遊悟
2026-05-15 16:57:20
1812文字
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Your Answer

DXのUGNなIF妄想


 煙草でも吸うかとシガレットケース片手に立ち寄った、UGNの支部の喫煙所。そこには先客がいた。
……ああ、夜宵か」
 壁に背を預け、ゆったりと煙草をくゆらせるガタイの良い男。
 見た目は三〇歳ほど。眼鏡をかけても緩和しきれない強面のその男の名は、遊悟という。
「なんだ、また研究所ラボから追い返されたのか?」
 年の近い夜宵に対して、遊悟は気さくに声をかけてきた。
「うるせぇ。また、とか言うな。
 ……陽はどうした? 監視……もとい、護衛してねぇのか?」
「四六時中こんな男につきまとわれちゃ、息苦しいだろ。
 今はこの支部内でレネゲイドウィルスのお勉強中だから、俺は一時休憩ってワケ」
 夜宵の疑問に対し、遊悟は厚い唇を笑みの形に歪めて答えた。
「他のエージェントが見てるから安全ってか」
「そう」
 遊悟はふーっと紫煙を吐き出す。その煙の行く末をなんとなく目で追いながら、夜宵はケースから紙煙草を1本引っ張り出す。
「陽はまだ覚醒したばかりだもんな。知らなきゃいけないことだらけだ」
「そういうこった」
 自分たちが罹患してしまったレネゲイドという不思議なウィルス。人に超常の力を与え、時にはその精神さえも変調させてしまう恐ろしいソレウィルスを、もう知らぬフリはできないのだ。
「一度ウィルスに侵されたら、元には戻れねーからなぁ」
……わかんないだろ、そんなの」
 煙草に火をつけようとして、夜宵はその手を止める。
 脳裏を過ったのは、弟の―――陽羽の姿。
 ウィルスに罹患し、発症し、その超常の力で両親を殺害した。
 そうしてこの自分夜宵も手にかけ、そのまま行方をくらました……
 ―――ジャーム化だ、と専門家は言っていた。
 発症者の一部は、ウィルスによる強大な力と引き換えに精神を食われ、そのようを変調させてしまうのだと。
「ウィルスなんだから、死滅させる薬があったって、いいだろ」
 そう言い捨てると、夜宵は今度こそ煙草に火をつけた。舌に乗るその煙の味は、いつもよりも苦く感じた。
「少なくとも、俺の知る範囲では、そんなモン存在しねぇな」
「ないなら作れば良い。それだけのことだろ」
 煙とともにそう吐き出せば、遊悟がなんとも言えない眼差しを向けてきた。
……夜宵、お前の弟は」
「陽羽は大丈夫だ。絶対に俺が救い出してみる……ウィルスの地獄から」
 そう、あの弟が、望んであんなことをするわけがない。
 きっとウィルスが―――陽羽を蝕んだウィルスが、彼を操って、あんな凶行を引き起こさせたのだ。
 だから、助けなくては。
 弟が苦しんでいるのなら、助けなければ。だって、自分は「兄ちゃん」なのだから。
……そう、か」
 気遣わしげな眼差しを感じる。けれど、夜宵は敢えて気づかないフリをした。
 だって、そんなことあってたまるか。
 弟を救う手段がないなんて。
 陽羽に巣くっているウィルスを消す手段がないなんて。
 陽羽はもう二度と昔のようには戻らないなんて……
「んで、陽の座学は何時までなんだ?」
 話題を逸らすように、夜宵は陽のことを尋ねた。
「予定では、あと30分くらい」
 腕時計に目を落とし、遊悟は答える。露骨な話題逸らしでも乗るくらいには、気を遣ってくれたらしい。
「終わったらみんなでメシでも食いに行くか。どうせまだ昼食食ってないだろ?」
「ん、まあ、一応」
 短くなった煙草を灰皿に押しつけ、遊悟は新しい煙草を取り出した。
「夜宵がつきあってくれンなら、もう1本吸ってくか」
「なんだその目は……しょうがないな、コーヒーなら奢ってやる」
「カフェオレがいい。ミルクと砂糖多めのヤツ」
「我が儘だな」
 年上をこき使うなんてとぼやきつつ、煙草を一旦灰皿に置き、夜宵は喫煙所のドアを開ける。
「そこの自販機で買ってきてやる。ちゃんとイイ子で待ってろよ?」
「うん」
 遊悟が新しい煙草に火をつけたのを見やると、夜宵はコーヒーを買うために、一旦喫煙所を後にしたのであった。



「夜宵は弟サンのこと、大事に思ってるんだなぁ」
 煙草をくゆらせながら、ひとり残された遊悟はポツリと呟く。
「でも、さ。
 ―――もしレネゲイドを消し去れば正気に戻るんだとしても、親殺しの罪までは消えないんだぜ……?」
 誰にも聞かれなかった言葉は、煙とともに静かに消えていったのであった。