あるところに、遊戯のために楽しい開発研究をしている博士がいた。博士の生み出した作品達は、世界の至る所にばら撒かれ、広がり、混乱を起こす。博士の作品には、どこかにきちんと製造元の刻印が記されるため、博士の作品であることは一目瞭然の安心設計だ。そして博士は、世界中を楽しませるために、新しい作品を次々と生み出す。博士はいつだって、身が引き裂かれるような鋭いセンスで、遊び心を忘れない。
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ミスター・カメレオン、光子で構成された人型の存在だが、物理的な干渉ができない。そのため質量は不明。彼は窓や透明な物体を透過することができるが、この時反射光の関係で彼の体から約五パーセントの光子が彼の体から離れる。彼はここで苦痛を感じるようだが、充分我慢できる範囲だと言っている。彼は光を食べて生きているらしい。これは白色光に限られるとのこと。ただ、光を浴びすぎると飽和状態となり、苦痛が生まれるとのこと。そしてその特質上影を持たない。空気の振動で意思疎通が可能だが、そのメカニズムは不明だ。それでバタフライエフェクトが起こっても、おそらく誰も知り得ない。彼の存在は、曖昧だが明瞭だ。
ミスター・くびなし、どんなに優秀な猟犬も、首がなければ吠えられない。彼を肉眼で直視すると、彼の視点で自身が見える、ただし首なしの自分が。彼は設計段階で祝日シリーズとしてハロウィンを担当するという計画もあったらしいが、そうはならなかったそうだ。ただ、彼は首なしにも関わらず、帽子や眼鏡、イヤリング等頭部に装着する衣類を身に付けられる。彼はハロウィンの仮装ならライカンスロープを希望しており、犬耳のカチューシャを問題なく装着できるであろうことが想定されている。
ミスター・おわらい、発声を伴うコミュニケーションは、彼にとっては全てジョークだ。なので口はいつも笑みを湛えており、誰のどんな話も、聞けば聞くほど笑いが止まらない。その青い髪を振り乱して、縞模様の耳と尻尾を床に擦り付けるように笑い転げる。筆談であればそうはならないが、彼は読み書きが達者でない。それに、彼は唐突に体の部位が移動して、気付いたら木の下から木の上で笑っている。その体の着脱は彼が制御できるものではなく、しかも苦痛があるものらしい。
ミスター・わすれっぽい、何かの後遺症で強い前向性健忘症を患っているようだが、その原因すら忘れてしまった。ただ彼に残っている記憶は、自分が忘れっぽいということだ。記憶がないことは、彼にとっては救いなのかもしれない。ただし、直前の記憶も思い出せない。けたたましい機械音を鳴らすと、その不快な音で記憶の焦点を消失するようだ。そして絵や文字、その他撮影等で記録しようとすると、彼自身は忘れなくなるが、他の人間の記憶からは消える。彼にとってどちらが良いのだろう。
ミスター・シャピー、一日から三十日の間の不定な間隔で、別の人間に肉体が次々と変わる。これを彼は制御できず、前後の人物像の体格に差があると、苦痛を伴うらしい。皮膚が裂け、血が吹き出し全身が赤く染まることもある。右目から繭の白い糸のようなものが出て、それが彼の体の変化を、肉付けするように包む。逆に小さな体格に変わる場合、繭がほどけるように、皮膚や脂肪、体から筋肉が剥がれ落ちる。どんなに苦痛があっても、自分では変化を止められない彼は、痛みに悶えるならばいっそ踊ろうと、メメントモリを唱えている。
ミスター・せっけん、彼が留まったところはたちまち綺麗に、また滑りやすくなる。全身からスチームを吹き出すロボットのように、ぶくぶくと水と石鹸の混合物を滑らかに分泌している。しかし目に入ったら痛いので、彼の目は透明なゴーグルで覆われている。石鹸のでツルツルピカピカにはなるが、その泡で空が飛べたりするかは不明。
ミスター・はらぺこ、一見なんの変哲もない南アジア系の顔立ちをした、少し小柄な男だ。ただ彼は、代謝が途轍もなく速く、常人が一日に必要とするカロリーを、たったの二時間で消費する。非常に燃費が悪いわけだが、栄養不足に陥るとトランス状態になり、とんでもないパワーを発揮して、暴れ回りながら周囲のものを無差別に食べてしまう。この時引き裂く力が推定三千ニュートンで、噛む力が推定五千ニュートンとなる。これはトランス状態でない限り、この力は出せない。食べられる物かどうかは関係ない。彼の体は、肝臓から未知の消化酵素を出すことにより、あらゆるものを消化する。これは最大九十八パーセントの効率でエネルギー変換ができる。その酵素のせいか、薬剤が効かない。ただし、味覚は常人と同じらしく、食べ物でないものを摂食した場合、彼は不快感を正しく認識している。どうやら白人に対して何らかの感情があるようだが、よく分からない。
