山茶花
2026-05-14 11:10:30
5233文字
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愛情ミルククラウン【244SK058】

フラれたけど諦めない話/シルバー→→→デュース/5000字程度


「その……ごめんなさいっ!」

 今。ひとつ年下である後輩のデュース・スペードに対して、愛の告白をした俺は。
 ……ごめんなさい、と、その一言で。フラれていた。
……他に、好きな人がいるのか?」
 自分でも情けないと思いつつも、それでも。俺ではいけない理由を、デュースに尋ねる。
「そ、そういうのはいません、けどっ! ……でも……
「でも、なんだ? ……断る理由を、聞かせてほしい」
「その……。先輩、は。僕なんかより、もっと、素敵な人と一緒になるべきだ、って、思って……
 そう言って、デュースは目を伏せる。これは……ただの断り文句、というわけではなさそうだな。
 つまり。デュースは、本気で。俺にはもっと、恋人に相応しい人物がいて。その人と幸せになるべきだ、と主張している、ということか。俺は、その言葉に、反駁する。
「すまないが、その理由では、納得できない。デュース、俺はどうしたらいい? どうなれば、お前の隣にもいられる?」
「や、だから、えっと……!!」
……俺は諦めないからな」
 そう言ってデュースをまっすぐ見つめると。デュースは困ったように頬を染めてしまった。
 これは行ける、と踏んだ俺は。デュースの身体を、ぐいと抱き寄せ、抱きしめた。
「せ、せんぱ……
 デュースが、弱い力で俺の身体を押し返そうとしてくる。俺はそんなデュースを、ぐっと腕の中に抱き込んで、言うんだ。
「俺は、そんなにきれいですごいものじゃない。お前のことを、いつも考えて、ぐちゃぐちゃになってしまう。だから、お前も。もっと強欲(わがまま)になっていい。俺のことを、泥臭く求めてくれ。もし、お前の心に、一部だけでも、俺のために置く隙間があるのなら……
 デュースは、明らかに困っている。それでも。それでも俺は、一縷の望みに賭ける他、なかった。
「い、いやあの、僕は、先輩には、もっとちゃんと、お似合いで、好きな人と幸せになってほしくて……っ!!」
「お前がいい。お前じゃなきゃ、嫌だ。お前のいない幸せなど、あるものか」
……っ、なんで、僕にそこまで……っ!!」
「惚れたんだ。悪いか。ひたむきで、頑張り屋で、まっすぐなお前に、惚れたんだ!! ……この気持ちが、悪いのか!?」
 そこまで啖呵を切ると、さすがにデュースも、俺と同じく、この気持ちはどうしようもないと悟ったのか。
 とうとう、分かりました、と。俺の告白に、頷いてくれた。
……本当か!? いいんだな!? もう逃がさない、二度と手放さないぞ!?」
「ちょ、ちょっと怖いですよ、シルバー先輩!! ……えっと。僕もその、告白自体が、嫌だってわけじゃないんで……
 でもやっぱり、先輩には相応しい人がいると思って、そういう人が出てきて、先輩もその人を好きになったりしたら、僕が身を引くって約束なら、などとふざけたことを言いだすデュースに、俺は告げる。
「安心しろ。そんなことはあり得ない。お前を生涯愛してやる」
「も、もう生涯の約束ですかっ!?」
……そのつもりでなければ、告白などしない」
 そうして俺は、デュースの恋人の座を手に入れた。



 シルバー先輩と、付き合うことになった。
 僕は、シルバー先輩には、もっと素敵なお姫さまみたいな子が似合うんだろうなって思って、それで、僕なんかじゃダメですよって言ったんだけど、でも、シルバー先輩は、僕がいい、他の子じゃ嫌だって、聞いてくれなくて。
 ……とうとう、僕の方が折れる形になった。
 でも、僕は振る覚悟をして告白の返事に臨んだわけで。……こんなことになるなんて思ってなかったから、明日からどんな顔をしてシルバー先輩に会えばいいのか、まったくわからないでいた。
 
