lilie_y0527
2026-05-10 21:10:21
5436文字
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銀河ではそれを愛と……


グローグーを寝かしつけ、リビングに戻ったルークを待っていたのは、片付けを終えたディンだった。椅子の背に深く体を預け、どこか寛いだ様子で座っている。ルークが戻ってきた気配に、バイザーがゆっくりとこちらを向いた。
「寝たか?」
「ああ。よっぽど疲れてたんだろうね。布団をかけたら、すぐに寝息を立て始めたよ」
ルークはそう言いながら、ディンの向かいではなく、あえて隣の椅子に腰を下ろした。ついさっきまで、この部屋の天井に張り付いていた男。告白じみた言葉を聞いても、追い出すことなくお礼と言って夕食に招いてくれた。
ルークの胸の奥が、ちりりと痛んだ。

この人を、誰にも渡したくない。
その感情は、ジェダイが説く博愛とはほど遠い、暗くて重い、鋭利なものだった。ディンが他の誰かに「助けてくれ」と通信を送るなんて、耐えられない。怪我をする、ましてや誰かに殺されるなんて許さない。

「ルーク?」
黙り込んだルークを案じて、ディンがわずかに身を乗り出した。
「疲れただろう。今日は本当に……すまなかった」
「謝らないでって、言ったじゃないか」
ルークは視線を伏せたまま、テーブルの上にあるディンのグローブをはめた手を、そっと自分の手で包んだ。 そのまま、導かれるように少しだけ椅子を寄せ、ディンの肩に、すとん、と自分の頭を乗せる。
ベスカーの冷たい感触が、ルークの頬に触れる。けれど、その奥にあるディンの確かな熱が、アーマーを貫通して伝わってきた。
「ルーク……?」
「少しだけ、こうさせて」
ディンは戸惑ったように体を強張らせたが、すぐに深く息を吐き、ルークを拒絶することなく受け入れた。 ルークは目を閉じる。手を握り、肩に頭を預け、この男の体温を感じる。そうして自分の気持ちを確かめようとすればするほど、ルークの中で答えが鮮明になっていく。

やはり僕は、この人を愛しているんだ。友人としてではなく、一人の人として、独り占めしたいほどに。
分かってしまった。それは、ジェダイの歴史を読み解くよりも、ずっと簡単で、抗いようのない真実だった。
…………
ディンは何も言わなかった。ただ、ルークを支えるように肩に力を込め、繋いだ手をわずかに握り返した。 言葉のない静寂。どうしたらいいか分からない。ジェダイとしての自分と、独占欲に震える自分。その矛盾を抱えたまま、ルークはディンの肩から伝わる生きた熱に、ただひたすらに縋っていた。



肩に預けられたルークの頭の重みを感じながら、ディンは自分を縛り付けている掟よりも重い恐怖と戦っていた。
ルークの指先が、自分のグローブに触れている。その微かな熱が、ベスカーの装甲を突き抜けてディンの心臓を直接揺さぶっていた。ディンは、ルークが自分にとってただの友人というには物足りない存在であることを、とっくに自覚している。だが、それを口にした瞬間、この贅沢な静寂は音を立てて崩れるのではないか。ルークは銀河を導く英雄であり、自分は名もなき戦士に過ぎない。もし自分の欲を晒せば、ルークはもう二度と、この家へは来てくれないかもしれない。
それは、死ぬよりも耐えがたかった。
だが、肩から伝わるルークの呼吸は、どこか苦しげで、迷いに満ちている。ディンは自分の想いを封じ込める代わりに、ただの友人として、震える声を絞り出した。
「ルーク」
静寂を破るヘルメット越しの声は、どこまでも優しかった。
「何か、悩んでいることがあるなら、話してみてくれないか」
ルークの肩が、びくりと跳ねる。ディンはルークの指先を、グローグーと手を繋ぐ時のように優しく慎重に握り返した。
「君には、重荷が多すぎる。帝国残党のこと、新しい世代のこと。俺には、それらすべてを理解することはできないかもしれない。だが……聞くことくらいならできるだろう」
ディンは、自分自身の感情をヘルメットに隠し、必死でルークの支えになろうと努めた。
「どうしたんだ。いつもより、君の心が乱れている気がする」
ルークは、ディンの肩に顔を埋めたまま、小さく息を吐いた。ディンが自分を案じれば案じるほど、ルークの中の独占欲は熱を帯びて膨らんでいく。この優しさを、自分に向けられるこの不器用な誠実さを、誰にも渡したくない。
「ディン」
ルークの声は、掠れていた。
「さっき僕が言ったこと、覚えてる?」
ディンの心臓がベスカーの奥で跳ねた。胸の奥から響いてくる音に支配されそうだ。そうだ、さっきこの男は何て言ったか。
好きだとか愛おしいだとか。ジェダイは博愛を掲げているという。言葉は同じでも、自分の中にあるこの感情とは似ても似つかないだろう。
ディンは答えることができず、握る手に力を込めて、続きを促した。

