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櫨
2026-05-15 19:50:50
8760文字
Public
小説(pixiv公開済)
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never far from...
「良いふうふの日」に寄せて。あるいはRe:valeと結婚について。
とあるきっかけから、4月22日に婚姻届を出す「Re:vale婚」が流行する。
市役所の窓口で働くRe:valeファンの職員が気持ちを重ねる個人的な恋愛事情。
時系列はムビナナ後。ムビナナ(というか『Journey』)鑑賞済を前提としています。
名無しの一般人視点のお話です。千も百も直接は出てきません。
ファンである一般人の認識する限り、Re:valeは結婚していません&作中で結婚はしません、が。
受けとめ方によっては、ある点センシティブかと思います。いろんな意味で何でも許せる人向けです。
四月二十二日は「よいふうふの日」。
十一月二十二日は「いいふうふの日」。
記念日としては十一月のほうがメジャーな印象だったけれど、ここのところ四月がぐんぐんと追いつき追い越しそうな勢いになっている。それを肌で感じるのは、私の仕事がらもあるだろう。
いいふうふの日に結婚することを『いいふうふ婚』と呼ぶらしい。
であれば、よいふうふの日に結婚することは『よいふうふ婚』と呼ばれるかと言うと、そうはならなくて。
なぜか、『Re:vale婚』と称されつつある最近なのだった。
[4/22 08:25]
「
……
というわけで、本日、四月二十二日は窓口の混雑が予想されますが、落ち着いて業務を進めて下さい。なお、今日から連休までの一週間、届書の一次データ入力はスポットの派遣さんに作業していただきます。その間、フリーアドレス席は使えませんので注意して下さい。では、朝礼を終わります。本日もよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
開庁五分前。朝礼を締めくくる唱和の声とともに、皆が自席へと戻っていった。私はまだ戻らず、バインダーを手に持って朝の雑務に取りかかる。
「お弁当配達サービスの注文数まとめまーす。今日の献立はタルタルチキンです。希望者の方は挙手して下さい」
声を張り上げると、ぱらぱらと手が上がった。忙しい一日になると思われるからか、いつもより人数が多い。ひとりずつ名前を呼んで確認し、バインダーのクリップに挟んだ注文票へと記入していく。そのついでに、さりげなく自分の名前も書き込んだ。
「注文するの? 珍しいね、いつも手作り弁当なのに」
「あっ、はい、炊飯器が故障しちゃって。修理と買い替えで迷ってるとこです」
通りがかり、ちらりと覗き込んだ職員に話しかけられて、一瞬どきりとしつつ用意しておいた理由を口にする。
それは大変だねえ、と気遣う言葉に曖昧に頷きつつ、背後で交わされる別の会話にこっそりと耳を向けた。
短期スポットの派遣スタッフたちが、端末入力担当の職員から説明を受けている。今年は三名。全員が女性だ。
「
――
昼休みは正午から十三時です。庁舎内食堂をお使いいただけます。もちろん、外にお食事に出られても大丈夫です」
「あの、すみません。お弁当を持参する場合、席での飲食は可能ですか?」
落ち着いた声の質問に、説明の職員が軽く頭を下げる気配があった。
「中食など、自席でご休憩いただいて構いません。いずれの場合も休憩時間の五分前から端末をロックして、クリアデスクをお願いします」
「承知しました。フリーアドレス席は初めてなので、念のためお聞きしたくて」
「あ、そうですよね、今年度から導入しまして。窓口内ですが、パーテーションがありますから、以前よりは落ち着いた環境になるかと思います」
年に一度、恒例となっている臨時増員体勢。今回来てくれた派遣スタッフは、全員が過去に同じ入力作業で勤務実績のある、言うなれば常連さんなので、お互いにリラックスした雰囲気で確認を進めている。
ほっと息をついて、お弁当の注文の取りまとめに戻った。
私の職場は、人口二十万人ほどの自治体の市役所。そこの市民課で、非正規雇用の公務員
――
いわゆる会計年度任用職員として働いて、三年目の春を迎えている。
