白殊皎(しらよし こう)
2026-05-15 21:00:00
4026文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

しめこのうさぎ

黒の剣士の頭にウサ耳が生えた。
こんな姿は土方に見せたくない!!
近藤は上手く逃げおおせるのか!?

この作品は2026年4月4日・5日に開催された、ぐだぐだ鯖WEBオンリー「ボイラー室横より愛をこめてW~二回目~」での白殊独自のリクエスト受付企画【白殊に歳勇小説リクエストを投げつけようVol.2】でリクエストいただいたものです。


◆リクエスト内容◆
霊基異常でウサミミが生えた黒剣ちゃんが、土方さんに相手にいつも以上にツンツンしちゃって、沢山甘やかされる話


いつも以上にツンツン、とのことでしたが……チョロいですね、当方の黒剣ちゃん!!

 ぴょこり。
 そう音がしそうな感じでそれはそこに生えていた。
 その前髪と同じ、黒いウサギ耳。
 近藤の頭には今まさにそれが存在している。
 前髪以外の朱鷺色と紅の髪にやたらと映えて、普通のウサギ耳とは違って綺麗に立ち上がり、ウェイターのような格好をさせればバニーガールの男版が出来上がりそうである。
──まぁ、似合うだろうからバニーガール【♂】でも構わないと思われるが。
 耳はご丁寧に感情や聞こえる音に合わせてぴくりぴくりと方向を変え、間違いなく近藤の耳となっている。

「よくある霊基異常だね。他にも数名一部が獣化しているサーヴァントがいるから、それと同じだと思うよ。数日すれば治るから気にせずにいてくれたまえ。あ、多分霊基を変えても残るだろうから、諦めて」
 訴えを持ち込んだダ・ヴィンチちゃんにはあっさりとそう返された。
 カルデアというのは想像以上におぞましいところだ。
 近藤は素直にそう思った。
 ともかく、こんな姿を今マスターと素材狩りに出ているあの男の前だけは晒したくない。
 ノルマが多いとかで戻ってくるのはまだ先だ。
 今のうちに部屋にこもってしまえば、当面は会わなくて済むだろう。
 マスターには悪いが、あわよくば霊基異常が治るまで戻ってこないでほしいと思った。

──そうは問屋が卸すわけがないのだが。

 食堂で当座の食料を確保して部屋に戻る途中、翻る黒い外套が目に入ったので回れ右をする。
 それは管制室に入っていった。
 おかえり、とかご苦労様、とかの声が耳に入るのと同時にいい加減しばらく休ませてもらうぞ、との声もした。
 疲れて帰ってきた彼には悪いと思いつつ、もう帰ってきたのか……と思って耳をぺしょと伏せてそそくさとその場から離れた。