ミスター・しんちゅう、その腕はよく弾む。メンテナンスは毎日必要だが、逆にそれ以外に維持に必要なものはない。全身真鍮でできており、体は分解できる。部品の位置が取り違っても問題なく動けるが、彼はそれを体の不調と訴える。自分では元に戻せないのか、誰かが彼をバラバラにして間違った組み立て方をされてから、彼は不調なままだ。
ミスター・あつあつ、確かに燃えたようにぼろぼろだが、そういうことではないらしい。彼は熱心にこのミスターズ、ないし、博士の作ったおもちゃを勧めてくる。そこに悪気はなく、本当に子供のためを思っているようなので、逆にタチが悪いかもしれない。当人が言うには、元々彼は博士と意気投合して共同でおもちゃ開発に勤しんでおり、自身に刻んだミスターズの刻印は、その熱意の証として自ら施したものだと言う。ただし、彼のセールスマンのような振る舞いは、本当に彼の意思であることや、彼が元々は常人だったこと証明するものではない。
ミズ・あまあま、ミスターズ唯一の女性型であり、元は常人だったことを主張している。博士の影響で、元々重病人だったところを砂糖菓子の体に変えられ、それをまた肉の体に戻されて、今の状態らしく、過去の記憶が三つに分かれている。現在の能力は、トラブルを引き付けるものだが、そのトラブルを推理する能力も持っているので、自ら解決している。ブドウ糖液を一日一リットル摂取するが、それと装った人工甘味料でも問題ないらしく、気付いているのかいないのか、与えれば大人しく飲んでいる。ブドウ糖液を一日一リットルも摂取するせいで、高血糖となり頭痛と視界がぼやける症状を訴えていた。ひょっとしたら高血糖の症状のせいでブドウ糖液と人工甘味料の区別が付かないことを、自分で分かっているのかもしれない。本人は紅一点ではなく他のミスターズ同様に扱ってほしいらしい。どういうわけかユニコーンを食べられるものだと思っている。
ミスター・いのち、ミスター・し、どちらも一人の体に刻まれた刻印だ。鋭い牙が生えており、爪も異様に尖っている。また皮膚の色が異常に不健康で、血管が不自然に浮き出ている。一分で一歳年をとり、七十五分で死亡する。鍵を持っており、その鍵穴は彼自身の肩にある。鍵を回すと一回につき一歳若返る。普段は、七十五分経過後鍵を回されていない状態、つまり死亡して棺の中で過ごしている。二十七分目の自分が、自分の人生のターニングポイントだと認識しているらしい。何故二つの名前が一人の体にあるのか不明だが、ミスターズは二十人だと言う他のミスターズがいる。
ミスター・おさかな、頭部だけが鮫のような風貌をしているが、それ以上でもそれ以下でもない。水中で呼吸できるわけでも、魚と会話できるわけでもない。その外見的特徴があるのみである。本人はもっと海の戦士として振る舞えるような何か実績が積めればと思っているようだが、余計な特質があっては困る。
ミスター・ムーン、彼はまるで灯火のような明かりだ。月齢に応じて、彼の顔のパーツは消えたり現れたりする。左耳から始まって右へと終わっていく、月の満ち欠けに対応している。顔のパーツが欠けている間食事も呼吸も不用だが、月の影響を受けていることは、かなり疲れることらしい。消えた顔のパーツは、月の裏側に移動しているようであり、そのため、新月だと彼は太陽光を常に真正面から浴びている状態である。これを踏まえて新月時の彼は、月夜の間常人がそうするように、その時期は眠ることにしているらしい。月明かりは太陽からなるしかなく、提灯の明かりでは、それがいくつ燃え上ろうと、どうすることもできない。
ミスター・レッド、博士抹殺が目的。但し書きには製造中止の文字。ミスターズのオリジナルとなったファーストエディション最後の一人らしいが、詳細は不明。陰に蔓延る棘を全て取り払っても、美しい薔薇に棘があった事実は何も変わらない。それでも、そうすることが自分にとって正しいことだと、彼は信じている。しかし、ミスターズのように博士もコピーとして複数存在していたため、そのコピーに邪魔をされる。その後はミスター・ブルーに改名し、どんな言葉も受け取らないと主張している。幾万の言葉があろうと、虚礼ならば彼には無用なのだ。ミスターズがどれだけいようと、全て死神の手に渡ってしまった。