春は異動の季節だ。市民課は転入・転出やそれに伴う手続きを主に、各種の届出処理が集中する繁忙期となっている。
加えて今日は四月二十二日。「よ」い「ふ」う「ふ」の日だ。この日付に合わせて婚姻届を提出する人が、近年かなり増えて、もとから人気だった「いい」「ふ」う「ふ」の日、十一月二十二日を凌駕する勢いになりつつある。
なぜかというと。
お弁当の注文FAXを送信するあいだ、壁の掲示に目をやる。各種の通知や告示とともに、やけにカラフルな届出用紙が一枚、貼られていた。
柔らかなグリーンの背景に、淡いピンクの小花模様。右下の空きスペースには、指輪がふたつ、寄り添うように置かれている。
「指輪、か
……
」
役所の無味乾燥な書式とは一線を画す、春めいたデザインの婚姻届。良いふうふの日に合わせ、数年前から恒例となったブライダル情報誌の名物付録、「春色婚姻届」だった。春らしいカラーとデザインが好評、という話だけれど。
色の組み合わせが、人気アイドルデュオのRe:valeを連想させること。
Re:valeは「夫婦漫才」をトークやバラエティの持ちネタにしていること。
そして何よりも長年のふたりの仲の良さから、Re:valeカラーのこの婚姻届を使って良いふうふの日である四月二十二日に届け出る『Re:vale婚』が、ファンの枠を超えて、ふうふ円満を願う験担ぎのひとつになりつつあるのだった。
カウンターの向こう側には、本日一番乗りの来庁者、ふたり連れの男女が立っている。広げて持った婚姻届がちらりと見えた。
ふたりの名前が書き込まれた、春色の婚姻届。Re:vale色の婚姻届。
良いふうふの日が、始まった。
[4/22 12:15]
細い住宅路を曲がって、さらに曲がって、信号なしの横断歩道をひとつ渡ったところに小さな公園がある。ブランコと鉄棒、色褪せたプラスチックのベンチがひとつ。藤棚の下の砂場は、もうずっと封鎖中。
庁舎から少し距離があるし、皆が使うコンビニとは逆方向になるので、職場の人と鉢合わせる可能性はほぼ無いのが有り難い。私の気に入りの休憩場所だ。
タルタルチキン弁当とマイボトルを入れたランチトートを手に提げて、入り口の車止めを通り抜ける。
ベンチにゆったりと座って、彼女が居た。膝に幾何学模様のスカーフを広げて、その上にはぴったりと蓋をしたままのお弁当箱が置かれている。
朝、お弁当を食べる場所について質問をしていた、派遣スタッフのひとりである彼女。それがなぜ、こんな穴場めいた公園に居るのかというと。
実は、彼女は、私の彼女なんである。
「ごめん、遅くなった! 先に食べててよかったのに」
「ああ、別件の仕事の連絡があったから。ちょうど良かった」
手に持ったスマホを振っている。でもそれはきっと、あえて作った用事だろう。親しい友人や恋人が相手でも、気遣いを気遣わせないひとだから。それがなぜ、分かるのかというと。
彼女の彼女は、私なんである。
× × ×
出逢ったのは、ちょうど一年前。
毎年恒例の臨時増員に派遣スタッフとしてやってきた彼女と、当時はまだ窓口ではなく端末操作がメイン業務だった私は、入力作業のペアとなった。
届書のデータ入力は、一次入力担当の派遣スタッフとベリファイ入力担当の市役所職員、必ず二人組で行う決まりとなっている。なお、他のペアが入力したデータの目検も、同じ組み合わせの二人で行う。
仕事の相方として、一週間のあいだ物理的にとても近い距離で過ごしたものの、その間はほぼ業務上の会話しかしなかった。なにしろ繁忙期だったし、窓口カウンター越しに来庁者の目もある。VDT作業の休憩時間やランチタイムには、短期の派遣さんに直雇用の職員がくっついていくのも気詰まりだろうと、話しかけたり誘ったりすることはあえて控えていた。
ほとんど私語を交わさないままに迎えた、彼女の最終出勤日。
ゴールデンウィークは目の前、繁忙期も一区切りで開放的な気分になっていた私は、帰り際、打ち上げがわりに軽くお茶でも、と彼女を誘った。
駅までの道すがらにある小さなパティスリーに入り、焼き菓子と紅茶を載せたトレイを持ってイートインコーナーに座ったところで、気がついた。控えめに流れている店内BGMが、インストゥルメンタルのRe:valeメドレーであることに。それも、ありがちなオルゴールとかではなくて、音盤しか出ていないシンフォニックアレンジだ。
