カレット
2026-05-09 07:12:30
2808文字
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眠れぬ夜のアーカイブ

アメリコワンライお題「独り占め」をお借りしました/チャットと通話するアメリコ/捏造過多/実際に連絡先交換したのは多分六英雄奪還した頃だと思う

 ブルーベリー学園へ向かうブレイブアサギ号の船内で、リコはスマホを穴のあくほど見つめていた。

「リコです。よろしく」
「宜しく頼む」

 チャットアプリの画面に一通ずつ並んだメッセージ。相手の名前の欄に踊る「アメジオ」の文字に、感慨にふける。あんなに頑なだった、敵だった彼と、今は連絡を取り合える関係になったなんて、旅立った頃の自分に言っても決して信じてもらえないだろう。リコはひとり笑みをこぼした。
 とは言え、ここからメッセージトークが始まる気がしないのも事実だった。ドットなどは情報を事務的に共有するのだろう。ならば自分がアメジオに何か伝えることがあるとも思えない。
 そこへ、ちょうどドットが通りかかった。

「どうしたんだよ。難しい顔して」
「あ……はは! アメジオに連絡することって何かあるかなあって思って」
「ああ、連絡先交換したからか? ブルーベリー学園でパゴゴについて新しいことが分かれば共有しようと思ってるけど、ちょっとハードル感じるな」
「え、そうなの?」
「ラクアで一度……リコやロイはこないだもか。一緒に戦ってくれたけど、友達ってわけじゃないだろ。どんな風に話しかけたら良いか、悩む」
「意外。ドットならビジネスみたいに割り切って連絡取れるかと思った」
「クレイブさんやハンベルさんくらい年上ならそう思えるけどさ」
「じゃあ、アメジオに何か連絡するときはわたしがメッセージ送るよ」
「それは正直助かる」

 そんなことがあってしばらく。ブルーベリー学園での修行を終えてパルデアへ向かう船の上、夕食も入浴も済ませたあとの自室で、リコは使命感を持ってアメジオにメッセージを送った。パゴゴの力を引き出すのに十八テラスタイプのポケモンを揃える必要があること。またラクリウムの研究データを手に入れるためにエクシード社の施設に潜入することを。程なくして返信が来た。

「六英雄の奪還はこちらとしても望むところだ。内部情報をジルとコニアに探らせよう」
「ありがとう! ジルさんとコニアさんによろしく伝えてください」
「潜入作戦も危険が伴うだろう。こちらからも出来る限りサポートする」
「とっても心強いよ」

 無事に協力を取り付けて。いつもなら、あとはスタンプで会話を締めくくるところだ。しかし、せっかく画面の向こうにアメジオが居てくれると思うと、それはどうにも勿体ないように思えた。聞いてみたいこと、話したいことは山ほどあるのだ。特に、先日助けに来てくれた時彼が連れていた一匹について。

「そう言えば、白いジガルデ、仲間になってくれたんだね」

 勢いのままに投げかけたメッセージに、すぐに既読の印がついた。送ってしまってから考え直すと、どうにも話題が古すぎるような気がして落ち着かない。どうせ訊くなら連絡先を交換した日が良かったのに。でも気になっていたことだから詳しく聞きたい。悶々と悩むも、どうしようもない。
 デスクでスマホを睨んだり頭を抱えたりしていると、マスカーニャが自分の方を見てほしそうにしなだれかかってくる。背中を撫でようとしたその時、返信の通知が来てついそちらに反応してしまった。途端に尖るマスカーニャの体毛がちくちくと肌を突く。

「あれからジガルデのセルを探し求め、見つける度に呼びかけていた。もしこちらを見ているのなら姿を見せてほしいと。そうしたら応えてくれた。バトルで力を示した末にジガルデに認めてもらえたんだ」

 訊いたことに答えてもらえる、それが無性に嬉しくて、返信の文を何度も読み返した。その光景を想像して胸を躍らせた。そして、返事に悩む。
「良かったね!」――軽すぎる。
「すごい、流石アメジオ」――話が続かなそう。
「その様子が見たかったな」――これは重いんじゃ?
 でもどれも全部伝えたいことなのだ。あれこれ考えるうちアメジオと会話を長く続けたい自分に気づき、リコはむず痒い気持ちになる。スマホにかまけているうちにマスカーニャはベッドでふて寝してしまった。パゴゴも既に夢の中にいる。

「きっとアメジオの進む道をジガルデも信じてくれていたんだよ」

 文字を入力しては消しを繰り返し、内容を厳選しやっとのことで返信した。言葉を吟味できる分、チャットはそこに思考を割かれる。この言葉だとどう思われるかと考えてしまって足踏みする。それだけでなく、時間を割いてくれるのだから、嬉しい気持ちになるような言葉を届けたい。結果、返信のタイムラグが大きくなる。面と向かって話していれば、すぐに心のまま返事ができるのに。だからといって通話に誘うのは難易度が高すぎる。
 その考えが伝わったはずもないのに、突然スマホが強く振動した。誰あろうアメジオからの着信だった。動転した心を落ち着けるために外に移動して深呼吸してから、通話に応じた。

「アメジオ、こんばんは」
『急にかけてすまない。長く話すなら通話の方が良いと思った』
「わたしも、同じこと思ってたところ」
『そうか』

 聞こえてきた微かに笑うような息遣いに、胸をぎゅっと鷲掴みにされた気がした。
 それから、ジガルデの話の続きに始まり、アメジオの身の周りの人の話題に続いた。初めて、アメジオとごく普通に話をしている。どうしてかドキドキと胸が高鳴る。優しくて落ち着く声なのに。寒さからではない震えが体に走った。
 彼の行く道の軌跡、他者の話から垣間見える彼の過去、どれも知ることができて嬉しくて、皆にも伝えたいのに自分の胸だけに留めたくもなる。宙に浮くようなふわふわとした気持ちだ。
 だんだんと夜は深まる。見えていた船室の明かりたちが徐々に少なくなっていく。

「アメジオ、時間大丈夫?」
『こちらはもう休むだけだから大丈夫だ。そちらこそ』
「わたしも、今日はもう寝るだけ」
『ポケモンたちはもう休んだのか? 俺がリコを独り占めしていて大丈夫か』
「っ、」

 独り占めなんて、と大声を出しそうになって慌ててこらえた。いやに甘やかに響いたその単語がリコの耳に焼き付き脳内で反響している。恐らくはやきもち妬きのマスカーニャを慮って出た言葉だろうけれど。振り返れば、紛れもなく、リコは心身ともに数時間もアメジオひとりに占められていた。それを認めた上で、どう返事をしたらいいのだろう。だって、大丈夫だと答えたら、独り占めされたいみたいではないか。

「みんな、もうとっくに寝てるよ……
『だろうな。もう夜も遅い。リコもそろそろ眠ると良い』
「そう、するね。今日はありがとう。おやすみなさい」
『ああ。また話そう。良い夢を』

 リコは通話終了の画面をぼうっと見つめて暫く放心した。夜風の冷たさが気にならないほどに顔が熱い。このあと寝付ける気は全くしなかった。アメジオの言葉を、耳が繰り返し再生し続けるものだから。