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mochimochizucchini
2026-05-15 01:55:58
3091文字
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〈後背の碑〉
「意識があるまま石像にされて永久に封印される灰が見たいな……」となり出来上がった産物です。
いきなり始まっていきなり終わります。
※レムレスの家系や魔導界、刑罰などに関する妄想有り
※救いが無いです
「
……
我々が案内できるのはここまでになります。」
「危険な出来事は起こり得ないかと存じますが、どうかお気をつけて」
「うん、ありがとう」
ランタンをもった案内人はこちらへ一礼すると、元来た道を引き返していった。
その様子を見送りつつ、監獄のさらに奥へと歩を進める。
———
なぜ、何の罪も犯していない僕が、このような場所まで足を運んでいるのか。
それには、他ならない理由があった。
複雑な魔法陣が描かれた重厚な扉が壁を取り囲むようにして立ち並ぶ、円形の部屋。
「
………
これか」
僕はその中から、幾つもの菱形の文様が象られた陣の扉を探し出した。
———
この先に「彼」が居る。
そう思うと、無意識にゴクリ、と喉が鳴った。
深く呼吸をし、微かに速まりつつあった鼓動と精神を落ち着かせる。
幾重にも施された厳重な封印を解除し、重々しい音を立てて開いた扉をくぐると、その先には今までよりもさらに薄暗い廊下が続いていた。魔導で足元を照らしながら、ひんやりとした空気の中をしばらく歩いていると、視界が開け、ほんのりと明るい小部屋のような空間に踊り出た。
そして、その最奥部の壁には、こちら側に背を向け、上半身のみが浮き出た人型の像が埋まっていた。
コツ、コツ、と一歩ずつ像の元へ歩み寄り、肩から腕にかけて、そっと指を滑らせる。
姿形はかつての「彼」そのものなのに、手触りは石のように冷たく、そして、固かった。
それは、目の前の「彼」がもはや人間ではないのだと、否が応でも感じさせられるものだった。
———
人間から生きたまま魂を引き剥がし、肉体を彫像に変えたのち再び封じ込める秘術。
肉体が朽ちることも、精神が果てることも許されず、
永遠の
刻
とき
を生きることを強いられる
———
この世界の極刑。
惨くも美しいその姿に目を奪われながら、僕は「あの日」のことを思い出していた。
「彼」の刑が執行された、運命の日。
魔導も、まともな動きさえも封じられた彼が処刑場へと連れていかれる直前、最期に僕へ向けた顔が、今でも忘れられない。
今にも泣き出しそうな、深い愛しさと切なさを含んだような、柔らかな笑み。
その表情を見た瞬間、僕は、その時まで抱いていた疑念も、懐疑心も、全て忘れ去っていた。
普段ほとんど表情を変えることのなかった、あの彼が。
プライドが高く、どこか得体の知れなさや底知れなささえ感じられた、あの彼が。
———
最期の最期まで、一抹の不安さえ外に出さなかった、他ならぬ「彼」が。
あのような表情を浮かべた事実に、どうしようもなく胸を衝かれて。
それは、これから死すらも超える苦痛を待ち受ける者の顔だとは、とても思えなくて。
「
………………
ッ
………………
待って!!!!!」
僕は思わず、処刑場の方へ駆け出し、彼の元へ手を伸ばしていた。
しかし、時は既に遅く、僕の目の前で、扉は重々しい音を立てて閉じられた。
暫くの間、僕は呆然と扉の前で立ちすくんでいた。
やがて、壁の向こう側から耳をつんざくような絶叫が響き渡り、堪らず耳を塞いでうずくまる。
———
その後のことは、あまり覚えていない。
あの時、彼はどんな気持ちだったのだろう。
生きたまま魂を引き摺り出される苦しみとは、
指一本動かすことすらできぬ身体で、永遠に生き続けなければならない業苦とは、一体どれほどのものなのだろう。
既に体温の喪われた背中にそっと額を寄せ、目を閉じる。
「
…………
なぜ?」
「キミは
………
一体なぜ
………
あんな事を
……
」
彼の罪を思い起こしながら、僕は誰に答えを求めるでもなく、ただ、問いかけた。
静寂の中に溢された
それ
に答える者など、誰も居ない
———
はずだった。
「
……
ッ!?」
次の瞬間、頭の中に僕のものではない『別の誰か』の鮮明なイメージのようなものが浮かび上がってきた。
「これは
……
まさか、キミの
……
!?」
「彼」の意図を即座に理解した僕はすぐに、送られてきたイメージの深層へと潜り始めた。
目の前に誰かの視界が広がっている。
と同時に、「自分」が身につけている衣服が懐かしい装いであることに気がついた。
どうやら僕は、「彼」が生前見ていた風景を借りて見ているようだ。
ふと、「彼」が遠くの方に意識を向ける。
建物の影
……
表通りからはちょうど人目のつかない場所に、2人の人間の姿が見えた。
あれは
………
我が家に仕えてくれていた人たち?
