2026-05-11 16:54:24
1199文字
Public
 

エル・ローライトは死んでない

拗らせたオタクの独言

彼が死んだことにこんなに傷ついているのは世界で私だけなのだという気分にさせられる。私はただ一人で彼を喪った悲しみの中に置き去りにされているのだ。
作中人物の中に、彼が死んだことを本気で悲しみ感傷に浸ってくれる人物が、誰一人としていないせいだ。
彼の死に関する作中の描写は、彼が死んだ直後の夜神月の演技のシーンがほとんどピークであり、その後はすぐに「誰が彼の仕事の後を継ぐのか」という実務的な話に移行してしまう。彼の死は、あまりにもあっさりと描かれた。

Lの最も身近な人物であったはずの老人には、謎多き探偵Lの仲介役であるワタリという「裏の顔」の他に、発明家であり資産家であり、孤児院のオーナーであるキルシュ・ワイミーという「表の顔」があった。だから彼の死を悲しみ、時に思い出す人はきっとたくさんいる。Lにはそれがない。Lには「表の顔」がないのだ。Lの後継者として育てられたニアはたびたびLのことを考えるし、間違いなくLを慕っているが、彼はLに会ったことがない。彼が思い出しているのは、彼の中で理想化された稀代の名探偵Lの幻影であって、あの背中が曲がった目つきの悪い男の姿ではない。
Lという「役割」を背負った者のことではなく、あの「風変わりな」のひと言ではとても足りない変な男、──目つきが悪くて猫背でひどい偏食家で、自分の身の回りの世話すらろくにしない、負けず嫌いで子供っぽくて、傍目にはどこまで本心を言っているのか何一つわからない飄々とした態度の、真っ白なシャツとデニムのよく似合う、とてつもなく変な男──彼が死んだという事実に、心から悲しみ涙を流してくれる人は、あの世界にはおそらく誰一人としていないのだ。

「彼」を殺した、あるひとりの男が死んだことを知って、その男の母はどれだけ泣いたのだろうか。何度ささやかな美しい思い出を噛み締め、二度と来ることのない未来を夢想しては打ちひしがれたのだろうか。母は。妹は。友人は。同僚は。恋人は。
「彼」にはそれがないのだ。世界中の誰もが彼の功績を知っているのに。世界中の誰も、彼がどんな人間だったのかを知らない。Lは世界を動かしたが、風変わりなたったひとりの「人の子」は、世界にほとんど何の痕跡も残さずに灰になってしまった。
その事実が私の心にひどく突き刺さりじくじくと痛んで仕方がない。彼の死を知った日から20年が経った今でも、私はこうして彼の死を受け入れられずにいる。

彼は何を望み、何に幸せを感じたのだろう。誰かを心から信頼したり、愛したことはあるのだろうか。彼にとって世界とは何だったのだろうか。彼が死んだなんて信じない。彼は嘘つきだから、きっと今もどこかで背中を丸めて座り、山ほどの砂糖の入ったコーヒーを啜りながら、何か常人には理解の及ばぬ小難しいことを思案しているに違いない。きっとそうだ。頼むからそうだと言ってくれよ。エル。​