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ぬす
2026-05-15 09:00:18
6506文字
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シスターコンプレックス(健全版)
サンポの妹が過保護な兄に心配されるンポ夢です。夢主に他キャラへの恋愛感情があるのでご注意ください。
ユメ
ユメ
ユメ
ユメ
※キャラの妹設定
※夢主にサンポ以外への恋愛感情がある
溺愛、というのだろうか、
私には両親がいない。幼い記憶にすら残っていない。
育ててくれたのは年の離れた兄だった。青い髪に緑の目、お世辞にも似ているとは言い難い彼は私をただ一人の妹だと十数年もの間大切にしてくれた。
血の繋がりがあるのかは知らない。兄は勿論あると言い張っていたし、そうでもなければここまで育てはしないのだろうが確証はない。
両親の話を聞けばまるで作り話かのようにころころと設定が変わって、実在したかすらわからない。
それでも良かった。私にとって兄は大切な人、血の繋がりがあろうとなかろうとそれだけは事実だった。
ただ一つの問題点を除いては。
「いいですか?知らない人が来ても絶対に開けてはいけませんよ!」
「わかってるよ。開けて良いのはナターシャさんとゼーレさんだけ。あとフックちゃんも特例でよし、だっけ?」
「そうです!お出かけしても構いませんが、遠くへ行ってはいけません。あとは
……
」
はいはい、といつもの忠告を流して玄関へと彼を押し出す。
年が離れているせいか兄は心配性の過保護だった。いつまでも小さな子供のように言いつけを守らせて、私よりもフックちゃんの方が冒険しているかもしれない。
おかげで生まれ育った地であるにも関わらず下層部にもあまり馴染めているとは言えない有り様だ。
私としてはナターシャさんの診療所の手伝いをしたり、ゼーレさんと地炎としてみんなの役にも立ちたかったのだが、兄が許してくれなかった。
可愛い妹に危険なことはさせられない、と言うが何もしないで生きることこそ危ういのではないだろうか。
そろそろ自分一人での生き方を考えたいと言っても「反抗期ですか?可愛いですね」とまともに取り合ってくれない。
甘やかされるのは嫌いではないのだが、もう少し一人の人間として見てほしいのが望みだった。
「ほら、お兄ちゃんが出発しますよ。行ってきますのキスをしてください」
「
……
私もう大人だよ」
「ああ、可愛い
ユメ
のために今日も一日頑張って働きに出るサンポに対してこの仕打ち!僕は子育てを間違ったのでしょうか!?」
「わ、わかったから。それやめてよ、もう」
屈んだ兄の頬に一瞬だけ唇を触れさせる。
子供の頃からの習慣だった。まだ無邪気だった頃、働きに出る兄を応援するために頬にキスをしたのが始まりだ。
今となってはそれをしないと兄の方が駄々をこねるのだからどうしようもない。
上機嫌で私の頬にキスをして出かけて行った兄の背を見送って、こそこそと自身も外出の準備を始める。
今日は上層部で何やらお祭りがあるらしい。
日頃から遠くに出るなと言われているのもあり、上層部と下層部が再び繋がってからも地上に出たことはなかった。
一人がダメならばと兄を誘っても彼が良い顔をすることはなく、そこへ行く機会はずっと失われたままだった。
だからこそ、今日をその日にしたい。
買ってもらったとっておきのスカートを履いて、化粧品だって使ってみよう。
何の仕事をしているかはわからないが、兄は下層部ではとても手に入りそうにないものを次々と手に入れては私にくれる。
そのおかげで不自由なく暮らせてはいるが、やはり人々の目が痛かった。だから、こういったものを使うのは特別な時だけと決めている。
「メイクってこうでいいのかな
……
濃すぎると変だよね」
ピンクブラウンのアイシャドウを塗って、アイライナーはブラウンとボルドーのどちらが似合うのだろう。チークは、リップはと悩んで、何とか自然な可愛らしさに見えるように化粧を終わらせる。