「僕が、君の思っているような立派なジェダイじゃなくて。とても自分勝手で、独占欲の強い、ただの男だったら……君は、どうする?」
「どう……とは」
ディンもルークも、声が震えていた。お互いに相手の思いをはかりかねて、相手の気持ちを知るのを怖いと感じている。
「もう、僕とは会いたくなくなるかも」
「なぜ」
「正直に、話すね」
ルークが深く、震えるような呼吸を繰り返したその時だった。ガタガタと、部屋の隅にある簡素な椅子や棚の上の玩具が、不規則に震え出した。まるで目に見えない力が、部屋全体の空気を震わせているかのように。
「待ってくれ、ルーク。何の音だ?外の風か……?」
ディンが周囲を警戒し、椅子の脚が床を叩く不気味な音に意識を向けた。だが、ディンがその揺れの正体に気づくより早く、ルークが苦しげに顔を伏せる。
「ごめん、僕のせいだ。抑えがきかなくて」
「君の……?」
ディンは驚き、その震源地であるルークを見つめた。銀河を救ったあの穏やかで静かな力が、今は嵐の前触れのように荒れ狂い、周囲の物質に干渉してしまっている。ルークの心がいかに限界まで張り詰め、かき乱されているかの証拠だった。
ルークは必死に自分を律しようと、手に力を込める。
「怖いんだ、ディン。君を失うことが。君が僕の知らないところで傷つき、消えてしまうことを想像するだけで、頭の中の光がすべて塗り潰されそうになる」
ルークの声は、もうジェダイ・マスターのものではなく、一人の怯える青年のものだった。
「これは、僕がグローグーに禁じた執着そのものだ。あの子には捨てろと言ったものを、僕は今、君に対して捨てられずに抱え込んでいる。……こんな想いを抱いたままじゃ、僕はもう、ジェダイではいられないかもしれない」
ルークの瞳に、絶望に似た色が浮かぶ。
「父のように……この執着のせいで、僕も暗黒面へ堕ちてしまったら。……君が僕じゃない誰かを頼る姿なんて、想像したくない。君のその真っ直ぐな強さも、不器用な弱さも、全部僕だけのものにしたい。僕にだけ頼ってほしい。そう思ってしまったんだ。……これは、醜い独占欲だ。こんな気持ちを抱えたまま、僕は君の隣にいていいはずがない。いつかこの独占欲が、執着が、君を……そして銀河を壊してしまうかもしれないのに……

ルークは、ディンの肩で震えながら、泣きそうな声で打ち明けた。
「ルーク、顔を上げろ」
ディンはルークの肩を掴み、自分と向き合わせた。バイザーの奥の視線は、かつてないほど力強く、真っ直ぐだ。
「暗黒面へ堕ちるのが怖い?君が俺を破滅させるかもしれない、だと?……だったら、その時は俺がこの手で君を引き戻してやる。殴ってでも、正気に戻してやる」
ルークが息を呑む。ディンはそのまま、追いかけるように言葉を叩きつけた。
「君は自分を随分と責めているが、忘れたのか?ジェダイとかマンダロリアンとか関係なく、ただの友人になりたい。……そう言ったのは、君だ。」
ディンの声が、熱を帯びて響く。
「ジェダイとしての高潔な愛だとか、執着は危険だとか、そんなものはどうでもいい。君が俺を頼りたいと言うのなら、俺はそれに応える。君が一人で抱え込んでいるその独占欲も、暗黒面とやらへの恐怖も、全部まとめて俺に半分預けろ」
ディンはルークの指を、砕けんばかりの力で握りしめた。
「その重荷を、一緒に背負わせてくれ。あんたが道を誤らないように、俺が隣にいてやる。……それが『友人』だろう?」