 相手は解除キーを知っているから意味はないかもしれないが、電子錠ロックをしっかり掛けて部屋にこもる。
『近藤さん、いるか?』
 インターホン越しの声を聞いてぴくり、と耳が動いた。
「いる……
『ダ・ヴィンチに聞いた。身体は大丈夫なのか?』
「心配してもらうほどじゃない」
『ならいいが──入ってもいいか?』
「やだ」
 つい即答した。
 このみっともない姿をよりによって一応の恋人に見せたくない。
…………
 相手の沈黙に答え方を間違ったと思った。
 もうちょっと理性的に体調も何も悪くないからしばらく放っておいてくれ、と言えばよかったと。
『入るぞ』
 声と同時に扉が開き、かなり剣呑な顔をした相手が姿を現した。
「やだと言ったのに!!」
「なるほど」
 土方歳三は近藤の姿を見て眉根を寄せたが、表情は少しだけ緩めた。
それだけなんだな?」
 近藤が確保していた食料をちらりと見遣って、普通のものだと確認したかふふ、と口角を上げた。
「あぁ。だからおまえに心配してもらう必要はない」
 自分に正面から近づいてくる土方に、合わせるようにじりじりと後退りしながら口に出す。
「ならなんで逃げるんだ?」
 言われた時点で背に壁がついた。
「逃げてなんかいない!」
 警戒するように耳がピンと立った。
「なら、いいじゃないか」
 土方は壁際に追い詰めた近藤の頬から手を差し入れて頭に回し、実際の耳を確かめるように撫でた。
「間違いなくそっちが耳なんだな」
 さらさらと髪を撫で、前に回した左右の髪まで指通りを確かめるように触れて土方は手を離した。
「触る必要がどこにあるんだ」
 フーッとまるで本当のウサギが威嚇するように頬を膨らませて文句を言う。
「触れば他に何か異常があれば気付くかもしれないだろう? あんたのためだ」
…………
 優しい眼差しで見つめてくる土方に、少し嬉しいと思ったが、それを認めるのが嫌で背を壁につけたまま横に移動する。
 それをして、しまったと思った。
 自分から、部屋の角に追い詰められる形にしたようなものだから。
「近藤さん、あんたなんか勘違いしてねぇか?」
「?」
 土方が微かに首を傾げて再び前に立つ。
「俺は今のあんたを手籠めにするとか、その耳で遊んでやろうとかそんなことは考えてないぜ?」
──それとも、されたいのか?
 土方はそう付け足し、近藤の髪の房を手元に引き寄せる。
「そう思いつくなら思ってるってことだろう! このケダモノ!!」
 言いたいことは別のことのはずなのに、つい憎まれ口が出てしまう。
「ケダモノ、ねぇ」
 くす、と微かに笑ってから、土方は一気に距離を詰めた。
「!!」
 そして一瞬のうちに近藤の腰を横抱きにして、ベッドに連れ込んだ。
「やっぱり!」
 そういうつもりじゃないか! と半ベソをかいて土方の腕の中で暴れる。
 が、土方はそんな近藤の頭を宥めるようにぽんぽんと軽く撫でると、自分の太腿の上に乗せた。
「可哀想なウサギを食っちまうような、乱暴なオオカミじゃないぜ、俺は。それはあんたが一番わかってくれてるだろう?」
「うっ……
 穏やかな土方の声に、近藤は言葉に詰まる。
 確かに一部の例外を除いて、土方が自分に無体を働いたことなど無い。
「こんなこたぁ、よくあることだ。場合によっちゃ一眠りすりゃ治るさ」
 耳には触れないようにその癖がありつつもさらりとした髪の毛を撫で続ける。
…………
 土方が口の中で呟く微かな音に耳を澄ませば、それは昔聞いたことのある子守歌だった。
「俺は、子供か……
「あぁ、大事な大事な、手のかかる子供だ」
 父のような、母のような、優しい返答に近藤は身体の向きを変え、顔を土方の下腹部に埋めた。
 こんな耳だからなのか、仮初めの身であってもとくとくと規則正しく打つ土方の心音がはっきりと聞こえた。
「とし……
「ん?」
 何度も子守歌を繰り返す土方の腰にしがみついてぽつりと名を呼ぶ。
「元に戻ったら──」
 途中から聞こえないほど小さくなった近藤の言葉に、土方の唇は弧を描いた。
「元に戻って、落ち着いた時にもそう思っていたらな」
……うん」
 そうでなくても全然構わないといった顔で、土方は近藤の背を撫でた。
「ん……あんた……
 近藤がその温もりにうつらうつらとし始めたところに、土方は何かに気付いた。
「こんなもんも生えてたのか」
「ぴゃっ!!」
 ついそれを撫でた土方の手に、近藤は驚いて身体を跳ねさせた。
「あぁ、すまん。……感覚、あるのか」
「いったい何をした……!!」
 起き上がって自分を睨む近藤に、気付いていないのかと土方は首を捻った。
「ここに、しっぽがある」
「え」
 直接は触らず、腰をとんとんと叩いて位置を示す。
 慌てて自分の手を背後に回し、それを確かめ近藤は愕然とした表情を浮かべた。
 確かにそこにはふわふわとした触り心地のよいしっぽが生えていた。
「こんなものまで……俺は……どうしたら……
 近藤は泣きそうな顔をして土方に縋りつく。
「うつるもんでもないだろうし、他の奴に見られたくないのなら、治るまでお籠もりに付き合ってやるよ」
 治るまでに今ある食事がなくなったら持ってくるし、他にも必要なものがあれば遣いしてやると土方は苦笑した。
……この異常、魔力供給とかでは治らないのか?」
 しばらく土方にしがみついていた近藤は、しっぽがよほど嫌なのかぽろりとそんなことを零した。
「は?」
 呆気にとられた土方の返事に、ややあって近藤は顔を真っ赤に染めた。
「あ、あ、い、いや、そういう、そういう意味でなく……
「ふふっ……わかってるさ」
 その慌てぶりに土方は堪えきれなくなって笑い出した。
「歳っ!!」
「治るかどうか、試してみるか?」
 そのまま片腕を近藤の背に腕を回し、もう片方で頬に触れてその顔を覗き込む。
「試さなくて……いい……
 へにょ、と耳を下げて赤い顔のまま近藤は沈没した。
「それは残念だ」
 少しも残念そうな顔をせず、冗談だと囁いてその近藤を抱きしめる。
「うぅ……わすれて、くれ……
 その土方の首に抱きついてすんと近藤は鼻をすすった。
「こんな可愛いウサギの事は、忘れられねぇな」
 土方はいい子いい子するように近藤の頭を撫でた。
「としのいけずぅ……
 近藤は自覚しているのかしていないのか、どこか甘えるように呟いた。
「あんたって人は……
 土方はそれを受けてはーっと長い溜息を吐くと、近藤の身体をぽすりとベッドの上に押しつけた。
「あんまり可愛いことを言うと、我慢強いオオカミにも限度があるぜ?」
 そうして、ちゅ、と音だけさせてその頬に口吸いを落とす。
「!!」
 近藤はその紅の瞳を見開いて口元をわなわなと震わせた。
「治ってからって!!」
 耳をピンと立てて近藤はベッドの上でもがいた。
「あんたが悪い」
 土方はきっぱりと言い切ったが、手は出さなかった。
 自分もベッドに横になり、近藤を抱き寄せて自分の腕で腕枕をすると、肩をぽんと叩く。
「余計なこと考えず、おやすみなさい、だ」
 近藤を見つめるその深紅の瞳は深い慈しみを湛えて、凪いでいた。
「うん……
 自分が騒ぎすぎなだけと近藤は自覚した。
 素直に土方の腕に頭を預け目を閉じると、それに合わせて耳がぺたりと伏せられた。
「おやすみ……
「あぁ、おやすみ」
 優しい温もりに身を委ねてゆっくりと息を吸えば、誰よりも落ち着く土方の匂いを感じた。
 いつも自分に欲しい言葉を、態度をくれるこの男に、意地を張る必要はないのだ。
「すきだ、とし……
 少しだけ素直になってそっと呟く。
「ありがとよ」
 土方は静かにその言葉に答え、近藤の頭を抱き寄せた。
 ちょっとだけ耳に手が触れてくすぐったく感じたが、嫌ではなかった。
 目が覚めたら、治っていなくても思いっきり甘えよう──近藤はそう思った。