限界馬鹿夢女
2026-05-13 07:09:24
7498文字
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たからもの その2

うちよそ前提

続きます

⚠️ヤツフサくん視点


前回までのあらすじ
アカデミーの潜入捜査をしていたヤツフサくんがライくんとセロリくんを見つける








 “あの”クソガキさまが珍しくすごく親しげに接している相手。
 あの2人の名は『ライ』と『セロリ』というらしい。

 太陽が愛しそうな美しく綺麗な小麦の星が散りばめられている、いかにも聡明そうな顔立ちの『ライ』。
 異国の太陽に愛されたのか、太陽の如く美しい褐色の肌と誰もが嫉妬する輝く笑顔を魅せる『セロリ』。

 遠巻きに見ていてもわかる。

(“あいつら”が見たら嫉妬しそうなくらいのすげーやつら……

 遠巻きに見ている初見の俺ですら、こいつら2人の産まれつき持っているであろう力を感じ取って軽く怖気付いているくらいだ。
 キタカミにいるであろう“あいつら”は、きっとこの2人と対面したら感情がぐちゃぐちゃになって大暴れしてしまうだろう。
 ……まぁ、この2人がキタカミに行くことなんてきっとないだろうけど。
 
 そんなことを考えていたけど、この2人がこの数ヶ月後にキタカミに行ってあいつらと一悶着があって……色々あったのはまた別の話。



 それはさておき


 クソガキさまとあの2人の様子を数日に渡って観察していてわかったことがいくつかある。

 まずは、あの2人はクソガキさまに対してさして興味がない。
 クソガキさまのほうが一方的にあの2人に固執して執着している。
 それは……おそらく俺との普段の会話でも見せる“怯え”にも繋がると思うんだけれども。

 
 ライというやつは最初に抱いた印象通り聡明な頭脳の持ち主で、アカデミー内でも“天才児”と持て囃されている様子だった。
 例えばアカデミーの授業に出席をすれば的確な受け答えをし、聡明な分好奇心がとても強いのか他者とも積極的に関わっていき自身の知的好奇心を満たしていた。
 その反面、ライは誰に対しても興味が薄いように見える。
 相手がどれだけライに対して好意を示しても、それを表現して伝えても、その好意に対してライは一切の興味関心を示さない。
 それはきっとライの知的好奇心を満たさない部分だからだ。
 ライ自身の知的好奇心を満たしてくれることに対しては一定の興味を示すが……“個人”という深い部分には一切興味がないのだと俺は思う。

 現に、クソガキさまを見つめるライの目の奥にはその本質が見えている。
 日々クソガキさまがライを見つめるその目には特別な友愛を感じるけど、一方のライはというとクソガキさまを見つめるその瞳はクソガキさまという“個人”を見ていない。

 
 セロリもその点ライと少し似ている。
 良くも悪くも……他者にあまり興味がない。
 というとちょっと語弊があると思うけども、多分、恐らく。
 セロリはというと“自分”とは違う“他者”を知ることが好きなんだと思う。
 相手と深い仲になって自身とは違った価値観を持つ他者と繋がりを持つことにより、ある種の知的好奇心を満たしている。
 そこにおいて“特定個人”に対する思い入れや深入りはしない。
 交友関係に関して平等に線引きをしていて、特定の誰かではなく広くを見据えている。
 それは全員に対してのある種の平等、そしてそれは同時に他者全員に対する無関心でもある……と俺はセロリを見ていてそう思った。
 
 セロリにとってクソガキさまとの関わりは一種の気まぐれで、他の人と遊ぶときとなんら変わりないことなんだと思う。
 クソガキさまのことを『パイセン』と呼ぶのも、ただクソガキさまに対してそう言えばクソガキさまが“特別なんだ”と勘違いしてご機嫌になるから。
 現にセロリは他の奴に対しても相手が喜ぶであろう言葉を的確に選んでいたから。


 そして、ライとセロリのその一種の平等さはある種の魅力でもある。
 元々持つ美しさと強さ、そこに加わる平等さ、それは多くの者を魅了する。
 本来は持たざる者特有の俺の偏見なのは重々承知の上だけども……美しく強い者が誰に対しても平等であり、その美しさと強さを堂々と振る舞うその姿ってのは、持たざる者からしたら『己だけのモノにしたくなる』衝動を掻き立てる。
 それこそ俺たちの過去の経験から俺はそう思ったんだけれども。
 自身を“持たざる者”と称する者からしたら、“持つ者”の美しさや強さに魅せられた上でそんな奴から優しくされようもんなら……持つ者にとっての“特別”になりたいと、どうしても欲を抱いてしまう。
 所謂、あの2人は他者にとって劇物に近い。
 まるで太陽のようだと感じた。