バイザーの奥の視線は、真っ直ぐにルークを貫いていた。ルークは一瞬の沈黙のあと、噴き出すように笑った。これまでの苦悩が嘘のように、心が軽くなっていくのを感じた。
「ふふ、あはは! ……はぁ。君は本当に、僕が一番欲しかった言葉をくれるんだね」
ルークはディンの手に自分の手を重ね返し、涙が滲むほどに笑った。ルークの瞳には、もう迷いも恐怖もなかった。あるのは、目の前の無骨な戦士に対する、隠しようのない深い親愛と、甘やかな熱だけだ。
銀河最強のジェダイ・マスターを、ただの拳一つで救うと言い切る男。
「分かった、約束だよ、ディン。僕の荷物を君に預ける。……その時は、容赦しないでくれ」
自分を信頼しきった瞳で「預ける」と言い放つルークを見て、ディンの胸は、もう張り裂けんばかりに愛おしさで満たされた。ルークのはじけるような笑顔。その輝きに当てられ、視界が熱くなり、気づいた時には、自分でも驚くほどの勢いでルークの肩を掴み、その顔を自分のヘルメットへと引き寄せていた。

静かな部屋の中に、およそロマンチックとは程遠い、ゴツン、という乾いた音が虚しく響いた。
ルークは衝撃に目をつむり、のけぞるように額を押さえた。
ディンは、自分が何をしでかしたのか分からず、固まっていた。あと数センチ、いや数ミリ角度が違えば、あるいはもっと慎重に動いていれば。いや、そもそも自分は今、何をしようとしたのか。
ルークは涙目になりながら、赤くなった額をさすってディンを見上げた。
「いたた……何、ディン、今の。なんで頭突き?」
痛がりながらも、可笑しくて仕方がないというようにルークが笑う。
……っ、すまない。手が、滑った。いや、その……
「手が?」
「足元が、狂ったんだ。とにかく、すまなかった」
ディンは、自分の激しい動悸がルークに聞こえていないことを祈りながら、しどろもどろに答えた。手元が狂っただなんて、マンダロリアンの戦士が聞いて呆れる。けれど、今の彼にはそれが精一杯の言い訳だった。
ルークはそんなディンの動揺を見透かすように、もう一度、今度は優しく微笑んだ。
「いいよ。君のそういうところ、好きだから」
さらりと、とんでもないことを言われた。ディンの頭の中は、今度こそ真っ白になった。自分の体温が急上昇していくのがわかる。今の不格好な頭突きのどこに「好き」になる要素があったというのか。
ルークは額を指先でなぞりながら、ふと目を細めた。その視線はどこか湿り気を帯び、ディンを射抜く。
「ねえディン。さっき君は、僕のことを友人だって言ったよね?」
「ああ。そうだ」
「ふうん、『友人』か」
ルークはその言葉を吟味するように繰り返すと、ディンとの距離を詰めた。ディンは下がろうとしたが、背中には椅子の背もたれがあった。ルークは逃がさないと言わんばかりに、そっと背もたれに手を突き、ディンを自分の腕の中に閉じ込めた。
「君っ……さっきまで、深刻そうだっただろうが」
「さっきまではね。でも、ディンが僕を殴ってでも止めてくれるって言うから。なんだか、今まで必死に守ってきたジェダイとしての僕が、どうでもよくなっちゃったんだ」
ルークはディンの胸元のプレートにそっと手を添え、ベスカーの冷たさを味わいながら、上目遣いに覗き込む。
「これから、僕の気持ちを君に分かってもらうのはもちろんだけど。君の心の中に何があるのか、ちゃんと理解していきたいな。……今の頭突きに、どんな意味があったのか、とかね?」
…………
ディンは大きなため息をつき、心で白旗を上げた。心臓の鼓動はまだ激しいままだが、それを隠すことも、ルークのフォースの前では無意味だと思い知らされたのだ。
「もう、分かっているだろう。君がフォースを使えば、俺の考えていることなんて、筒抜けのはずだ」
諦めと、自嘲気味な響き。それはディンなりの降参であり、精一杯の愛の告白でもあった。
だが、ルークは満足そうに微笑むと、さらに楽しそうに首を振った。
「いいや、全然。ちっとも分からないよ?」
「ルーク」
「言葉にしてくれないと、ジェダイにだって分からないことはあるんだ。だから、これからゆっくり、時間をかけて、君の全部を教えてね」
ルークはニコニコと笑い、ディンのたくましい指に自分の指を絡めた。ディンはもう一度、観念したように深いため息を吐き出した。それは諦めというよりも、自らその熱に身を投じることを受け入れた者の、安らかな響きだった。

かつては友人として互いを尊重しながらも、どこか一定の距離を保ち続けてきた。けれど、もうその境界線は存在しない。ルークの指先が、ディンの首筋の温もりに触れる。ここから始まるのは、言葉以上の確かさで互いの魂を繋ぎ、絆を結んでいく長い旅。これからゆっくりと時間をかけて、家族になっていく。その約束は、静かな部屋の中に、溶け合うような甘やかな沈黙となって満ちていった。




ー完ー





タイトルふざけました。