 で。実際、会ってみたら、だ。シルバー先輩は、あからさまに幸せですってオーラを隠さないで、僕に寄って来る。
「おはよう。今日もお前に会えて嬉しい、デュース。俺の日々に今日もお前がいてくれて、幸せだ」
「お、おはよう、ございます……。なんか、すごい、嬉しそうですね……?」
「ああ。嬉しくて、仕方がない。お前という恋人を持てた朝を迎えられて、夢ではないかと思っている」
 ……って感じで。朝から、とろんとした目で僕を見つめて、甘々なセリフを吐く、砂糖みたいな攻撃が止まなかった……
 それからも、シルバー先輩に会う度。
「デュース。会えて嬉しい。これから移動教室か? 勉強、頑張るんだぞ。お前が頑張っていると思うと、俺も頑張れる」
「デュース。席、一緒していいか? お前と共に、昼を食べたいんだ」
「デュース。こんなところで、何してるんだ? ひとりで、淋しい気持ちになっているんじゃないのか? ……そうか。それなら良かった。辛いときは、無理せず言うんだぞ」
 クローバー先輩の作ってくれるエッグタルトよりも、紅茶に混ぜる蜂蜜と角砂糖よりも、ずっと甘い言葉の雨に、僕は包まれる。
 とろふわのオムライスの、卵みたいに、シルバー先輩の愛情に、優しく包まれて。
 僕は。このままじゃダメだ、って思った。
「シ、シルバー先輩っ!! お話がありますっ!!」
「うん?」
 いつも通り僕を甘い言葉で口説いてこようとするシルバー先輩に、僕は告げる。
「ぼ、僕、そのっ!! シルバー先輩が、大好きって気持ちをくれるのも、伝えてくれるのも、嬉しいんです、けどっ!! でも!!」
「でも、なんだ?」
 シルバー先輩は僕のてのひらにちゅうとキスをしながら、僕に尋ねる。
「も、もうっ! ちゃんと聞いてくださいっ!! ……僕、その……。こんな風に甘やかされたら、ダメな人になっちまう、っていうか……!」
「過保護なようには、していない。お前が自立できないほど、駄目になることはないだろう」
「い、いやっ、それはそうなんですけどっ!! そうじゃなくて、そのっ……
「なんだ?」
……ぼ、僕、このままじゃ、その。先輩に会えなくて、好きだって言ってもらえなかった日、淋しくなるかもっていうか、その、だから、先輩がいないと、ダメになっちまいそうっていうか……!」
 僕が決死の思いでそう伝えたのに、シルバー先輩は、何故か喜んで、僕をぎゅっと抱きしめる。
「そうか。俺がいないと、淋しくてダメになってしまいそうなのか」
「そっ、そうです! だからあんまり甘やかさないでくださいっ!!」
 僕はそうお願いしたのに、シルバー先輩は聞いてくれない。
「断る。お前には、もっと俺のことを好きになってほしい。俺と、同じくらい」
 しかもそう言いながら、シルバー先輩は僕のこめかみや頬にちゅ、ちゅとキスをしてくる。
 も、もう! 僕の言いたいこと、ちゃんと分かってるのか、この人!?
「せ、せんぱいっ、シルバー先輩……っ」
「可愛い。好きだ、デュース。俺の気持ちがないと、いけないようになってくれ。俺はもう、お前がないと生きていけない。お前も同じ気持ちになってくれたら、とても嬉しい」
「~~~もう……っ」
 そうしてシルバー先輩にされるがまま、キスの雨を与えられまくり。
 僕は、困った気持ちと、照れと。それでもどこか嬉しいような恥ずかしいようなむずがゆい気持ちの中で、シルバー先輩の愛情に呑まれているのだった。