ミスター・おかね、自身の暗殺業に関する購入取引に反応し、購入者である依頼主のもとに何処でも転移。依頼主の望む形の暗殺を、どんなものでも叶えるため、自身に特質が備わる。そのため元はどういった存在だったか分からない。そんなある意味プロ意識の高い彼だが、依頼主に使われる側ではなく、使う側を体験したいらしい。
ミスター・まいご、全ての地において、その孤児は彷徨い続ける。遺された者として、永遠に故郷には帰れず、また、どんな場所も新たな故郷とすることができない。そうでなくとも、彼が運搬しようとした物さえ行方が分からなくなる。彼が誰かを連れて行こうとしても、また、逆に誰かが彼に付いて行こうとしても、その人物は行方不明になる。またその反対に、彼を何処か一所に留めておこうとすると、他の誰もがそこに辿り着けなくなる。誰も彼を訪ねない、彼は孤独だ。居場所という概念がない。しかし、例え何処にも辿り着けないとしても、何処かには辿り着く。彼に安住の地はないが、新天地への好奇心は衰えない。その代わりか、彼はどんな地で迷子になっても、極寒でも灼熱でも水中でも問題なく彷徨う。叶わないと分かっていながら、いつか安堵して腰を落ち着けて、海でも眺めたいと彼は言う。彼が関わって行方の分からなくなった物や人は、未だ何一つ見付かっていない。
ミスター・うそっぱち、黒をも白だと信じ込ませる。彼は本当のことを言えない上、その嘘を相手に信じ込ませてしまう。これは録音でも同様で、例えば学舎の全校放送なんかで流れてしまえば、全生徒が影響を受ける。第三者の書き起こしの文章であれば影響はないが、そうでない限り、彼は周囲の人間に誤解されたままの羊だ。
ミスター・いかれ、ただの幻覚にしては、随分友好的で正義感に溢れている。しかし、幻覚とは逆にそういうものかもしれない。砂漠に見る蜃気楼のオアシスのように。彼はミスターズの購入証明書を目視することで、みえるようになる。一応実体はあるが、幻覚という形でしか認識されないため、そこに関して自ら皮肉ることが多く、幻覚を退ける薬を、自分から提供することがある。体に赤い刺青を走らせており、行動力がある。それでも彼は、幻覚である。
ミスター・おっかない、彼はもう、ミスター・えがおではない。塩水貯水池の内部に半分水没する形で存在している建造物がある。彼はその中に閉じ込められて、出ることは叶わない。とある存在から、体の中に錆が広がる奇病を移し替えられ、ここへ閉じ込められたと言っている。腰に日本刀のようなものを佩いているが、錆付いてぼろぼろで、よく分からない。えがおであるというのは彼の自称であるが、確かに刻印にもその形跡はある。ただ、それを覆い隠すように広がる錆の上から、別の記載が施されている。錆を剥がさないと彼が見せたい彼の刻印ははたからは見えない。錆は彼の全身を蝕み、痛みを与える。とある存在は、錆をおそれて遠避けたのだと、彼自身は解釈しているようだ。彼が浅葱色の羽織をしているのが、いったいいつからなのかは分からない。人前だと何かの志を抱いて、錆び付く体に似合わず、錆び付いた悲鳴を間に挟みながらも、気丈に振る舞っている。ただ周囲に誰もいなくなると、ぶつぶつと陰鬱な様子で何事かを呟き続けるのだ。いずれの声も、彼からは金属がこすれるような音を伴う。それが金属で錆び付いた貯水池の内部を、延々と反響し続ける。とある存在は、彼に彼のもとへ戻ると言ったらしい。
ミスター・しましま、任務は慎重に、秘匿されなければならない。彼が人や物を視覚的に認識すると、それに関する物理的資料やデジタルデータが黒塗りになってしまう。そうならないよう、彼は目の周りにペイントを施している。彼が目にして、文字通り闇に葬られたものの、なんと多いことか。
結局博士のコピーが全てのミスターズと接触したことで、彼自身がミスター・コレクターとなってしまった。コレクターとなった者に知らされる情報が告げる、開発中の新しいミスターズがいずれミズ・こうけいしゃの手で届けられるだろうと。
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