三毛田
2026-05-14 22:22:03
1083文字
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57 【57/一つだけ忘れないで】

57日目
あの人が教えてくれたこと

『聞いて。これは君にとっても大切なこと。一つだけ。これだけは忘れないで』
 あの時、あの人はなんと言っていたんだっけ。
 そもそも、あの人って?
……
 腕に重みと温もりを感じて、視線を向ける。
 黒髪の真ん中。可愛いつむじが。
 そこに鼻を近づけ、深呼吸。我ながら、変態じみた行動だ。
 それでも、大好きな丹恒が俺の腕の中で眠ってくれているのだ。こういう時じゃないと、堪能できないし。
「ん……
「起きた?」
「嗅ぐな」
「んがっ」
 軽く頭突きされて、更にベッドからも落とされる。
「何でだよぉ、たんこ~」
「お前が、匂いを嗅いでいたからっ」
 ベッドに這い上がると、顔を真っ赤にしてシーツの中で体を丸めている丹恒。
「可愛い。ぎゃっ」
 枕を投げつけられ、再び床へ。
「うう……ひどいってばぁ」
 丸まっている背中を上から抱きしめると、少しもぞもぞ動いて。
「お前が悪い」
「そうだけどぉ」
 しばらく抱きしめる俺と、シーツの中で抵抗する丹恒とで攻防戦。
「お腹空いた」
「そうだな」
 どちらが先に鳴ったのかわからないが、腹が空腹を訴えてきて。
 二人でベッドを下りて、ラウンジへ。
「おはよう、パム」
「おはよう二人とも。さあ、席に着け。今朝食を持ってこよう」
「ありがとう!」
 頬ずりしようとしたが、サッと避けられる。流石パム。
 席に着いて、丹恒が逃げないように腕を掴んで隣に座らせる。
「今日緒は逃げないが」
「えー? さっきだってさ」
「さっきはさっきだ。分かったから、引っ張るな」
 ため息をついて、俺の手を振り払う。そんなことするのはさすがにひどくない?
「なんじゃなんじゃ」
 ご飯を運んできたパムは、頬を膨らませる俺と額に手を当ててため息をつく丹恒を胡乱気な目で見上げてくる。
「丹恒が」
「急が全面的に悪い」
「それじゃ仕方ないのぉ」
 どっちに!? って思ったけど、きっと俺が悪いんだ。わかっている。二人だし。
「ほれ。食べたら部屋に戻るんじゃぞ」
「はーい」
「いただきます」
「いただきます」
 両手を合わせて、食器を手に食べ始める。
 教わった覚えはないのだが、気づけば当たり前のように使えるカトラリー。
『一つだけ、忘れないで』
 夢の中で出会ったあの人が言っていたのは、この事か? って思ったけど、たぶん違う。でも、こういうマナーも忘れはいけない事だろう。
「穹?」
「ううん。丹恒、この後も俺の部屋来てくれるか?」
「今日は何もないからな。一緒に居よう」
「ありがとう!」
「座って食え!」
 パムに怒られた。