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ほしのまなつ
2026-05-10 17:33:22
2576文字
Public
:一郎×3世短編
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🥞&🎩3️⃣ /カラフルパレット
3世くん、おこる。
・
・
・
「
――
悪魔くん」
メフィストは激怒した。
……
いや、激怒していた。
必ずかの言葉足らずの分からずやを問いたださねばならぬと決意した。
メフィストには、彼が何を考えているのか、ちっとも分からない。
メフィストは上級悪魔メフィストフェレス2世と、その父がベッタベタに惚れこんだメシアの妹との間に授かった、待望の子どもである。
悪魔とにんげん。ふたりに慈しまれ、人間界でも魔界でも、それはもう可愛がられてきた。もちろん時に厳しく。
艶やかなシルクハットから、磨き抜かれたつま先まで
……
整えられた姿は、メフィストが彼らに大切にされてきた証である。
だからその尊厳を汚す行為に対しては、人一倍に敏感であった。
「おい、悪魔くん!」
――
それでも。
この分かりにくい従兄弟が、誤解されやすいことをメフィストは知っている。
もう、知ってしまった。
「言い訳のひとつぐらい、あるだろ?」
「
……
何のことだ?」
いつもと変わらぬ顔で、いつもと変わらぬ姿勢のまま。
古いソファを軋ませながら魔導書を読みふける一郎の顔が、わずかに持ち上がる。
会話をする気があるようで、メフィストは強張っていた肩をわずかにゆるめた。
「今日のおまえの暴言について、だ」
「暴言? 事実しか言っていない」
以前ならここで一方的にケンカになっていた。
でもそれではダメなのだ。
「おまえは暴言だって思わないかもしれないけど
……
おれは、嫌だった」
「イヤ?」
「
……
うん。そもそも今回の依頼、聞き取り調査までは一緒にいったのに。おまえは
……
悪魔くんは、ひとりで勧めちゃって
……
その上で【ソレ】だろ」
「額の傷のことか? 数日あれば、元通りだ。依頼に関しても、準備していた術式に問題はなかった。想定より数は多かったが、低級霊だ。僕一人で十分だと判断した。老朽化で床が抜けたのは計算外だったがな」
「うん。おれがいたら、しなかったケガだ。おれはね、悪魔くん
……
おまえと一緒にちゃんと仕事したいと思ってる。だから一人で判断するまえに相談して欲しいし
――
悪魔くんがおれに言ったこと、すごく
……
すごく嫌だった。わりとまだ怒ってる」
「
……
そうか」
遮らず聞いていた一郎が、ソファに寝そべった状態から身体を起こしてくれたので、空いたスペースにメフィストも身体を沈める。
『ケンカはね、顔を見てやらなくっちゃ!』と言っていた母の言葉を思い出す。そっぽを向いてたら悪魔くんがどんな顔してるか、いっしょう分からない。
「『そんな格好してる奴を、連れていけるか』
――
悪魔くんは、おれにこう言った。忘れてないよな?」
――
そう。何もかもが片付いてしまった後だ。
踏み抜いた床板でおでこを切った一郎を回収したメフィストは、その一言で激怒した。
許せない、ひどい侮辱だと思った。
「
――
なんで、あんなこと言ったんだ?」
「
……
別に」
「理由があるんだろ。おれはそれ、ちゃんと聞きたい
……
」
――
おれは、
悪魔くんの
相棒
メフィスト
だから。
ようやく、それを口にする。
目のまえの瞳がわずかに見開かれた。
一郎は大きく瞬くと、正装姿のメフィストをしっかり目に映しこみながら
――
観念するように口を開いたのだ。
「
……
アスコットタイの由来をしっているか?」
「??? 由来?」
ネクタイの形や名前は知っているが、由来までとなると分からない。
素直に首をふって、返事待ちらしい一郎を見あげる。
「
――
きみの首元を飾っているのは、アスコットタイだろ。アスコットタイは、かつてルイ十四世に仕えていたクロアット連隊の兵士たちが無事に帰還するように
……
と、そう祈った家族や恋人が贈ったスカーフが起源だとされている」
「そうなの?」
ちらっとメフィストに向けられた視線が、真っ白なアスコットタイに落ちる。
この正装一式を作ったのは魔界だ。父に連れられ、お祖父ちゃんやその眷属たちみんなそろって、小さなメフィストのオーダーメイドに、手も口も出していた。
「あくまで所説だが君の祖父や父親が知らないはずがない。そういうことだ。きみは大事な子なんだろう。だから、あの現場には僕だけでいいと思った」
そう、息継ぎもせず一気に言う。
静かな声だった。
「
……
ばかだなぁ」
「君にしか言われないぞ、その形容動詞は」
ぽろっと。本音がこぼれてしまう。
一郎も慣れてきたのか、こうして言い返してきたりする。以前はびっくりしてたくせに。
(
――
だって
……
)
(だってさ、あくまくん)
なんでそこまで分かってるのに。
なんで、わかってないんだろう?
「
――
悪魔くんのTシャツ。毎日おなじの着てる、それ」
「??? ぼくの服がなんだ」
指をさすのは行儀が悪いので、視線でその輪郭をたどる。
まるっこい目は、困惑ぎみだ。
「真吾伯父さんのトレードマークみたいな赤と、真吾伯父さんを護るマントのみどり。
――
意味がないなんて言わせねぇぞ」
まっすぐな正しさの赤と、やわらかな守護の緑。
伯父さんも
……
伯父さんの使徒さんたちも、この色を見たらそれを浮かべるだろう。
――
まいにち、まいにち、
――
身に着けている一郎の色だ。
「
――
その色を着てる悪魔くんだって、『だいじ』だろ?」
おれが誰かに慈しまれてるのといっしょ。
変わらない。変わらないんだよ、って
――
一郎はわずかに首をかしげている。
納得いってない、正直な反応だ。でも、どうしても伝えたかった。
「
……
きみの
……
その意見には、僕はまだ、思う所がある」
「うん」
正直な唇が尖っていて、思わず、ふはっと笑ってしまう。
嘘がつけない、不器用な従兄弟だ。
「だが次からは相談、しようと思う」
「うん」
じゃあ指切りしよ? って。
小指を差し出せば、ぎこちなくだが頷いてくれた。
そういえばこれを教えたのはメフィストだ。
「♪うーーそついたら、ハリセンボン」
「のーます
……
前も言ったが、この歌はどうかしているな」
生真面目に感想をのべてくる一郎に、
今度こそメフィストは声をあげて笑った。
真っ白なアスコットタイと、
赤と緑のシャツの間で、
ふたりの小指がちいさくゆれていた。
・
・
・
(大切をつむぐひとたちの話)
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