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tokanon
2026-05-11 11:39:09
1895文字
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祭りの後
ムビ後小噺 まだつきあってないろささ
「祭りの後、て感じやな〜」
「あ? ええからちゃんと手伝えや、あー柿ピーラグに貼っついとる
……
」
DRBの狂乱は、Final Battleで終わりを告げた。思えばH歴なんて狂った時代も、ほんの二年とちょっとの出来事だったのだ。そんな時代の終わり、俺はヒプノシスマイクを片手に、またかつての相方の隣に立つことができた。
結局三人でテッペンを取る夢は叶わなかったけれど、今はそれで良かったと思う。みんなが笑顔になれる争いのない国が俺たちの掲げた理想であり、勝者が誰であれ世の中はその方向へ向かって歩き出した。それに優勝なんかしていたら、盧笙は普通の教師を続けるのも難しかっただろう。俺が巻き込んだ戦いで、盧笙の人生まで壊してしまうことを、俺は望んではいなかった。
「あ〜、零の持ってきたええ酒ほんのちびっと残っとるわ、飲む?」
「アホ、昼まで寝て迎え酒もないやろ
……
ま、捨てるんももったいないから置いとこ」
グリーンの一升瓶のキャップを戻し、キッチンに置く。DRBの打ち上げと称した昨夜の飲み会は盛り上がりすぎて明け方まで及び、目が覚めた時に零はもう消えていた。マイク関係の残務が山積していると愚痴っていたから、忙しいのだろう。
「俺らも日常にはよ戻らんとな〜、DRB関係でセーブしとった仕事、終わったなら鬼のように入れよってマネちゃんが手ぐすね引いてんねん」
「あー俺も書類たまっとるわ
……
なんぼDRB関係は公休いうたって他のセンセにもだいぶ迷惑かけてもうたし」
ビールの缶を資源ゴミにまとめ、缶底の丸い痕が残るちゃぶ台をウェットティッシュで拭き上げる。その間に盧笙は洗い物を済ませて、ピカピカになったグラスを拭いていた。どんちゃん騒ぎで荒れていた部屋も、二人でやれば二十分もかからずキレイに片付いて元通り。薄く漂うアルコールの匂い以外は清潔ないつもの部屋だ。
零が仕組み、俺がそれに乗っけられて盧笙を引き込んだ。大元が政府の策略だった『どついたれ本舗』の再結成は、別々の道を歩んでいた盧笙と俺の道を再び交わらせた。ほんの数ヶ月のできごとの中で、怒ったりケンカしたり、たくさん笑い合ったりしたのは、本当にお祭りみたいな時間だった。
お祭りの終わりは、いつも寂しい。だけどみんないずれ帰路につき、そして日常に戻っていく。
「ほなそろそろお暇しますわ、夜から収録やねん、ひな壇やけど」
顔隠し用のキャップを被り、リュックを背負う。次にここを訪れるのはいつになるだろう。玄関に向かおうとしていると、盧笙がリビングのドアを開けて、こちらを覗き込んだ。
「あ、簓、ちょおまって」
「わ、と
……
、は? なにこれ」
放ってよこされた小さな塊を反射的にキャッチする。なんやねん、危ないやん。そう言う前にのぞいた手のひらの上にあったのは、少し飴色に曇った小さな鍵だった。
「いやこれ本鍵やん、こんなん」
「おん、返せよ?」
盧笙がリビングの壁にもたれて、ニヤリと笑った。
「どーせオマエのことやから、DRB終わってここ来る理由なくなったとか思うてんのやろ。やから俺がオマエに、来る理由やるわ」
したり顔で言う男に、返す言葉がなくて黙り込んだ。だってそうやろ、DRBなんてそもそも盧笙には関係なかった。中王区に目をつけられたのも、盧笙を巻き込んだのも俺で、そして祭りは終わったのだ。
「大事な鍵やからな、いつでもええからちゃんと返しに来い。そしたらまた貸してやるから」
何も言えない俺に、盧笙は続ける。反論しようとなんとか絞り出した声は、蚊の鳴くような小さなものだった。
「
……
無限ループやん、そんなん」
「ええやろ、お前が言うたやん? 死ぬまで解散する気ないって」
握りしめた手のひらの中で、冷たかった鍵がだんだん俺と同じ温度になっていく。
あーあ、せっかく日常に戻ろうと思うたのに。
オオサカに戻ってからは毎日ひとを笑わせて、一人の部屋で過ごす時間が少しでも減るように仕事を詰めて、空白ができれば食べ歩き、飲み歩く。そんな日常だった。それが当たり前だったのに、いっときでも帰る場所を作ってしまったから。そうしたらいつの間にか、離れられないように絡め取られてしまった。
盧笙は言いたいことだけ言うと、リビングに戻っていった。今日の戸締まりはどうやら俺に任されたらしい。
──巻き込んだのは俺? それとも。
飴色の鍵は、自分のもののように手に馴染んだ。カチリと小気味よく落ちた錠の音を聞きながら俺は、「後の祭り」なんて言葉を思い出したりしてしまうのであった。
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