 そしてその欲を抱いたのは自分に自信のないクソガキさまもそうだったみたいで。

 あの3人がどういう出会いをしたのかは俺にはわからないけども……持つ者である2人の強さにクソガキさまは酷く魅了されてご執心なのは嫌というほどわかった。
 2人と一緒にいるとき、クソガキさまは何度もなんども「ライとセロリはすごいな!」と目をキラキラ輝かせては……2人の話にしっかり耳を傾けて、一方でクソガキさまという『個人』にもしっかり興味を示してもらおうと不器用なりに必死に話題を出して2人に振っている。
 ちょっと見ていて痛いほど。

 ここで話は少し逸れるが、妹さま……クソガキさまの双子の妹はアカデミーで有名なポケモントレーナーだ。
 アカデミー内で知らない者は誰もいない。
 所謂“持つ者”“強く美しい者”側だ。
 それこそクソガキさまは旅に出る前に妹さまに散々下駄を履かされて旅に出たらしく、スター団?とかいう奴らとはそのせいで反りが合わないらしい。
 “妹の七光り”だと、クソガキさまがそう陰口を言われてる場面にもこの数日で何回か遭遇した。

 実の妹が“持つ者”なことで酷く苦しんでいるのに、それなのにクソガキさまは何故か“持つ者”2人に酷くご執心だ。
 そこの理由が俺にはわからない。
 わからないからこそ、酷くイライラする。

 あの2人はクソガキさまにとっての“たからもの”。

 でも、あの2人にとっての今のクソガキさまは“ただの石ころ”なんだと思う。

 そして、おそらくその事実にクソガキさまも気がついている。
 だからこそ、時折ヒトとの会話で怯える素振りを見せるのだろう。
 “石ころ”の自覚があるからこそ、クソガキさまという個人に少しでも目を向けて欲しくて苦しんでいる。

 それが、そんなクソガキさまを目の当たりにした俺は、あまりにも悔しくて悔しくて悔しくて、仕方がなかった。
 “石ころ”だと自覚しているクソガキさまだって、俺にとっては、俺から見たら、
 俺が喉から手が出るほどまでに欲しいものを、あの2人は__

 あの2人は?
 
 俺にとっての、クソガキさまは?

……

……俺は、今、何を?)



▫︎


……
「まあ、飲めよ」
……ありがとう」

 数週間に渡っての潜入捜査のあと、ベンチで項垂れる俺にシティのやつは飲み物を奢ってくれた。

「まあショック受けるのもわかるけどな〜身内のそういう姿を見るのは辛いよな」
……シティ、お前はこれ全部知ってたのか」
「ん?……まぁ、俺は少し前までポケモンの姿でユリの肩に乗ってアカデミー内を探索してたから」

 俺の横でシティは青空を眺めながら返事をした。
 真上の太陽が今は酷く憎らしい。

「それこそ俺も詳しくは知らないけどさー、ユリはあの2人に救われたんだってよ」
「救われた?」
「そ、あの2人は『仮初の強さに驕り友達を酷く傷つけたユリに本当の強さを教えてくれた』って」
「それは……いつのことだ?本当の、強さってなんだ!?」

 そのことが俺にも深く関わってる気がして、俺は思わず食い気味にシティに問いかけた。
 しかしシティのやつは妙に薄情なところがあるから
 
「俺も詳しくは知らねーよ!そんなに気になるならユリに直接聞けよな!」

 と言って俺を置いて何処かへ駆け出して行ってしまった。
 

「本当の……強さ」


そのことが頭から離れず、俺はその場に立ち尽くしてしまった。



▫︎


……さ、ヤツ……サ、」

「ヤツフサ!!」

 ハッと意識が戻る。
 目の前にはクソガキさまが居た。

「お前、寮の部屋から抜け出してどこ行ってたんだよ。もう夜になるぜ」
……えっ!?もうそんな時間ですか!?」

 空を見上げるとあんなに憎かった太陽はその姿を隠し、優しい月明かりが天に昇り始めていた。

「シティに聞いたら『噴水のとこにいるんじゃね?知らねーけど』って言ってたから迎えにきたけど……ビンゴだった!よかった!」
(あの野郎……

 クソガキさまははにかみながら笑ってたけど、一方の俺はシティへの怒りと昼間のぐちゃぐちゃとした感情を未だに引きずっていた。

「えっと、あの……そうだ!そういえば!ヤツフサ!お前と2人きりになるの珍しいな?」
「え、ああ、そ、そうですね」

 気まずくなったのか、クソガキさまは突然突拍子もないことを言い出した。
 
「あのな、シティが『ヤツフサはユリのことをもっと深く知りたいって言ってましたー』って言ってて、その、本当か?」
(あの野郎!!!!!)

