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望月 鏡翠
2026-05-13 19:01:38
1628文字
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日課
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#2073 ハルカA 前編
#毎日最低800文字のSSを書く/#SS発表会_ハルカ
男か女かわからない名前でしょうと聞かれたときから、ハルカはもう最初の一撃を加えるための助走をつけている状態だったのだ。
それを察することもできず、そうですねなんて曖昧な相槌を打った時点で、僕は負けていた。
二人がけソファを向かい合わせにしたボックス席で、僕は荷物を奥に寄せ、上着をしわにならないように畳み、鞄の上にそっと添えるという動作に注意を奪われていたのだ。
もしかすると、それすらも策略だったのかもしれない。
「それで、君はどっちがくると思っていた?」
他のことをしているときに加えられた不意打ち。
「どっち、とは」
「男のハルカくんと、女のハルカちゃん。想像しなかったわけじゃないだろう」
「いやぁ」
曖昧な苦笑いで、店員がメニューと共にそれぞれの前に添えていった水を飲む。
「意識しませんね。だって、インターネット上だと相手の性別なんてわからないものですし」
「それはインターネット上の話。確かに今までは文字だけでやってたから、意識はしてなかったよ。通話も顔出さないしね」
「通話は、そうですね。まあ、色々あるので」
警戒の対象ではないという意味で、ありがたいことではあるが、男だとわかると驚かれることが多い。そして、男だとは思わなかったと、がっかりさせることもしばしば。
いやそちらが勝手に勘違いしたんでしょうと、理不尽を感じないでもない。ただ、相手を変えるより自分の行動を変えた方が楽だ。予断を相手に与えたくなければこちらも余計な情報は出さなければいい。それが秘密主義のように写るのか、心に壁を作るタイプと言われたりもする。
そんなことはない。臆病なだけだ。あとは面倒臭がり。
事なかれ主義なんですよ、僕は。そんなおとなしい僕が、いやぁ可愛い女性が来ると思っていましたなんて、そっちから声かけてもらえたのでちょっと期待してましたなんて、下心丸出しの本音を言えるわけがない。
絶対に匿名の体裁をとった名指しの注意喚起で、狭いムラ社会から追い出される。
ハルカはそういうことをしなさそうなタイプだが、まあともかく、本音はあったとして建前は綺麗に整えておいた方がいいっていうのが、賢い生き方じゃないか。
「今回は、今までとは別。実際に会うんだから、性別はあるだろう。心の性と体の性の不一致とか、性染色体を二本以上持って生まれたとかいう事例への配慮を別にすればね」
「多様性の時代ですからねぇ」
二元論よりも曖昧さの時代だ。白黒はっきりしない領分が人間らしさと、社会の豊かさ。
という事で僕も返事は白黒はっきりさせず、曖昧に濁しておくことにする。
当たり障りのない返答をして、そのまま雑談に移行しよう。
「我々は時代に逆らっていこうじゃないか。別に声を出さずに文面だけで見ていても、この語り口は男だろとか女だろうとか、プレイスタイルが女性的だみたいなことは言われることはある。そうだろ」
「まあ、そうですね。それでいうとハルカさんは、僕がどちらだと思ってたんですか?」
「女」
「一人称僕なのに」
「はは、いや、ミステリならこれが実は日本語話者じゃなかったから一人称による性別差はなかったとかいって、煙に撒かれる叙述トリックだな」
「では今回はお互い日本人なので、成立しませんよって明示しておかないとですね」
確かに最近は自動翻訳が実装されたから、AIが勝手にこちらの性別を判断して文面を変えているとかはあり得るのだ。
「僕っ子の、控えめで可愛い女の子だと思ってた。妹系」
「うわぁ」
「え、ドン引き?」
「現実に求めるものが、オタクの妄想すぎる
……
」
「や、違う違う。違うからね。イメージ。イメージの話。そういう印象というか、可愛い感じというか。文面から感じるキャラがね! あなたのペルソナがそういう形をしているというだけで、そういう人がここに来ると思っていたわけじゃないんでね」
ハルカは慌てて訂正する。
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