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雪貴
2026-05-13 07:06:50
7141文字
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CV2
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狼の餌になる日
ED3後のクレ主♂。※直接的な表現はありませんが多少の性描写有り。
拠点を酸の谷に移している設定。噛み癖のある団長っていいな、という願望から産まれた。
目が覚めて、ぐしゃぐしゃになった布団から這い出して。
投げ捨てられたシャツを適当に着て。
ふらふらとした足取りで、無駄に広い室内に備え付けられた洗面台で鏡を見て、そこで。
「うわ
……
ひっど
……
」
────身体のあちこちに散らばる歪な赤い破線の量に、寝起き早々テンションがガタ落ちした。
クレイグに噛み癖があると知ったのは、わりと最近のことだ。
晴れて良い仲となり、まあまあ身体的接触が増えてきた頃には、まだそんな兆候は見えなかった。
最初はキスが多かった。ちょうどいい高さだと言って、額やまぶた、頬に軽く触れるような戯れ方をしていた。
それが、ある時不意に耳朶を食まれた。
人間より鋭利な歯────牙が耳殼に食い込む感覚に、うなじがざわざわと騒いだのを覚えている。
正直言って気持ちいいのは好きだし、ちょっと踏み込んだスキンシップであると理解し、抵抗はしなかった(もとよりする気も無かったが)。
俺の許容範囲を確かめるような、そういう際どいやり取りが増え、それに慣れていった頃、いわゆる初夜に至り。
────正直、今思い出しても頭が痛くなる。
散々慣らしたはずだったのに、いざ挿入という段でキツくて痛くてうっかりクレイグを思いっ切り蹴り飛ばしたり。
ようやく繋がったかと思えば、成人男性二人の重みに耐えられなかったらしいベッドの脚が折れたり。
結局床にシーツを敷いて最後までしたものの、背中も膝もあちこちが痛くなって、翌日二人で文句を言い合ったり。
まあとにかく散々だった。
とはいえ、以降はそんなトラブルが起きることもなく着々と接触を重ね、今に至るわけで。
めちゃくちゃな記憶だらけのせいであまり覚えていないものの、あの時もやはりあちこちをがぶがぶと噛まれていたようで、翌日身体中が赤くなっていた気がする。
おそらくその頃から、クレイグは遠慮しなくなってきたのだと思う。
セックスしない日でも、隙あらばむき出しの腕や、襟元を緩めた首筋に牙を立ててきた。
最初は渇血症状かと思ったものの、ただ噛み付くだけで血を吸うことはなく、なんなら吸血行為自体はそれ程多くない。
いっそ思いっきり吸血したらいいのでは、と提案したものの、クレイグはちょっと困った笑みを浮かべて、「そういうのとは違うんだよな」と返すだけだった。
曰く、牙が疼いて仕方ないんだと。
俺は吸血鬼ではないから、牙が疼くという感覚は分からない。
しかし、それならば仕方がないと、服で隠れるところならという条件付きで、噛むことを許した。
……
許してしまった。
ひとたび堂々と許可を得てからというもの、なけなしの遠慮もクレイグはどこかに放り投げてきたようで。
それからというもの、噛み跡がしばらく残るくらいあちこちを噛まれ、食まれ、嬲られ。────以来、俺は人前で服を脱げなくなってしまった。
と言っても、風呂に浸かる時くらいにしか肌を晒すことは無いので、今のところ、たまたま同じタイミングで湯を使ったライルが二度見して大きな溜め息を吐く程度で済んでいる。
と、まあこれまではそれくらいでなんとかなっていたので、俺もさほど強く言うことはなかったのだが────。
ジョゼからの要請で水没都市の復興作業に向かい、なんやかんやと時間がかかって、二週間近くも砦を空けていた。
戻って来たのは昨日の昼過ぎで、砦のメンバーやライル達へ近況報告をし、クレイグとも夕飯を共にとりつつ、水没都市や周辺の状況を夜半まで話し合っていた。
実は俺が水没都市へ向かう前からクレイグも忙しなくあちこちへ足を運んでおり、お互いまともに顔を合わせたのはなんとひと月半ぶりだった。
百年の眠りから覚めて酸の谷へ拠点を移してからというもの、これだけの期間まったく会わずにいたことがなかったので、さすがの俺もがっついてしまった自覚はある。