華やかなスカートに似合う白いブラウス、靴はおろしたてのパンプスと揃えていって、最後にもうひとつアクセントが欲しい。
何かないかと引き出しを開けて、見つけたのはローズゴールドの腕時計。
これならスカートにも似合うし、何より兄が心配するような時間までに帰ってこられる。
鏡で確かめた自分の姿はもう子供ではない、一人の女性といっても過言ではないだろう。
「あとはお兄ちゃんに出会わなければ勝ち
……
!」
お洒落をして、遠くに遊びに行く。
ずっとしてみたかったことだ。本当は一緒に行く友達でもいれば良かったのだが、いないものは仕方ない。
もしかしたら、今日そんな友達ができるかもしれない
――
そんなことを考えて、一歩外へと踏み出した。
地上というのはこんなにも明るいものなのか。
すでにパンプスの歩きにくさに負けて情けなくよろめく私を洒落た服装の人々が颯爽と避けていく。
細かいことは何も知らないままに辿り着いたのだが、お祭りがあるのは事実のようだ。
人々は楽しそうに笑って、大守護者様とやらの登場を待っているようだった。
キョロキョロと辺りを見回せば、上層部の軍人らしき人々が重々しく広場を取り囲んでいる。
人々は祝いの空気を楽しんでいても、護衛の人間からすればそうではないのだろう。先程から私の様子をちらちらと伺う者もいる。
「ヒールってこんなに痛いの?うう、どこかで座りたい
……
」
慣れない靴で来たのは失敗だっただろうか。日頃引きこもってばかりの私の足はもう限界を迎えている。
なんとかベンチを見つけ出して座り込んだ私に、誰かが声をかけてきた。
「失礼する。君、見ない顔のようだが下層部の者か?」
眩しいほどに高潔な色で全身を包んだ男性がこちらを見下ろしている。
明らかにこちらを訝しんだ表情で、とんでもない圧を感じる。
手には奇妙なギターケース。しかしミュージシャンにしてはファッションが
――
いや、これも軍服だろうか。
「あ、あなたは誰?私、知らない人と話すなって言われてて
……
」
「僕はジェパード・ランドゥー。シルバーメインの戍衛官だ」
「シルバーメイン?」
その言葉に兄からの忠告を思い出す。
シルバーメインに捕まればタダでは済まない。そうだ、上層部の軍人
――
彼らは皆シルバーメインの人間だ。
兄はいつだって彼らに追われては逃げていると語っていた。もしかしたら、私も危ないかもしれない。
「わ、私、遊びに来ただけなの!上層部でお祭りがあるって聞いて、楽しそうだと思って
……
捕まえないでください!」
「落ち着いてほしい。君の名前は?」
「名前?えっと
……
ユメ
、です」
怯える私を見てますます警戒を強める彼の眼光に今にも泣き出してしまいそうになる。
やはり、兄の言いつけ通り遠くに行くべきではなかったのだろうか。いやしかし、そうはいってももう遅い。
「君は下層部の者で合っているか?」
「
……
そう、です。あの、私捕まっちゃうんですか?」
「君の答え次第だ。他の下層部の者達と身なりが違うようだが、それはどこで手に入れた?」
「えっ
……
わかりません、全部買ってもらったものだから
……
」
いくつかの質問に正直に答えると、少しずつ彼の表情が和らいでいく。やがて結論が出たのか、「すまない」と一言頭を下げた。
どうやら上層部の住人ではない女がそちらの服を着てキョロキョロしてばかりいたのが随分と不審に思えたらしい。
確かに、下層部から上層部のやり方に疑問や不満を持って大守護者様を狙う者が出てもおかしくはない。
上層部の人間を装って彼女を襲う、なんてことを疑われたのだろう。
「
……
あの、本当に捕まえないんですか?」
「君は何もしていないようだし企んでいる様子もない。捕まえる理由はないだろう」
「でも、お兄ちゃんにシルバーメインには近付くなって言われてるんです。私達、捕まっちゃうからって
……
」
私の言葉に彼の表情が曇る。
「それは誤解だ。僕達は犯罪者を取り締まることはあれど罪なき民を逮捕するようなことはしない」
