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asahito
2026-05-12 22:11:04
5799文字
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XYZ②
前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒
https://www.pixiv.net/novel/series/7583585
一部R18です
続編である今作の第1章(錦上京キャラ中心)はこちら⇒
https://www.pixiv.net/novel/series/14625442
一部R18です
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。
セレブみたいな人たちって普段何食べて生活してるんでしょうかね
暖房で十分に店を暖め、店内にかけるBGMの選定が終わりふと顔を上げると。ドアの向こうに人影がちらつくのが見えた。
店というのは開店時間丁度に店を開けるのが通常ではあるが。時折、いい席狙いや酒を飲むのが待ちきれずに店が開くのを前で待つ客はいる。
そこまでして待ってくれるのはありがたいと言えばありがたいのだが。なんだか急かされているようで、正直きまりが悪い時もある。
ここで待たせるのも悪いからと店に入れると味を占めてもっと早く入れてくれと言って来る阿呆がいるため。できる限りは時間通りにしか店は開けない。
人影からするに、女だろうか。時計をちらりと見れば開店時間の2分前くらいを針が示していた。まだ早い時間とは言っても、女を一人で立たせておくのも良くない。
変な輩に絡まれる前に私の店の方に入れてやるか。
「こんばんは」
ドアをゆっくりと開けてその人影を確かめると。帽子を被り高そうなコートを着た金髪の女が立っていた。これ、どっかの高級ブランドだったよな。
「あら
……
開店時間はまだでしょう?」
私の声に口元に笑みを浮かべてその女は答えるが。目は笑っていない、という印象を受けた。とたんに厄介なアンテナを感じ取り私も心の中で身構える。
身なりからして舌が肥えており、高級な品々を当然の様に知っているであろうタイプの人種か。
「ええ。でも外は寒いでしょうからお入りください」
変に誤った対応をするとうちの店の危機だ。とりあえず中に入れてこの客の出方を見極めなければならない。
その女はではお言葉に甘えて、と言いつつも。少し遠くに視線を遣りその先の相手に合図をしているようだった。
深夜にいきり散らす連中が乗り回すものとは段違いな、一流ホテルの送迎でしか見ないような高級車と。運転手兼用心棒にも見える連中が数名。
一瞬堅気ではない奴に囲われている女かと思ったが。立ち振る舞いはそれこそ優雅であり近寄りがたい気品を感じる。
どうしてうちの店にこんな女が来るんだと疑問符は尽きないが。どんな客であろうと美味しい酒を飲ませてやれば命は無事で済むだろう。
お好きな席にどうぞと着席を促し。女は並んだ椅子の真ん中あたりに腰掛けコートを脱いだ。
「ハンガーをお持ちしましょうか」
普段なら空いている椅子に鞄やコートを置いてもらうか、箱に入れて貰うかだが。買おうと思えば札束で殴れるような上質なコートを無碍にはできないため壁にあるハンガーを持ってこようとする。
「いいえ、大丈夫よ。一杯飲んだらすぐにお暇するし」
一杯だけという言葉で希望は湧く。長居されればされるほどボロが出やすくなる。
かつて袿姫が私への脅し文句で使った、『堅気だけど強面の連中を連れて来れる』という言葉を体現したような女がうちの店にいると他の客も委縮するだろう。
女におしぼりとメニューを渡しどうぞごゆっくり、といつもの決まり文句を言うも。私の内心はごゆっくりどころじゃない。
メニューを受け取ると女はそれをテーブルの上に置いた。そして鞄から扇子を取り出し、口元を隠しながらも私の顔をじっと眺める。
「
……
もしメニューにないカクテルを御所望でしたら、承りますので何でも仰ってください」
扇子なんて持って気取りやがって。
その視線が私に対しての品定めというか、上級階層が庶民を見る様な視線のように思えて。きまり悪く、心地悪く、私は言葉を投げた。
「残念ながらあまりカクテルの知識はないの。普段こういうお店に入ることもないから」
女がメニューを眺めつつ私に苦笑でも笑顔を見せるのは意外だった。なんやかんやで上級階層の連中は袿姫たちを見ているから雰囲気というものが分かるが。
こいつは袿姫と似ているようで明らかに異なる。話は袿姫よりもこの女の方がよほど通じるが。袿姫の方が何故か、拒んだり蔑んだりの態度を私に対して持っていないと感じるのだ。
「じゃあうちの店は初めてですか?」
「ええ。少し調べものをしてた時にこのお店と貴方の情報を知って興味が湧いたの」