彼らは、何やら神妙な顔つきで会話をしているようだった。
意識を集中させてみると、当時の「彼」も彼らの声に耳を澄ませていたらしく、その内容が鮮明に伝わってきた。
『
……
ええ、分かっています』
『なるべく穏便に、な』
『それにしても、白魔道師として新たな銘を賜るめでたい日に命を落とすことになるなんて、レムレスの坊ちゃんも気の毒に
……
』
『
………
仕方ないだろう。頭領の命令は絶対なのだからな』
(
……
父上の!?)
『くれぐれも、計画の件は誰にも勘づかれぬように』
『分かっていますよ。あくまでも『事故』
……
ですからね』
その直後、「彼」の煮えたぎるような怒りと憎しみ、
そして
―――
強い「覚悟」の感情が伝わってきたと思うと、そこで記憶は途絶えた。
「
………
ぅッ
…………
ひぐッ
……………
」
気がつけば僕は膝から崩れ落ち、壁に縋りつきながら泣きじゃくっていた。
まるで箍が外れたかのように、次から次へと涙が溢れ出て止まらない。
「どうして
……
?どうして、言ってくれなかったの
……
?」
嗚咽を漏らしながら、ぼやけた視界で「彼」を見上げ、僕は呟いた。
「
……
僕は
……
そんなにも頼りなかった?」
「キミの覚悟を分かち合うには
…………
僕では、足りなかったというのかい?」
———
そんな理由では決してないことなど、とうに分かりきっている。
彼が、何を想い、考え、
あの
行動に及んだか。
―――
だが、彼が「消し去った」者たちの中には、罪のないただの使用人や、年端のいかない未成年も混じっていたはずだ。
それに、自分がどれほど忌避し、また、疎まれていたとしても、我が一族が魔導界の根幹に関わる、重要な地位を担っていたことは、揺るがしようのない事実だ。
一族だけに伝わる秘伝の知識や技術の類も、彼は徹底的に破壊し尽くしたらしく、現在から未来に至るまで、彼がもたらした損害の全体像は、いまだ掴めていない。
それほどまでに、「彼」は取り返しのつかない所業を犯したのだ。
そのことは、あの光景を見せられた今でも、変わりはない。
―――
でも。
硬く拳を握りしめる。
力を入れすぎたのか、手のひらを液体が伝う感覚がした。
それでも
…………
僕は。
あまりにも不器用すぎた「彼」の、純粋で、どこか歪な愛情。
今更全てを理解したところで、もう、遅い。
頭では分かっていても、嘆きの声は止まらなかった。
「僕は
………
キミと一緒に居られれば、それだけでよかった
…………
」
「
………
たとえ、同じ運命を辿ることになったとしても
…………
」
「僕は、キミと共に在りたかったんだ
…………
」
―――
目の前の石像は、何も答えない。
~fin~
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