ひょっとして店の人がコアなRe:vale推しなのかな、だったら嬉しいな、と頬を緩めつつ小さくハミングをして、ふと向かい側の席を見れば、琥珀色のアイスティーの向こう側、彼女もまた微笑を浮かべて、指でリズムを取りながら聴き入っていた。綺麗に切りそろえられた爪の先が、狭いテーブルの上で踊るように、けれど音は立てずに、裏拍でリズムを刻む。
思わずまじまじと見つめてしまい、気づいた彼女が、私の方に顔を向けて面映そうに笑った。
『
……
好きなんです。この曲』
タイピングは正確無比、目検の見逃しは絶無。仕事中はずっとクールな横顔を見せていた彼女の、初めて見る表情。穏やかで親しみを含んだ照れ笑いが、なんだかすごく可愛くて、胸がきゅっとなった。
『私も、
……
好きです』
流れていた曲のここが好き、Re:valeのここが好き、とぽつぽつと話をして。私も彼女も、両推し
――
というより、ふたりだからこそのRe:valeのファンだと知った。
ふたりで奏でるハーモニー。ふたりで語るトーク。ふたりで踊るダンス。何よりも、ふたりの世界を作りだすライブ。
世の中にRe:valeのファンはたくさん居る。けれど、こんなにも想いを共有できる相手と出逢ったのは、初めてのことだった。
引き出しの奥にしまったまま、忘れていた宝物を見つけたような気持ち。黄金週間の入り口で、思いがけず与えられた輝く時間。
紅茶が冷めるのも、アイスティーの氷が溶けるのも忘れて、果てなく語り合った。Re:valeの話、音楽の話、アイドルの話。チケット取りの苦労話の流れから、翌月に控えていた四事務所の合同ライブの話題へと。
彼女はDAY1、私はDAY2だけ取れていた。DAY1が終わったら見どころや感想を教えて欲しい、という私の頼みを彼女は快諾してくれた。だけではなく、DAY2が終わったら感想を語り合いませんか、と提案されて心が弾んだ。
ラビチャと、ラビッターと。連絡先を交換したところで閉店時間となり、店を出た。
――
それから、およそ一ヶ月後。
DAY1の公演終了後、彼女から謎のラビチャが届いたのだった。
『水たまりを避けるか、避けないか、見ておいて』
× × ×
ふたり並んでお弁当を食べる。私は注文したタルタルチキン弁当。彼女は私が今朝作ったお弁当。
日々のお弁当作りは、定時に出勤する私の担当だ。彼女が在宅で仕事をする日にはおかずだけ残して行き、外へ仕事に出る日にはお弁当箱に詰める。
「雨が止んで良かった。ベンチがすぐに乾くのもこの公園のいいところなんだよ」
昨夜遅く、小降りの雨があった。幸いにして夜明け前には降り止んだけれど、公園が使えずにそれぞれ自席で食べることになれば、他の職員に同じおかずのお弁当を見られてしまうかもしれない。注文用紙を悪気なく覗き見る、家の事情を悪気なく問う。そういう人は居る。この職場に限らず、どこにでも。
それで、職員向けのお弁当サービスを使える私が注文することにしたのだった。たまに食べると美味しいし、参考にしてレパートリーを広げられそうで、これはこれで良かった。
「職場の人に知られるのは、やっぱり気まずい?」
「んー。気まずいっていうか、めんどいっていうか、
……
いろいろと、説明が必要になるのかなって考えると」
私の部屋の更新を機に、ひとり暮らしのふたりからふたり暮らしのふたりになったのは、三ヶ月ほど前のことだ。フリーランスの実績を築きながら短期派遣で働く彼女と、公務員試験を視野に入れつつ非正規でキャリアを積む私と。心と暮らしに、安定と安心を得られる、最良の選択をしたと思う。
合同ライブの次の週末。ライブの感想会という名目で再会し、顔を合わせた瞬間にはっきりと己の気持ちを自覚した。
――
この人とまた会いたい。この人ともっとずっと一緒に居たい。語り合いたい。触れ合いたい。
それから、いくつかの甘い駆け引きの後に正式に付き合い始め、半年を経ての同居。私たちにとって、ふたりで居ることは当たり前になりつつあり、ごく自然な気持ちで一緒に暮らす道を選んだのだけれど、むしろそれゆえに職場での伝えづらさはある。
恋人との同棲か、友人とのルームシェアか。
個人的には二択というより、両方の気持ちなのだけれど。
なんとなくの沈黙のまま、ふたり並んでもくもくとお弁当を食べる。庁内食堂の配達弁当は、日替わり定食と同じおかずだ。タルタルチキンは人気のB定食。彼女のお弁当には、から揚げとゆで卵を入れた。鶏肉と卵で、ちょっとだけ素材被りしてる。そういうのも楽しいかも、と思ったんだけどな。