 余計なこと言いやがったなあいつ!!

「あのな、それならすごく嬉しいんだ。本当にそう思ってくれてるのか……?」
「え、ああ、そ、そうです」
「!へへ、そっか」

「ヤツフサ、お前は俺にあまり良い思い出が無いだろうと思ってたから……だからゆっくり仲良くなろうと思ってたから、すごく嬉しい」

 クソガキさまはそう言って少し恥ずかしそうに俺に向かって微笑んで、噴水の淵のベンチに2人並んで座った。


 アカデミーでどういう勉強をしているのか、将来なりたいものを探している途中だとか、アカデミーでの楽しい思い出だとか、クソガキさまはそういう話を目を輝かせて俺に語ってくれた。

 その途中、俺を含めたクソガキさまのポケモンについての話にもなった。
 
「クソガキさまって他にポケモン滅多に捕まえないですよね〜」
「?どういう意味だよ」
「先日捕まえそびれた緑のハネッコ以外、ポケモンを捕まえようとしてる姿を俺は見たことがない。なんなら野生のポケモンには絶対に攻撃しないように俺たちに指示してくるし」
「ゔっ……ハネッコのことは思い出すと泣くからやめろ」
「んで、どうしてです?アカデミーの評価にも繋がるし強いポケモンをたくさん捕まえたらその分強くなるでしょ」

 俺にとっては至極当然の疑問だった。
 俺は潜入捜査のときにクソガキさまがアカデミーの教員から「ポケモンをたくさん捕まえてこい」って指示されてる姿を見た。
 だからてっきりそれがアカデミーの評価点のひとつなんだと。
 そしてクソガキさまが“宝物”に近付くにはこれが1番手っ取り早い方法だと俺は思ったから。
 だけどクソガキさまは予想外の返事をしてきた。

……俺はな、“こいつが俺の家族になってくれたらきっととても楽しくなる”って確信した奴だけに声をかけてるんだ」
「へえ!?」

 意外だった。

「ポケモンバトルに……トレーナーとしての強さにそこまで固執してないんですか」

 俺の質問に対し「勝てたらそりゃ嬉しいけどさ」とクソガキさまは苦笑してそこから深く考え出す。

……それだけじゃないだろ、ポケモンとトレーナーは家族になるんだから。一生の付き合いになるからこそ“このすごく面白いやつとどうしても家族になりたい”って強く想ったときにだけ絶対に声をかけるようにしてるんだ」
「かぞ、く」
「そう、家族。お前やシティたちに対する俺の第一印象は『ギラギラしてて貪欲ですごく面白いやつだな』だったよ」

 そこからクソガキさまは天に輝く星たちを見つめながらひとつひとつ語り出す。

 コライドンと出会ったときのこと、姉御やシティと出会ったときのこと、ニフルの野郎と出会ったときのこと。

 俺と出会って、迎えにきたときのこと。

 そのひとつひとつを、愛おしそうに、キラキラと目を輝かせてゆっくりとクソガキさまは語った。

 俺たちのもつポケモンとしての“戦闘力”の部分には一切触れず、俺たちという“個体”の持つ“輝き”を、とても愛おしそうな顔で、大切にひとつひとつ語ってくれた。

 それこそ、俺がわからなかったおれ自身の個性についても。

 例えば、俺がご飯を食べる時には周りの様子を伺って他の奴の好物が乗った皿をさりげなくそいつの前に出してることとか。
 例えば、他の奴が体調が悪そうにしていればさりげなくカバンをクソガキさまに持ってきたりとか。
 他の奴がクソガキさまにブラッシングされてるときに俺がクソガキさまの後ろでソワソワ気にしてることとか。

 色んな恥ずかしいことをクソガキさまは事細かく愛おしそうな顔で語ってくれた。

 俺が、過去にヒトを殺したことには一切触れずに。


 今回のアカデミーでの潜入捜査を経てもうひとつわかったことだけど、現代のポケモントレーナーっていうのは強いポケモンをたくさん捕獲して強さを極める者たちのことを指すのだと。
 現にクソガキさまのそばにいるトレーナーたちも強いポケモンを連れていて、それ込みでの“持つ者”だと俺は思っていた。
 俺自身、“強さ”に固執して今の俺がいるからこそ、ポケモントレーナーの持つ欲はよくわかる。
 んで、クソガキさまのポケモンたちは俺が言うのもなんだけど……すげー強いポケモンばかり。
 それこそアカデミーの並大抵のトレーナーには手に負えない奴らだ。