店の情報だけではなく私の情報を得るというのはどういう意味なのか。その真意を推し量ることはできず。単にスマートフォンでバーを探してたらうちが見つかった程度の良くある話だろうと結論づけておく。
口コミで私の事を書く奴もいるからな。フリーマーケットで臨時で店を出した時もイベントの記念に何度か写真をスタッフに撮影されたこともあり、顔がばれてしまうことを止めることは不可能だろう。
「ありがとうございます。そう仰って頂けると嬉しいですね」
魂胆や真意は分からずとも、社交辞令で礼は述べておくべきだろう。こうやってうちに来てくれたってことはうちに金を落とすってことだ。
女はメニューをゆったりと眺めながらどの酒がいいかを考えているようだが。あまり酒の種類に詳しくはなさそうで、このお酒ってどんなお酒かしらと疑問顔であった。
金があってもいい酒を知らないってことなのか。それとも普段の暮らしではこういったバーに置いてある酒は飲まず、何百万もするビンテージのワインを嗜むとかそういう系統の無知なのか。
いきなりうちには置いてない幻の酒なんかを所望されて、申し訳ありませんと頭を下げるのも怖いので先手を打っておく。
「もしお酒の名前が分からないなら、お客様のお好きな食べ物や味をベースにお作りしましょうか」
好きな食べ物と聞かれてもこういった場なら酒の味に関することとすぐ理解してくれればいいが。
「好きなもの
……
そうね。桃は美味しいからよく食べてるわ」
「桃?」
意外と庶民的なものがその女の口から出て拍子抜けしてしまったが、桃がベースのカクテルならいくらか候補がある。
ただし桃の旬は夏から秋のはじめくらい。もう冬になったこの季節では冷蔵庫にストックもなく。桃は傷みやすく繊細は果実の為、常に用意してはいない。
ピーチリキュールをベースにするなら可能か。ウィスキーとソーダで割ってもいいし、単純にオレンジジュースとでカクテルにしても良い。女性に人気の味だから棚にピーチリキュールは常備してある。
「でも、今は桃の気分じゃないわね。沢山食べ過ぎちゃって」
「
……
」
だったら言うんじゃないよ、と思ったが。好きな食べ物を聞いたのは私なので言えた文句でもあるまい。
「はは。甘い物も食べ過ぎると飽きますからねえ」
甘い物に飽きたならさっぱりした傾向のカクテルの方がいいか。頭の中にあるレシピの中でさっぱりとした口当たりのものを探し出し、今ある酒のストックと照らし合わせる。
「そう、仕事がやっと落ち着いて」
曰く前々から私の店の情報は得ていたが。仕事がずっと忙しく、合間を縫って足を運べたのがやっと今夜のことであったと。
仕事というのは何の仕事かはこの女の身なりではわからなかったが。時間帯的に夜の仕事というわけでもなく、接客業にも見えず。
案外普通に、どこかの会社の社員なのかもしれない。仕事で疲れた躰を癒すためにうちに来たのならそれは安心できる理由だ。
「お疲れ様です。本当、皆さんよく働いてますよ」
「しばらくはあんな仕事はしたくないわね
……
みんな頑固で困っちゃう」
やれやれ、と女は溜息を深く吐いた。周囲が非協力的だと嘆くのは龍さんみたいで、この女も管理職か何かなのだろうか。
管理職でもビール一杯で機嫌が直る龍さんとは違うだろうが。苦労はどこも一緒だと言うなら私はとあるカクテルが浮かんだ。
「そんなお客様に私が一杯作ってもよろしいでしょうか」
ずっと喋っていて何も注文されないのも困る為私の方から思いついたカクテルを提案すると。女はふ、と扇子の奥の口元を緩めた。
「お願いするわ」
近寄りがたい雰囲気を持ちつつも、話せば普通の会話はできるのか。とはいっても心は決して許せる気はない。
生まれながらにしてこの女と私には境界線の有るような、そんな感覚がずっと拭えないのだ。
いつもはお城暮らしでもしてるお姫様が気まぐれで庶民の元に降り立って。やっぱり庶民の暮らしなど薄汚い市井であると思うだけの話だろう。
ラムの瓶を棚から取り出し抱きかかえたままレモンジュースの瓶を探す。メニューにも一応書いてあるカクテルだが、パッと見ただけでは味の想像は付かないだろう。
酒を作り始める仕草をすれば流石に仕事を邪魔してはならないと女は気づいたらしい。店の周囲を見回し、うちの店の展示物を眺めているようだった。
流石に保健所か何かの監査でうちに覆面で来たのではなかろうな。そういう雰囲気ではないが、飲食物を提供する店である以上そういうのには敏感だ。
スマートフォンを触ることもなくまじまじと観察しているが。窓際に置いてある間抜け面の置物達が目に入ると一瞬何かに気付いたような表情を浮かべたが、またすぐに表情は掴みどころのない笑みに戻り最後は私の酒を作る手元を見つめていた。
「バーなのに変わった置物があるのね。あれは貴方が作ったの?」
「ああ
……
あの埴輪ですか。あれはうちの店に来てくれるお客様から頂いたものですよ」