人目があったので我慢していたものの、帰ってきたことを知らせた時のクレイグの屈託のない笑顔に、身体中の血液が一気に沸き上がるような心地がし、思わず勢いよく飛びつくところだった。
なので、夕飯は二人で、と言われた時に、その後のことをまったく期待していなかったといったら、さすがに嘘になる。
実際、真面目な話が終わると、夕食もそこそこに二人してベッドへとなだれ込み、その後の展開は、まあ、お察しの通りである。
お互いあんまり余裕が無かったせいでほとんど覚えていないものの、やはり昨夜もあちこちをがじがじと噛まれ、ついでに今回は血も吸われ、最後の最後はまともに意識があったかすら定かでない。今もなんだか少しだけ血が足りていない感じがするし。
そして今。覚束無い足取りで借り受けている自室へと戻った俺は、何着かある着替えをあれこれと引っ張り出し、果たして何を着るべきだろうか、と頭を悩ませていた。
原因は、首筋に所狭しと彩られた赤紫の鬱血痕のせいである。
手持ちの衣服のほとんどは普通のカッターシャツで、他には短めの詰め襟シャツくらいしか無い。
オシャレに頓着も無ければ、そもそも服を選ぶ基準が戦いやすいかどうかであり、あれこれ着込む必要性も無かった。そのため、服の種類はかなり少ない方だと思う。
その少ない衣服を見比べて、なるべく襟の長いものを手に取る。
一番上まで釦を掛けて、ネクタイをきっちりと締める。が、それでも赤紫に変色した噛み跡があちこちから覗き、俺は今日何度目か分からない溜め息を吐いた。
◇
目覚めた時に私室にいなかったことから、クレイグは作業をしていると踏んで、ほど近い仕事部屋へと足を運ぶ。
首元の惨状を知られないよう、こそこそと砦内を歩く様は、傍から見ると滑稽に映ったことだろうと思う。
幸いなことに団員たちの姿を見ることはなく、思っていたよりすんなりと目的地に着くことが出来た。
重厚な扉をドンドンと叩き、声をかける。
「クレイグー? いるー?」
「おう、入りな」
間髪入れずに返事があり、予想が当たっていたことを知る。
扉を開けると、普段より少しだけラフな格好をしたクレイグが書棚の辺りを片付けていた。
「おはよーさん。と、言ってももうすぐ昼に近いんだが」
「
……
誰かさんのせいでさっき起きたんだよな、誰かさんのせいで」
「へえ、そりゃ可哀想に。いったいどこの誰のせいだろうな」
気の置けない相手との軽口の応酬に、少しだけ気分が浮上する。
だがしかし、今後のことも考えて、今はしっかりと抗議をするべきである。
ごほん、とわざとらしく咳払いをし、ちょっとだけ睨み付けることも忘れない。
「クレイグ」
「どうしたよ、改まって」
「お前さあ
……
この首、責任取れよな!」
釦を外し、散々なことになっている首元を晒す。外気に触れたところがちりりと痛むが、今は気にしている場合ではない。
「
……
は?」
突然の責任追及に、さすがのクレイグも困惑の表情を浮かべるだけだった。
◇
俺はクレイグに首の惨状を訴え、この状態では人前に出るのが憚られること、そもそも見えないところだけという約束だったのにそれすら破られ、最近では誰かと風呂を共にすることも躊躇われること、こんなことならもう噛んでくること自体を禁止する旨を滔々と告げた。
最初はいきなりなんだこいつ、といった顔をしていたクレイグだったが、晒された首筋の痛々しさには少々思うところがあったようで、頬をぽりぽりと掻きながら、神妙な顔付きで最後まで話を聞いてくれた。
「────と、言うわけで。何か言いたいことは?」
「言いたいこと、ねえ
……
。とりあえず、悪かったな。ひさしぶりだったから加減が出来なかった。すまない」
「
……
え? あ、うん」
「なんだよその反応は」
「いやだって
……
まさかそんなに素直に謝られると思ってなくて」
「これでも我慢してたんだがな」
あーだこーだと理由を付けてなあなあにされるのではと思っていたのだが、予想外にも素直な謝罪が聞けてしまった。なんとなく肩透かしである。
俺をなんだと思ってるんだよ、と苦笑いするクレイグを見ないふりし、またもやわざとらしく咳払いをして誤魔化す。
勢いを削がれ、じゃあこの件はひとまず置いておいて、次はこの情交というには凄惨な痕をどうするかについて問おうとしたものの。
「────しっかしなあ
……
お前噛まれるの好きだから、やめたらやめたで物足りないんじゃないか?」
「
……
は?!」
予想外の言い分に、うっかり大きな声が出た。
誰が? 何を好きかって?