 クソガキさまは俺と出会ったとき「お前と家族になりたいんだ」って言ってたけど……アカデミーでの様子を見てそれが正直少しだけ信じられなくなってた、正直な話。
 俺たちが強いから、美しいから、それが理由で俺たちを都合のいい言葉で捕まえたとばかりと思ってしまった。
 周りが強いから、それに見合った強さを求めたのだと。
 俺たちが他者を傷つけ殺めた者と知った上で、強さだけを求めて俺たちを捕まえたのだと。

 でもクソガキさまの星のようなきらきらした目を見ていたら、俺に語った言葉を聞いたら、そんな邪推はすぐさま吹き飛んでしまった。

 クソガキさまのそういうところが、俺にとっては心底羨ましくて美しいなと思う部分だ。

 罪を憎んでヒトを憎まず、こういうことわざが昔からあったけれども。
 “個人”に強く目を向けてそこに輝きを見出して、それを実際に言葉に出して褒め称えたり強い想いを向けたりすることは……並大抵のことではないと俺は思う。

 誰しもが『自分が1番』であり、その欲を秘めているからこそ強さを求めてまわりに知らしめて……『誰かの特別』に成ろうとする。
 そして、誰かを褒めるときにはその裏に自身への見返りや隠されたドロドロの欲を含んでいることがヒトとして普通のことだと俺は思う。
 だからこそ、クソガキさまは俺たちを言葉巧みに都合のいい言葉で惑わせて、自身の欲に俺たちという強者を使おうとしたのかと一瞬身構えたけれども。

 そもそも思い返せば……クソガキさまは言うことを聞かないヒト殺し俺たちに対して一切臆さずに最初から親しげに接してきていた。
 それは俺たちという個体の持つ本質に目を向けた上で、罪を踏まえても尚その本心から『家族になりたい』と強く想ってくれたからこそ、俺たちという“個体”だけに目を向けて俺たちにその小さな手を差し出したんだ。



 そしてその流れで何故かライとセロリの話にもなった。
 クソガキさまは目を輝かせてライとセロリのことを俺に熱く語ってくれた。
 俺としては昼間のこともあってクソガキさまの話があまり頭に入らなかったけども、クソガキさまは満面の笑みでこう言ったことだけは耳に入ってきた。

「近々ライとセロリにヤツフサたちのことを紹介するからな!!」
 
 ……クソガキさまのこういうところが、クソガキさまという個人が持つ輝きだと思う。

 俺にはわからなかった部分だけれども、クソガキさまがライとセロリにご執心なのはきっと俺やアカデミーの奴らが知らない“強さ”があの2人にはきっとあって、その部分にクソガキさまは強く惹かれたのだろう。
 例え2人がクソガキさまという個人に目を向けようとしなくても、それでもあの2人と友達でありたいと強く思うほどの何かがきっとあったのだろう。
 
 俺たち前科モンが持っている秘めた輝きを見出したクソガキさまだからこそ、俺にはわからないあの2人の何かをクソガキさまは知っているのだろう。

 どれだけ泥に塗れて醜い者に対しても、それこそどれだけ相手が自分に目を向けようとしなくても、その個人が持つ輝きを見つけ出して探し出して、宝石のように目を輝かせて語り褒め称えることが出来るのは、それこそがクソガキさまの“強さ”で“持つ者”としての側面だと思う。

 ……そもそもの話、普通のニンゲンならば俺たちのような前科モンに大切な宝物を紹介しようとは絶対に考えないだろうと思う。
 普通のヒトの思考なら俺たち前科モンが何かをやらかして一般人が怪我をすることなんかは絶対に頭によぎるだろうし、心の奥底で俺たちの罪に偏見がある奴なら大切な人たちに俺たち前科モンを紹介しようとはしないだろう。
 
 一方、クソガキさまはそんな考えが鼻から頭に無い様子だ。
 俺たちという“個体”を心の底から信じ、その上であの2人という“個人”に俺たちを紹介しようというのだ。
 俺たちに見出した輝きを、自身の宝物にも知ってもらおうとしている。

 本来ならば、醜い泥や強き太陽に軽い気持ちで手を伸ばそうもんなら。
 普通のニンゲンならば、身を犯され灼かれ堕ちてしまうところを……クソガキさまはそれに一切臆さず泥と太陽に“個人”としての輝きを見出して、心の底から仲良くなりたいとただその一心で手を差し伸ばし続けている。

 そういう部分が、なんというか、俺は、俺にとっては

……クソガキさまは本当にあたま浮かれポンチですねぇ」
「はぁ!?!?」




 この数日後だった。
 俺がライとセロリに会ったのは。



つづく