不意に彼女が、すいと指を上げた。
「見て。ブランコの下に、避けて貰えない空間が出来てる」
「へっ?」
示された先を見る。ブランコの下に、雨の置き土産。小さな水たまりが出来ていた。思わず噴き出してしまう。
「千さん、あれくらいなら避けてくれるかも」
「どうだろう。千のことだし」
「百ちゃんは軽やかに飛び越えたのになあ」
「そう、それ。結局ふたりとも『そっと避けて』はいないところがさらに味わい深いよね」
水たまりを避けるか、避けないか。
受け取ったラビチャの文章に首を捻りつつ臨んだライブを懐かしく思い出す。歌詞の中ではそっと避けているはずなのに、悠然と仮想の水たまりを踏んづけて歩く千さんを見て、やっと意味が分かった私は、ペンライトを抱いてひとり噛み締めるように笑い続けたっけ。
「あの後しばらくネタとして使い倒していたのがまた良かった。いじってもいじられても鉄板で面白かったし」
「そうそう。ネクリバの再現水たまりシリーズ、楽しかったな。よその番組だとあれが良かった、愛なNightの三月くんと百ちゃんのダブルMC回! Re:vale時空のやつ」
百ちゃんいわく『実は、ユキが歩くと、水たまりのほうが避けちゃうんだよ。さすが世紀のイケメンだよね!』とのことで、対する三月くんの『いやオレらも立つステージの時空を歪めるの勘弁して下さいよ』からのアイナナ全員の総ツッコミ(若干名のボケも混じりつつ)が最高だった。
ふふふ、と思い出し笑いをする私を横目で眺めて、彼女が言う。
「そういえば今年の春色婚姻届には指輪が描かれているんだね。あれ、合同ライブの時の指輪に少し似ている気がする」
「あ、私も思ってた! 見るたびに連想しちゃう」
柔らかなグリーンと淡いピンクの宝石に飾られた、婚約指輪っぽくも結婚指輪っぽくもないデザインの指輪。Re:valeを意識した指輪では? と一部では囁かれている。
「Re:valeと春色婚姻届、っていうかあの雑誌、正式にコラボとかしたらいいのになあ。非公式でも、ネクリバでネタにしたりしないかな」
「それはないでしょ」
ばっさりと切り捨てられて、口に運びかけていた割り箸が止まった。
「
……
うん。だよね」
合同ライブで初披露となった新曲『Journey』を、Re:valeは、左手の薬指に指輪を嵌めて歌った。愛を誓うための指に、ふたりの色の宝石を置いて。
DAY1の直後、界隈は騒然としたが、見はからったかのようなタイミングでスタイリストのコメントが出された。古代エジプト・ギリシャにおいて、左手の薬指には心と命に繋がる静脈があるものと考えられていた。その伝承に倣い、曲のテーマである「いのち」のモチーフを担うものとして薬指に嵌めてもらったのだと。
ふたりの衣装もまたどことなく古代文明を思わせるものであったことが傍証となり、この解説には納得感があった。それとまあ、指は違うけれど、そもそもRe:valeはペアリングが標準装備じゃんね、今さらじゃんね。と皆で頷きあい、ことは収まったのだった。収まった、けれど。
時おり、考える。
あの時、ほっとしたファンと、がっかりしたファンと、どっちが多かったんだろう。
私たちは
――
彼女は、どっちだったのだろう。
「今は、ね」
ぽつんと彼女の声が落ちた。
「え?」
「今はまだ、難しいと思う。けれど、いつかは」
食べ終わったお弁当箱の蓋を丁寧に閉めて、膝に広げていたスカーフで包みながら、淡々とした声のままで彼女が言葉を続ける。
「Re:valeの旅は続いているよ。あの曲みたいに。だから、いつかね」
あの曲。リリースされて以来、『Journey』はずっと彼女の、一番の気に入りの曲だ。
雨上がりの水たまりを軽やかに飛び越えて、あるいは、ものともせずに踏み越えて、彼らは旅を続けていく。
[4/22 17:25]
繁忙期のピークながら、定時で上がることができた。
残業で入力作業のヘルプを依頼するかもしれない、と言われていたのだけれど、彼女をはじめとする派遣スタッフが有能かつ手慣れていたおかげで、本日の受付分はベリファイ入力まですべて終わったとのことだった。プロフェッショナルっぷりに感謝しかない。
……
おかげで、ふたりで一緒に帰れる。