その言い分だと、俺が噛まれるのが好きだから、クレイグがそれに応えてるみたいな言い方だ。
「いや待て、そんなわけ
……
!」
「だってなあ」
────不意に空気が変わった。
向かい合ったクレイグの目が、こちらをじっと見詰めてくる。
視線を向けたまま、クレイグはそっと手を伸ばし、俺の身体に残った牙の痕跡をひとつひとつ指先で辿っていく。
頸動脈。喉仏。鎖骨。
突然の接触に中途半端な抗議の言葉も飲み込まれ、音に成りきらなかった空気で喉が詰まる。
衣服に隠れたところはもっと散々なことになっているのだが、クレイグは自分が付けた痕の位置を記憶しているのか、上から下へと辿る指先に迷いが無い。
指先が触れる度、強く噛まれたところが布地に擦れ、ぴりぴりとした刺激が襲ってくる。
いったい何がしたいのか、何をされるのかが分からなくて、身動きが取れない。
それでも、耐え難いむず痒さと居た堪れなさから、射貫くような真紅から必死で目を逸らす。
そんな俺の微々たる反抗など意に介さず、クレイグの指の侵攻は止まらない。
胸元。脇腹。下腹。
ざわざわと背筋が粟立ち、知らず息が荒くなる。
「や、やめろって
……
」
「嫌なのか?」
「
……
嫌だ」
「そうか。
……
この辺を噛むと、中がぎゅって締まるのに」
覚えてないのか。と、耳元で囁かれ、思わずごくりと喉が鳴る。
覚えていない、そんなこと知らない。
いやいやと首を振るも、クレイグは一向に意に介さず指先を動かし続ける。
ベストの隙間から胸元の少し柔らかいところをぐいっと摘まれ、痺れるような痛みが背筋を駆け上り、一瞬視界が潤んだ。
さすがにここまで来ると、いかな自分とて抵抗必至だ。
至近距離にあるクレイグの胸板をぐっと押し退け、ギリギリ手の届かない位置へと後退る。
ちぇ、と、つまらなさそうに唇を尖らす姿は少しだけ可愛いなと思ってしまったが、こんなことで絆されている場合ではない。相変わらずクレイグの瞳は獲物を前にした獰猛な捕食者の如く爛々と輝いているのだ。
そっと喉元をさする。
じとりと冷えた指先の感覚に、昨夜クレイグが噛み付き舐った舌の感触がよみがえり、知らず身が縮こまる。
あの時も、ぎらぎらした情欲を隠すことなく、こちらを確と見つめていた。
それとほど近い熱量に当てられてしまっては、まだあれから半日と経っていない身体には毒に等しい。
「不満そうだが、お前が噛んでいいって言ったんだからな」
「服で隠れるところなら、って言った」
今回はどう見ても襟からはっきりと噛み跡が覗いている。
約束と違う、と、不満を全面に押し出してみるものの、やはり当のクレイグは何処吹く風である。
そんなじりじりとした攻防も、背中に押し当たった壁の感触から、濃厚な敗北の気配を感じ取る。
己より少しばかり高い位置にある真っ赤な双眸が、静かに見下ろしてくる。もう逃げ場が無い。
反射的に首を竦め、もうどうにでもなれ、と諦めかけた瞬間────「悪い悪い」と、笑いまじりの柔らかな声が降ってきた。
「そう身構えるなよ。取って食おうってわけじゃないんだ」
「
……
ほんとに?」
「
……………………
ほんとに」
「その間はなんだよ」
「だはは」
グローブを嵌めていない大きな手が、頓着なく頭を撫で回してくる。その手のあたたかさに妙に安心してしまい、先程までの警戒心がするすると解けていく。
ひとしきり頭を撫でたクレイグは目線だけで二人がけのソファへと俺を誘導し、少しだけ待つように言うと、部屋の片隅をがさがさとあさり始めた。
何をしているのか気になって眺めていると、ほどなくして手に黒っぽいものを持ったクレイグが、隣りの空いた席へとどかりと座り込んだ。
「サイズはだいたい合えばいいだろ。これならほとんど見えなくなるだろうし、動きやすいんじゃないか?」
ほら、とクレイグが手渡してきたのは、黒地にうっすらと灰色のストライプが入った、襟に高さのあるシャツだった。
確かにこれなら喉元より上も隠れるし、触った感じ着心地も良さそうだ。よく見ると釦を留める刺繍も凝っているし、かなり良い品なのではないだろうか。
「こんな良いやつ借りていいの?」
「良けりゃ貰ってくれ。あんまり着る機会もないし、だったら持ってても勿体ないしな」
「え、いいの?」
「お前からは日頃から手料理だのなんだのとあれこれ貰ってばっかりだったからな。ハメを外しちまったお詫びも兼ねて、持っててくれや」
