言う。
 石はその分析結果に同梱されていたが私が離席していたため、同僚が代理で受け取り分析室に保管しようと思ったらしい。
「何か発見でもあったの」
 あの人の一族の研究ならここで分からなかった事も分かるかもしれない。高鳴る胸を抑え同僚に分析結果を見せてくれるように頼むと、同僚は怪訝な顔をした。
「あまり言いたくないんだけど……結局質の悪い偽物だったのかもね。分析結果からしてもただの綺麗な石ころだってここに書いてある」
「そんな……だって、うちでやった過去の測定の時は前例がない数値で」
 だが、同僚から返って来た言葉は予想とは違っており。一番聞きたくない言葉だったのかもしれない。よく番組で贋作を掴まされて落ち込む人は数多見ることはあるけど、こういう気持ちになるのだろうか。
 あの人が私を騙す為に、この石を渡したというのだろうか。
「分析器が壊れてる可能性は否定できないけど、最近の他の石の数値を見る限りおかしくはなってなさそう。頼んだ研究機関って詐欺施設じゃないよね?」
「それはないと思う。数々の大学の研究でも実績があって……
 同梱されていた石を取り出すと。その石は輝きは放ってはいたが、私が持つと私を拒むような感覚が前よりも消えていることに気付く。感覚的な事を信じるのは馬鹿馬鹿しいと思うけれど。それでも、この石は何か変わってしまっている。すり替えられたとでもいうのか。
「磐永が嘘を吐いてるなんて皆思ってないけどね。測定結果は皆で満たし結果のデータもあると思うけど」
……何だったんだろう」
「機械が調子が悪かったのか。それとも、職員を騙す呪いの石か何かだったって言って歴史部の呪物展で展示してみる?」
 前に小規模企画で開催した呪物展が流行の漫画と相まって思ったよりも人気が出たせいか。
 髪の毛を釘に巻き付けて打ち付けた藁人形や焼けただれた形代、呪術用の仮面などの展示品を見に多くの来場者で賑わった経緯がある。
 こんな綺麗な石が呪いの石だったら面白いわね、と同僚は笑う。嘘ではないけれど、何か詐欺まがいな展示になりそうなのでこの展示は却下だろう。
 それでは昔に流行った見世物小屋の子供騙しみたいなものだ。私達は憶測や仮説に基づき展示をしていることもあるのだから、騙すつもりの悪意のあるものを進んで見せるなんてことはできない。
「まあそんな価値もないし、管理は磐永に任せていいかな」
「うん、そうする。私が寄贈の際に気付いていれば……
「普段からうちに珍しい石を寄贈してくれる人なんでしょ?思い込んじゃうのもしょうがないと思うけどね」
 同僚はそう言って分析室を出て行った。この後上司に呼ばれているのだと言う。
 ひとり、部屋に取り残され。私は並んだ石を眺める。
 機械の誤作動ではないだろう。この石は、オカルト的なことは言いたくないが確かに不思議な力を持っていた。
 それがどんどん時間が経つにつれ力を失っていき最後はただの綺麗な石になり果てたのだ。
 まるで、連続する私たちの周りの変化に反比例するように。変化が日常的になるにつれ、その不可思議さがなくなっていった。
 だから周囲もあまりその石に興味を示さなくなっていって、私くらいしか覚えてないものになった。
 お守りや加護を得るためのパワーストーン、というものはあるが。その類とも違う。お守りとして持つものとは桁が違う。
 否応なしに変化をもたらして、頑固で変わろうとしない何かを変えようとする。
「変化の、石……」 
 不変であるはずの石が、証明ができない力を持つ変化の石であったならば。
 私はなんとしても直接あの人に会わなければならないという決心が固まった。




 続く