私の定時は、午後五時十五分。短期派遣の彼女の定時は、午後五時ちょうど。
先に庁舎を出た彼女から、彼女らしい簡潔なラビチャが届いていた。
『あの店に寄っています』
× × ×
イートインコーナーで、彼女が待っていた。
取り急ぎで注文した紅茶をテーブルの上に置き、彼女の向かいの椅子に座って、ふうっと深く息を吐く。
「お疲れ様。去年はあまり意識していなかったけど、やっぱり四月二十二日の窓口は凄く混雑するんだね」
「二十二日に窓口に座るのは初めてだったけど、普段よりぜんぜん人が多かった! 転入出時期ってのもあるかな」
この日ゆえに集中する婚姻届と、春ゆえに集中する転入届、転出届。役所の職員には毎日のルーティンワークでも、窓口に来た人にとっては人生の節目だ。たいてい緊張しているし、こちらも緊張する。
「でも、婚姻届はみんな幸せそうな顔をして出してくれるから、窓口応対していて楽しかった。ハッピーの波動浴びまくり!」
「波動って」
言葉は簡潔で抑揚に乏しいけれど、クールな表情の下で、めちゃくちゃ面白がっているのが分かる。だって、彼女だから。彼女の彼女は、私だから。
「多分、私たちからも出てるよ。その波動。Re:valeみたいなやつ」
「Re:valeみたいな?」
「そう。相方、友人、同志、恋人」
ひとつずつ指を折って、数えていく。相方の親指、友人の人さし指、同志の中指。恋人、でなぜか小指を曲げた。
「
――
いつかは、ここからも」
残った薬指を、ゆっくりと折りたたむ。それから、そっと私の手を取り、なにか小さいものを握らせた。
「いつかの前に、これは一年目の記念。おめでとう。ありがとう。出逢ってくれて」
「えっ
……
」
握らせられたてのひらを、こわごわと広げる。
指輪だ。しっとりと輝く銀色の環に、春の陽を浴びた新緑みたいなグリーンと、春の風に揺れる花弁みたいなピンク、ふたつの色を分けあった小さな小さな石がついている。
「ちょっと、ねえ、待って
……
これって」
バイカラートルマリン。Re:valeカラーの宝石いいな、いつか欲しいな、と言ったことがあった。けれど、稀少な石だけに、相当高価なはず。
「仕事で繋がったハンドメイド作家に、ルースを持ち込んで作って貰ったものだから。カジュアルに使って大丈夫だよ」
私が無粋なことを言ってしまう前に、彼女が機先を制する。気遣いを気遣わせない。でも、嘘はつかないひとだ。あまり重すぎないものに留めてくれたのだろう。
小さな輝きを見つめたまま固まってしまった私のてのひらから指輪を持ち上げて、目で問いかけてくる。頷き返すと、私の左手を取り、薬指に嵌めてくれた。
「波動、出てる
……
ここから、すっごい出てるよ
……
」
万感の想いで言ったのに、彼女はなぜか顔を下に向けて、ぶるぶると肩を震わせた。めちゃくちゃ笑ってる。なんでよ、って思うけれど、彼女のこんな大爆笑はレアなので、しばし観察しているうちに、なぜか笑いが移ってしまって。ふたりで、テーブルの紅茶が、アイスティーが揺れるくらいに肩を震わせ、喉を震わせて、笑った。
笑いあう私たちの後ろで、Re:valeの曲が流れている。また音盤しか出ていない、今度はアコースティックバージョンだ。やっぱりこの店、Re:valeのファンが居るんだろうな。
シンプルなギターにのせて歌われる『Journey』。一年前の今日には、世に出ていなかった歌だ。いのちと愛の歌。
ふたりでゆったりと歩きながら歌っていた、合同ライブでのRe:valeを思い出す。ふたりでいること、ふたりで歌うこと、そのことが本当に幸せそうだった。
だから私たちは、Re:valeのファンになるのかもしれない。
「
……
そっか。ふうふじゃなくても、Re:valeみたいになればいいんだ」
「それ、よっぽどハードル高い。長い旅になるよ」
彼女が、目もとをたわめるようにして笑った。穏やかで親しみを含んだ照れ笑い。私の大好きな笑顔。
「大丈夫、のんびり行けばいいんだよ。旅はいつだって途中なんだから」
宝物はもう見つけている。離さずに胸に秘めて、ずっと一緒に旅をしよう。
ふうふのように。
Re:valeのように。
そうして、私たちも、よいものとして生きていこう。
いのちを、愛を、歌いながら。
(feat.『Journey』)
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