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葵月
2026-05-11 03:12:01
2345文字
Public
ワンライ:2026.05.10 【嘘のヴェール】・【二重人格】
#王最版深夜の一本勝負 のお題をお借りして、ワンライの練習をしました。こちらでこっそり投稿させていただきます。
一応この3人の簡単な設定はあるんですけど、設定を細かく書き始めなかったのは成長だと思いますね。ちょっと前なら凝りに凝って書きまくってた。
ヴェールに包まれて
3枚の紙から視線を逸らし、窓の外を見上げる。今日の空は霧のような雲が全てを覆い隠してしまっていて、それはまるでこの事件のようで。
僕は温めて晴らしてしまえばいいのか、雨を降らして役目を終わらせてしまえばいいのか、まだ答えを出せずにいた。
「また面白そうなことやってるね」
「
……
っ!」
聞こえてきた声に地面を蹴って振り向く。勢いよく回転した椅子から立ち上がると、彼の手から1枚の紙を奪い取った。
「王馬くん
……
、来る時は連絡してって何度も言ってるだろ」
「そんなこと初めて言われたんだけど」
「それは嘘だよね」
きょとんとした顔を向ける王馬くんをそっと睨む。いつもいきなり押しかけてくるキミに、ここじゃなくてせめて家にしてよと合鍵まで渡したのに、未だその鍵を使われたことはない。これだと鍵をかけているのは僕の方なのか、キミの方なのか、分からない。
「嘘じゃないよ? だってオレ、一卵性双生児だからね!
最原ちゃんが今日まで伝えてきたそれは、オレだと思ってた別のなにかだったかもしれないでしょ」
「
…………
キミが来てからどのくらいの時間が経ってるの?」
「カップラーメンが出来上がるくらいかな!」
そう言いながら一度簡易キッチンの方へ入っていくと天ぷらそばと大盛りのラーメンを手に戻ってくる。
……
例え話じゃなくて、本当に作ってたのか。
「これは最原ちゃんの分ね」と言いながら机の上に天ぷらそばを置いたので、仕方なく王馬くんが適当に放り投げた2枚の紙と手元の紙をまとめて引き出しにしまう。
応接用テーブルで麺をすすり始めた王馬くんを見てから、僕も割り箸を割った。
「それで? 最原ちゃんはその件、どう推理したの」
「言わないよ」
「えー、また守秘義務がどうのってつまらないこと言い出すつもり?」
「それももう言わないよ
……
」
前に守秘義務について2時間近く言い聞かせたら、次に会いに来た時には僕が業務提携している探偵事務所の事業譲渡契約書を手に持っていた。
……
その探偵事務所、かなり高齢で跡継ぎがいないから最後は貰ってくれと頼まれて提携を受けていたんだけど。あの後会いに行ったら「いいパートナーですな」と朗らかに言われ、思わず天を仰いだ。キミは口八丁に何を言ったんだ
……
、僕の家の鍵も開けられないくせに。
「その病院精神科で有名だけど、水曜限定で睡眠外来もやってるよね。大吉先生って言うんでしょ?」
「
……
そうだね」
「これはオレが今よりももーーーっと可愛かった頃の話なんだけどさ。よく『お兄さんが大吉なの?』って不躾な視線を向けられながら聞かれたんだよね。だからオレ、大吉って名前は見るだけでも鳥肌が立つんだ
……
。オレは一途な愛をこれでもかってくらいに受け取ってのびのび育った一人っ子だっていうのにね! 小吉ってだけで勝手に想像して、失礼しちゃうよ!」
「
……
うん」
「まぁ、嘘なんだけどね」
「
…………
」
「最原ちゃん、蕎麦伸びるよ」
柔らかくなりすぎた天ぷらを箸で割ってから口に含む。じゅわりと出汁を吸ったそれは、痛くなった頭を優しく解いてくれるようだった。
「
……
王馬くんは、どこまで気がついたの」
「自分は答えを言わないくせに、相手からは貰おうだなんて、虫が良すぎると思わない?」
そう言いながら、一緒に温めていたのか白米のパックをドボンとカップの中に入れる。引き出しから使い捨てのスプーンを取り出して渡すついでに、もう一度3枚の紙を見つめた。
「最初はちょっと変わった浮気調査だと思ったんだよ。
彼が浮気しているかもしれない、友人からの証言はあるのに彼は知らないと青ざめた顔で言い続ける。最後には、たまに記憶がなくなる時があると泣きながらカミングアウトをされた。
彼のことを信じたいから、信じるための手助けをして欲しいって」
「それで依頼者と調査対象の双子の兄まで調べる事態になってるのは、最原ちゃんの悪癖だと思うけどね」
「
……
調査対象は二重人格。
ということにしたい、優秀な双子の兄に成りすまして生きることに必死な気が弱くて根は優しい人だったよ。
浮気はしていない。依頼人の友人が見たというのは兄の方。それだけだ」
「優秀な兄を持つ気持ちはよく分かるよ!
しかもそれが一緒に生まれてきて一緒に育てられた自分の半身ともなると、心がどんどん追い詰められていくんだ。オレもそうだったからね
……
。
家での立場は段々となくなっていって、親から『兄はこんなにも優秀なのに』って比べられるたびに思う。
“兄に生まれればよかったのに”“兄になりたい”と言う気持ちが爆発して、“兄も自分の中の一部”として生き始めてしまったんだね
……
」
わざとらしく目元にハンカチを持っていき涙を拭いているけど、キミ少し前に一人っ子って言ってたよね?
忘れた訳じゃないからなと、わざと音を立てて蕎麦を啜った。
「それで? 最原ちゃんはまだオレに隠し事するんだ」
もう涙の一滴も流していない挑発的な笑顔を見て、喉の奥で嫌な音が鳴った。
“調査の話”は今ので終わりだ。そう言いきれてしまえば良かったのに。
でも、今キミと話していて分かった。
人がついた嘘を暴くのは誰でもいいわけじゃない。
「僕は知らないよ、何も」
「そう」
信じてみようじゃないか、結婚詐欺師の本物の愛を。
……
もしその事実を暴く人がいるのなら、きっとそれは気の弱い優しい彼だけだ。
「嘘つきだね、最原ちゃんも」
そう言いながら近づいてきた彼を誘うように夜風が吹く。ふわりと揺れたレースカーテンは僕らを優しく包み込んだ。
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