ポほ
2026-05-10 22:52:57
2142文字
Public オトメビギナー
 

E65

第2.2話。
元々おどおど系だとメス堕ちも早いですね

 風呂上がり。
 樹は洗面所の鏡の前で、ぼんやりと自分の姿を見つめていた。
 湯気の残る鏡に映る身体は、まだどうしても自分のものとは思えない。細い肩。長くなった髪。そして――胸元の、大きな膨らみ。
(自分で言うのもなんだけど……やっぱりちょっと大きすぎる気がする……
 樹はそっと、自分の胸に触れてみる。柔らかい感触が手に沈み込んだ。
(女の人の胸って、こんな感じなのか……
 不思議だった。
 もっとこう、触った瞬間に変な気持ちになるものかと思っていたのに、実際は案外冷静というか。
(自分で触っても、ふーんって感じかも……
 ぼんやりそんなことを考えているうちに、気づけば数分が経っていた。
……っくしゅ!」
 くしゃみをした瞬間、ようやく自分が裸のままだったことを思い出す。
「な、何やってんだ俺……!」
 慌ててパジャマを掴み、ばたばたと袖を通した。
 
 自室へ戻ると、机の上に二つ折りのカードが置かれているのが目に入った。
 下着を買った時の採寸カードだ。
 下着を買えた安心感と、宗真に中身を見られてしまった恥ずかしさで、存在自体をすっかり忘れていた。
 けれど、そこに書かれている“E65”という数字が何を意味しているのかは、未だによく分かっていない。
(えーと……胸、E65……っと)
 樹はスマホを手に取り、恐る恐る検索欄へ入力する。
 すると、すぐに自分と似たような体型の女性モデルの画像が表示された。
……っ」
 思わず画面と自分の胸元を見比べる。
(そっか……俺、このぐらいってことか……
 なんとも言えない気分になる。
 自分の身体なのに、まるで他人のプロフィールを見ているようだった。
 ――と、そこで。
(って、宗真もあのカード見てたけど……調べてないよな……?)
 嫌な想像が頭をよぎる。

 一方その頃。
 月城家、宗真の部屋。
 ベッドに寝転がった宗真は、スマホを片手に難しい顔をしていた。
(E65……胸、と……
 バッチリ調べていた。
 検索結果を見た瞬間、宗真はぶわっと顔を赤くする。
(樹のやつ、脱いだらこのぐらいあるってことなのか……!?)
 脳裏に、今日の樹の姿が浮かぶ。試着室のカーテンを開けた時。胸元の開いた服。妙に近かった距離感。
(いやいやいや! 友達のことをそんな目で見るとかダメだろ……!)
 慌てて頭を振る。
(でも、あいつほんとムネでかくて、見ないようにすんの大変で……!)
 宗真は枕に顔を埋めた。
「うわぁぁぁ……
 誰もいない部屋で、一人だけ悶絶する声が響いた。

 そして、同じ頃の吉田家。樹はベッドに腰掛けたまま、部屋の隅へ声をかけた。
「ねえ、コン太郎。いるんでしょ」
…………
 返事はない。
 しかし絶対にいる。こういう時だけ妙に反応しないのだ。
……塩、かけちゃおっかな」
「やめてくださいっ!」
 天井近くから即座に声が返ってきた。
 コン太郎が慌てて姿を現す。
「樹の方から話しかけられることなんて滅多にないから、あえて無視してみただけだって!」
「めんどくさいな……
 樹はため息をついた。
「ねえ、ほんとになんで俺……胸大きいの?」
「またその話?」
 コン太郎はベッドの上にごろんと転がる。
「そんなこと頼んでないのに。太って見えるし、服選ぶのも大変だし……宗真も気まずそうだし。やめてほしいんだけど」
「前も言ったじゃん。君の元々のポテンシャルか、君が考える“女の子らしさ”なんじゃないかーって」
「それ、コン太郎が適当に言ってるだけでしょ」
 するとコン太郎は、にやっと笑った。
「じゃ、もう一個適当なこと言おうかな」
「え!?」
 樹は思わず身を乗り出す。
(まあ、どうせ嘘なんだろうけど……
 けれど、こういう時のコン太郎は妙に意味深だ。
 適当に喋っているようで、たまに核心を突いてくる。
……いやでも、こういうのが案外本当だったりするかも……?)
 コン太郎は楽しそうに尻尾を揺らした。
「樹、神社で宗真のこと考えてたでしょ?」
「え……
「だからさ。樹が思う“宗真の理想の女の子像”が、今の君……とか?」
 にやにや笑う。
「ま、今思いついたんだけど」
「ちょっと待ってよ!」
 樹は顔を真っ赤にした。
「俺が、“宗真は胸が大きい女の子好きそうだなー、そうなりたいなー”って願って、こうなったって言いたいの!? 意味わかんないんだけど……!」
「そんな本気にすることー?」
 コン太郎はけらけら笑う。
「さっきは“適当言ってるだけ”って言ってたのにねー」
「うっ……
 言い返せなくなる。
 樹はむすっとしたまま視線を逸らした。
(でも……
 脳裏に、今日の宗真の顔が浮かぶ。
『か……いいと思う』
 言いかけて、誤魔化した声。
 視線を逸らしながら、それでも似合うと言ってくれたこと。
(本当に……宗真が今の俺の見た目、好きなら……
 胸の奥が少しだけ熱くなる。
(このままでいるのも……悪くない、のかな)
 そんなことを考えてしまった自分に気づき、樹は慌てて枕へ顔を埋めた。
「うわぁぁ……
「青春してるねぇ」
「うるさいっ!」