「そうなの?」
「下層部ではシルバーメインに不信感を抱く者も多いだろう。そう伝わるのも無理はない」
おそらく彼は、いや彼らの立場はこちら側からは想像できないほどに辛酸を嘗めてきたのだろう。
先程までは恐ろしかったのに今では同情してしまっている自分がいた。
こうして足を運べるようになった今でも上層部と下層部の溝は深い。
下層部に溜まり続けた負の感情は大守護者が代わったからといって綺麗さっぱりと消えるものでもない。
きっとずっと、兄もそれを肌で感じていたのだ。閉じこもってぬくぬくと育った私よりも、ずっと。
「あ、あの、私!帰ったら、お兄ちゃんに伝えますね。シルバーメインの人は怖くなかったよって」
「
……
ああ、ありがとう。君の兄さんもきっと、君を守りたくてそう教えたんだろう」
「そうかもしれません。お兄ちゃん、すっごく過保護ですから」
「
……
そうか」
その一瞬、時が止まったような錯覚を覚えた。
ふふ、と柔らかな微笑みを浮かべる彼がやけに眩しく見えて、もう少しその表情が見たいと思ってしまう。
安堵からか、それとも別の感情か。
ただなんとなく、私が今日着飾ったのはこのためではないか
――
なんてことを考えてしまった。
「僕にも年の離れた妹がいるんだ。君の兄さんの心配は正直、理解できてしまう」
「そ
……
そういうもの、なんですか?」
「ああ、そういうものだ。危ない目に遭ってほしくないのは当然の感情だろう。大切な人は守りたいと思うものだ」
兄との関係の話をされているのは理解しているのに、その言葉ひとつひとつに胸がどきどきと高鳴る。
どうしてしまったのだろう。
事情聴取を終えた彼はもう行ってしまうだろう。こんなお祭りの日だからきっと忙しいはすだ。
ああ、もう少し話せたらいいのに。
「あの、ジェパードさん。ジェパードさんってきっと、優しいお兄さんなんですね」
「
……
それは、妹という立場で感じることだろうか?」
「はい。
……
まあ、困ることもありますけど」
「善処しよう。
……
君は兄さんにとても愛されているんだな」
最後にふわりともう一度微笑んだ彼が、「協力感謝する」と一言残して去っていく。
お祭りのためにここに来たはずなのに、広場で始まった大守護者様の演説も街のざわめきも何も聞こえてこない。
気付けば辺りは薄暗くなって、足の痛みもなくなっていて。
時計を見ればそろそろ帰らなければ兄が心配する時間が近付いている。
本当に、あの人に会いに来ただけだ。
せっかく上層部に来たのに観光もせず、ふらふらとケーブルカーに乗り込んだ。
「一人で上層部に行くなんて!お兄ちゃんは本当に心配したんですよ!」
帰宅すれば真っ先に聞こえてきたのは兄の悲鳴。
どうやら、読みが甘かったらしい。夕飯までに帰れば怒られないだろうと思っていたが、今日に限って早めに食事を作って待っていた上に私のこの服装からか上層部に行ったことはすぐにバレてしまったようだ。
「んもう、可愛い格好して!悪い男に声を掛けられたりしていませんか!?」
「声は掛けられたけど、悪い人ではなかったよ」
「はぁ!?見ず知らずの女性に声をかける男は全員怪しむものですよ!男には気を付けろと小さい時から何度も
……
」
「本当だって!シルバーメインの人だった」
兄の顔がみるみるうちに真っ青になっていく。
だけど、シルバーメインは兄の思うような怖い集団ではなかった。下層部の人間だからと言って私達を捕まえるようなことはしない、と言うと彼は何故だか困ったような顔をして、いくつかの確認をした後ほっと息をついた。
「それよりお兄ちゃん」
「何ですか?今日の格好なら抜群に可愛いですよ。お花の妖精さんのようです」
「私、好きな人できたかも」
「はぁあああ!?」
先程よりもさらに青い。もう髪色と同化してしまうんじゃないだろうかというほどに悲痛な形相をして、私の肩をがくがくと揺さぶってくる。
そんなにいけないことだろうか。むしろ、遅いぐらいの初恋だろう。
「あ、相手!相手は誰ですか!まさかシルバーメインなんて言いませんよね!?」