 ――後日。僕は、ちょっと悪い先輩たちから、目をつけられ、声をかけられる。
「お前、シルバーと最近仲いいんだって?」
「ああ、そうですね」
 僕はまたこの手合いか、と。無視しようとしたけれど。でも。
「ずいぶん思い上がったもんだなあ、アイツにはもっと相応しいやつがいるだろ?」
「それは……っ」
 僕が一番、気にしてることを言われて。何も、言えなくなってしまった。
……っ」
「なんだ、図星でダンマリかァ? やっぱりその程度の……
 先輩たちが、何かを続けようとしたとき。ヒンヤリとした冷気を帯びたような鋭い言葉が、僕たちの間を切り裂いた。
……お前たち。何を、している?」
「お前は……シルバー!!」
「俺の恋人に、何か用か、と……聞いているんだが」
「なっ、なんでもねえよ! オイ、行くぞ!!」
 シルバー先輩がひと睨みすると、先輩たちは去って行った。
 僕は、先輩に、ありがとうございます、と礼を言う。
「気にするな。これも、俺の務めだ。……それより、すまないな。お前に、妙な絡み方をさせてしまって……
「い、いえ。慣れてますから。……それより……
「ん? どうした、デュース?」
……いえ、なんでも……
 僕は。あの先輩に言われた言葉が、心に突き刺さっていた。
『アイツにはもっと相応しいやつがいるだろ?』
『ずいぶん思い上がったもんだな』……
 自分でも、そう思っている言葉が。やっぱり他の人から見てもそうなんだ、って。思ってしまって。
……
 すると、シルバー先輩は。僕の手を掴み、どこかへ連れて行く。
「せ、先輩? どこ行くんですか?」
「そうだな……どこでもいいが。ひとまず、俺の部屋へ」
 そうして、ディアソムニアのシルバー先輩の部屋に吊れて行かれ。
 砂糖入りの、暖かいホットミルクを出される。
「どうだ、落ち着いたか?」
「あ……
 シルバー先輩、心配してくれたんだ、と。そこで、僕は気づく。僕が落ち込んでるの、気づいて、気にしてくれたんだ……
 本当に僕のこと、よく見てくれてるんだな、と。僕はもはや感心して、先輩の目をちらと見る。
「うん? ……どうした?」
……
 優しく穏やかな目で、愛情いっぱいに見つめ返されて、僕はちょっと恥ずかしくなる。
 そんな小さな子を見るような目で見られるとは、思ってなかったから。
 僕がホットミルクを飲み終わると、シルバー先輩は、マグカップをテーブルに置いて。
 それから、そっと僕の身体を抱きしめた。
「アイツらの言うことは、気にするな。今、ここにいる俺は、他の人が俺に誰が相応しいと勝手なことを思っていても、お前がいいんだ」
「あ……
……どうだ、不安はなくなったか?」
……はい」
 ホットミルクに溶けてった角砂糖みたいに。僕の心に刺さったトゲは、あっという間に、消えてなくなっていった。
 だから、先輩は、魔法使いだなって思った。僕らはみんな、魔法使いではあるんだけど。でも、そうじゃなくて。
 シルバー先輩は、僕にとって、特別な魔法を使える、魔法使いなんだって、思った。
 
 それから。先輩に、僕は、自分からちょっとだけおねだりをした。
 外泊届出してくるので、そしたら先輩の部屋にお泊まりしてもいいですか、って。
 そしたら先輩は、かまわない、俺もルームメイトと話をつけてくる、って言って。いったんお別れになった。
 それで僕はローズハート寮長とドラコニア先輩に許可をもらって、シルバー先輩の部屋に泊まることになり。
 食事やシャワーなんかを済ませたあと、向こうも無事話をつけたらしいシルバー先輩の部屋に戻ることになった。
 部屋に入るなり、シルバー先輩は僕の身体をぎゅっと抱きしめる。
「嬉しい、デュース。お前が、こうして俺に甘えてくれるようになって」
……
 僕はそんなシルバー先輩の身体に、こてんと頭を寄せて。身体を預ける。
 するとシルバー先輩は、優しく背中を撫でてくれた。
 ……あったかくて、大きくて、安心する、落ち着く。先輩の、腕の中。
「先輩が、僕を、こんな風に……好きにさせたんですからね。……責任、取ってくださいね」
 僕がそんな憎まれ口を叩くと。シルバー先輩は、ああ分かった、と言って。
 僕のことを、ずっと抱きしめてくれていた。ずっとずっと、抱きしめてくれていた。
 それから、先輩の隣で、一緒のベッドで眠ることになって。
 添い寝しながら、先輩の寝顔を見つめて、思う。
 
 ――正直、今でも思う。シルバー先輩には、もっと相応しい人がいて、お似合いな可愛い女の子がいて。
 その子が先輩のことを好きだって言って、どうしてアンタなのよって言ったなら、僕は何にも言えなくなっちまうかもしれない。
 でも。だけど。……シルバー先輩が、それでも僕がいいんだって言ってくれるうち、くらいは。
 僕はこうやって、隣にいてもいいのかなあ、なんて。
 先輩の愛情を、雨みたいに僕の心の水溜まりへ落とされて、それが跳ね返るミルククラウンみたいに、少しずつ、僕の心もほどけてきている気がして。
……すき、です。シルバー先輩」
 なんて、起きてるときにはまだうまく言えない言葉を、先輩の胸の中でささやくと。
 寝ぼけたままのシルバ先輩が、僕を腕の中に招き入れ、ぎゅっと抱きしめてくれ。
 僕は、その暖かく幸せなぬくもりの中で、甘い夢の中、眠りに落ちるのだった。

*おしまい