そうまで言われたら返す理由もなく、俺はその申し出をありがたく受けることにした。
そうと決まれば、他の団員たちに会う前に着替えないとまずい。
一切の躊躇なくそそくさとベストを脱ぎ、ネクタイを外し、着慣れたシャツの釦を外し始める。
隣りで唐突に着替え始めた俺にクレイグが少しだけ目を丸くしていたのが見えたが、そんなことは気にしない。
貰ったシャツに腕を通してみると、僅かに大きいと感じる程度で、着心地はとても良い。
「見た感じちょうど良さそうだな。どうだ?」
「うん、ばっちりかも」
ようやく首元を隠せてひと安心。そう思い、そこでふとあることを思いつく。
「なあクレイグ、これってさあ」
「ん? なんだ?」
「いわゆる
……
『彼シャツ』ってやつでは?」
多分本当の彼シャツとやらは、女の子が彼氏のぶかぶかのシャツを着て、その体格の違いにキュンとくるやつなのでは、と思うものの。
多少クレイグの方が上背もあり、見た目のわりに筋肉もある。とはいえ、それほど体格差があるわけでもなし、ただ単に『彼のシャツを着ている』だけなのだが。
「お前なあ
……
」
「あ」
頭を抱えたクレイグを見て、思い付いたことを脳直で口走る悪い癖が出てしまった、と後悔したのも束の間。
ぐい、と襟元を引っ張られ、褐色の精悍な顔立ちとほぼゼロ距離になる。
「えーと、クレイグさん? あの
……
」
「
……
メシと風呂の猶予はやる。それが終わったら、俺の部屋で待ってな」
「え、えっと
……
それは、あの
……
トイレの時間も含めてくれますか
……
」
「な。」
「あ、すいません、あの、
……
はい
……
」
笑顔なのに、圧がすごい。
キス距離でドキドキ、みたいなときめきを感じることもなく、うっかりと捕食者の尾を踏んでしまったことに怯えながら、俺はすごすごと身を引いた。
今まで着ていたシャツを軽く畳み、ネクタイとベストを身に着ける。
仕事に向かうような出で立ちだが、これからの予定は残念ながら食事と風呂とクレイグのおもちゃになることである。
そうだ、仕事といえば。
「ていうかクレイグ、仕事は? 俺も帰ってきたことだしなんかやること
……
」
「ライル達には丸一日お前を貰うって言ってるから、安心してとっとと行ってきな」
「用意周到
……
」
どうりで昼近いとはいえクレイグの居住近くに誰もいないと思った。
おそらく近付くなとでも事前に言っていたんだろうか。がっつきすぎだろ。
特別関係を隠しているわけではないものの、こうもあからさまにされると居た堪れないわけで。
「みんなにも今日はゆっくり休めって言ってるからな。なんか用事言い付けられることもないだろうさ」
……
そういえば団員のひとりから、「お前がいない間、腹を空かせた狼と一緒の檻にいるみたいで心臓に悪かった」、「ようやく心休まる」と言われたことをふと思い出した。
あの時は何を言ってるんだと思ったが、急に腑に落ちた。
「おもちゃじゃなくて餌の方だったか
……
」
狼の腹を満たしている間、みんなは心置き無く羽を伸ばせるというわけだ。
差し詰め俺は生け贄の羊である。
「言っただろ。これでもだいぶ我慢してるんだぜ?」
じゃなかったら今ごろ骨のひとつも残ってないぞ、と笑うクレイグのおどけた声音の中に、うっすらと「本気」が感じられて、俺は思わず詰めた襟をぎゅっと寄り合わせた。
確かに、そうじゃなかったら今のこのまあまあ穏やかな時間も与えられないまま、寝室から出ることも叶わなかっただろう。狼さんの僅かな理性と優しさで、束の間の猶予が与えられたわけだ。
────まんまと踊らされてるなあ。
見えるようなところに痕を付けるなという抗議も、なんだかんだで有耶無耶にされてしまったし。
自身が羊であることを明かされた今、先程までの抗議なんてもはやお笑いである。被食者に抵抗の余地など無いのだ。
それが悔しいと思いつつ最終的には言いなりになっている辺り、結局のところ惚れた弱みなんだろうなと思う。
俺の葛藤を知ってか知らずか、クレイグははやく行ってきなとばかりにひらひらと手を振っている。
その横っ面を抓りたい衝動に耐え、俺はまた、ふらふらとした足取りで部屋を出た。
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