「え、えっと
……
ジェパード・ランドゥーっていう、じゅえいかん?の人」
「よりにもよって彼ですか!お付き合いなんてお兄ちゃんは絶対許しませんからね!」
もしや、ジェパードさんを知っているのだろうか。それならちょうどいい、兄視点で見る彼について教えてもらおうではないか。
少し話してわかったことは彼が職務に忠実で、そして妹想いの優しい人だということ。
最初は圧があって怖いと思ったが、それも軍人という立場故にそういった態度を取っていたのだろう。
「なんでダメなの?良い人だったよ」
「まずとんでもなく頑固です、頑固!あんなのと付き合ったら必ず苦労しますよ。それに怪力!掴まれると本当に痛いんですよ!あの時は骨が折れるかと思いました」
「意志も力も強い人ってこと?ますます素敵」
「ああ、これはいけませんねぇ!」
私の自由意志によって頭を抱える兄の姿はなかなかに愉快でいいものだ。
彼が何と言おうと、もう心はときめきを知ってしまった。
「いいですか
ユメ
、お兄ちゃんの話をよく聞いてください。あなたに恋愛はまだ早いです、せめて大人になってからにしましょう」
「私はもう大人だよ。ほら、メイクもしてるしヒールも履いてお出かけした」
「そんな認識の子が大人なわけないでしょう!もう!」
今朝鏡で見た自分は確かに大人の女性だったのだが、兄からすればそうではないらしい。
いや、この兄が私を大人と認める日は来るのだろうか?幼い頃からずっとこの調子だ。もしかしたら、おばあちゃんになっても子供扱いされるかもしれない。
「ああでも、あのランドゥー家が身内に犯罪者を引き入れるようなことはしないでしょう。つまり、僕がいれば
ユメ
は安全ですね!」
「お兄ちゃん、犯罪者なの?」
「え?いやいや、違いますよぉ!お兄ちゃんは毎日せっせと真面目に働いていますからね!」
そういえば、シルバーメインが下層部の人間を虐げないのであれば何故兄は何度も追われていたのだろう?
それに、私がシルバーメインに関わったと話した時の慌てようもおかしかった。もしかして、兄は彼らに狙われるようなことをしてしまったのだろうか。
「お兄ちゃん、悪いことしたなら自首した方がいいよ」
「どうしてそうなるんです!?サンポを信じてください、あなたをここまで育て上げた立派なお兄ちゃんですよ?」
「それは、そうなんだけど
……
なんか
……
」
下層部にいるわりにやけに稼ぎがいい。上層部のものをよく私にくれる。何の仕事をしているかは不明。
一度気になり始めるとどんどん疑問が湧いてくる。
兄は一体何者なのか?考えるほどにわからない。
「やっぱり怪しい
……
もしかして、ジェパードさんに報告した方がいいのかな?」
「兄を売らないでください!ほら、大好きなお兄ちゃんがいなくなっちゃったらどうするんですか!?」
「悲しいけど、うーん
……
一人でも頑張って生きるしか
……
」
「小さい頃はお兄ちゃんと結婚すると言ってくれたじゃないですか!忘れちゃったんですか!?」
そういえば、そんな約束もしただろうか。
幼い頃の、恋とも言えない愛情が生み出した言葉だ。勿論今考えれば兄と結婚なんてできるはずがない。
だけどそんな言葉をずっと覚えていてくれたのが嬉しくて、これ以上兄を追い詰める気は無くなってしまった。
兄が私に甘いように、私も兄に甘いのかもしれない。
「わかった、私の負け。今日は黙って出ていってごめんね」
拍子抜けしたように目を見開く兄の顔が面白くて、ふふ、と笑ってしまう。
わかってくれればいいんですよ、と頭を撫でられて、明らかな子供扱いにまた少しだけ不満を抱えて。
私は今日メイクをして、ヒールを履いて、そして初恋をして
――
兄の知らないところでまたひとつ大人になった。
きっといつかは、彼を置いて発つ日が来るのだろう。
その時までは、もうしばらくこのままでもいいのかもしれない。そんなことを考えて、夕飯の配膳を手伝った。
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