ユイマンに続いてこの女もあの置物に興味を示すとは。やはり私から見ればただの間抜け面の置物であるが。
見る奴が見れば素晴らしい埴輪に見えたりするものなのだろうか。一応あのとぼけた顔が可愛いと言ってくれるお客さんもいるので、なんだかんだ袿姫の腕前は評価できると言ってよい。
「そう。あと、貴方が下げているネックレスも綺麗」
シェイカーに必要な材料を入れていると、ふとその言葉を投げかけられ。それも阿梨夜に言われたことを思い出す。
「これは別のお客さんの作品でして。作った方に伝えておきますよ」
魅須丸の作品についても気づく奴は気づくんだな。なんだかんだ評価はされてるアクセサリーだし。
しかし袿姫と魅須丸の両方にすぐ言及してくる客は初めてだ。たまたま目に入ったから聞いてきただけなのか。
シェイクを十分にした後ショートグラスに注げば。柑橘の香り漂う白色で満たされる。
「お待たせしました」
コースターを置いた後、ショートグラスをゆっくりと着地させれば。この女の疲れを癒すカクテルの完成だ。
「これは?名前はあるの?」
「XYZ。これ以上良いものは無い、これで最後という意味です」
厄介な仕事はこれで最後にして、これからはゆったりと仕事ができるようにという意味を込めたが。この女にその意味は伝わるだろうか。
「後がない、という意味ではないのね」
アルファベットの最後を含んでいるため見方を変えればそうかもしれないが。そんな意味を込めて酒を出すバーテンダーがどこにいる。
「仕事がひと段落したお客様が頼まれることも多いお酒ですし、柑橘ベースなのでさっぱりとした味わいかと思いますよ」
お前の求めるものには近づけたぞという念押しをしてアソートを遅れて出す。
女は私の説明を聞いてゆっくりとグラスを持ち酒を少し口に含んだ。
「
……
貴方の言う通りのお酒ね。さっぱりしてる」
反応は悪くない。気に入ってはくれたか。内心胸を撫で下ろし営業用の笑みを浮かべると女は頬杖を突き私を見つめた。
先ほどよりかは警戒や品定めに近い視線はなくなったが。それでも完全ではなかろう。
「気に入ってくださったなら嬉しいですね」
「貴方バーテンダー以外の仕事でもきちんとこなせそう。あの方より愛想も融通も利きそうだし
……
」
「え」
なんでいきなりヘッドハンティングみたいな事になるんだ。コイツ一体何者なんだよ。
今のバーテンダーからお堅い職業になるのは御免だし上級階層の中にいたら息苦しくてかなわない。
「お言葉は嬉しいですがこの店私の店でして
……
」
断り方によっては先ほどの外の用心棒が殴り込んでくるかもしれないと危惧し、言葉を選びつつ断りを入れる。
というかあの方って誰の事だ。愛想も融通も利かなそうな奴に振り回されてるってのかこの女は。
「冗談よ。選べる人材が条件で限られてなければいくらでも有能な人材はいるのに、勿体ないなって」
そう言ってはぐらかすように女はまたカクテルを飲んだ。酒に弱いわけではなく、少しずつだが確実に酒は減っていく。
人材の不足はどこの業界もそういうものなのだろう。欲しい人材ほど別の場所に縛られていて手に入れることができないと。
「配られたカードで戦え、ですか」
弱っちいカードばかりじゃ戦略も何もあるまい。頭を使えと言われても、使えないものは使えないのだ。
「そうね。強力過ぎるカードが二枚もあるのに、それのせいで動きにくいの」
強力なカードというとトランプのジョーカーが思いつくが。ジョーカーが二枚あればかなりの切り札になりそうなのに、それが不便なのか。
ジョーカーであがりは禁止とかそういう縛りはあるけど、それはトランプの世界だけだろう。
「終わりにしたくても、終わらないのが常ですかね」
幾度となく山を越え壁を超え終わらせたと思っても。仕事は働いている以上はどうやったって続くのだ。
女は私の言葉を合図の様にしてカクテルを最後の一口飲み終えると。すぐに勘定をお願いしてきた。
その言葉に緊張が解け、何とか用心棒が殴り込んで来ずに終わったと内心小躍りしたくなるほどだった。
すぐに伝票を手書きし代金を見せると、女はコートを抱えつつカードを見せて来た。現金は持ち歩きませんってか。
読み取り機にそのカードを差し込んでいる間に店の中に、外で見張っていたであろう女の部下か何かが入って来てお時間です、と伝える。
いかつい用心棒かと思いきや、小さめの若い女だったのが意外だが。そういった用心棒などはあの車の中で待機しているのだろうか。
「
……
すぐ行くわ」
女は静かに答えると、私からカードを受け取りコートを着て外に出ようとする。見送りに私が追いかけると。
私の顔を見てふ、と笑った。
「確かに似ているとは思うけど、やっぱり別人ね」
よくわからない言葉をそっと投げて来て、背中を向けて去って行った。一体何なんだったんだ。
続く
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