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こばと
2026-05-10 14:50:28
2332文字
Public
タキ書♀
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いつかの未来
お付き合い済みのタキ書♀
ミゲル視点・ヒューゴとユージンも出てきます
タキ書♀は喋りません
幼馴染のわがまま王子様に付き合って、路地裏にある骨董店へと向かっていた昼下がり。
アルタール島唯一の繁華街は、ほんの少し歩いただけで同じミーティアに通う学生たちと出会すことも少なくなかった。寮生活を送る学生たちの数少ない娯楽が集まる場所なのだから、それ自体はおかしなことでもなければ珍しくもない。
「あれ」
「
……
ん?」
ただ、隣を歩いていたヒューゴの呟きに思わず足を止めてしまったのは、その視線の先によく見知った人物たちの後ろ姿を見つけたからだった。
ちょうど大通りから一本道を逸れて、少し進んだ先の角を曲がろうと踏み出した足が、ぴたりと止まる。
今朝も特別寮の談話室で淹れたてのコーヒーを片手に挨拶を交わした、タキとレイだ。仲睦まじそうに顔を寄せ合って言葉を交わす二人の姿は、普段談話室で見かけるものよりもずっと甘ったるくて。見てはいけないものを見てしまったような、そんな気持ちになったのは俺だけだろうか。
そんなことを考えながら隣を見ると、面白い玩具を見つけた子どものように目を輝かせるヒューゴがいて。ああそうか、そうだよな俺だけだよな、なんて思わず項垂れてしまったのは仕方がないだろう。
そう言えば今日は出かけると言っていたが、街に出ていたのか。せっかくの二人きりの時間を邪魔するのも申し訳ない気がするが、生憎とお目当ての骨董店は二人の先にある。
このままではきっとヒューゴは、いい暇潰しを見つけたと言わんばかりに良からぬ絡み方をするだろう。どうしたものかと瞬時に考えを巡らせていると、護衛として後ろをついて来ていたユージン先輩が、立ち止まった俺たちの肩の間を覗き込むように身を乗り出してきた。
「どうしました? ヒューゴ様」
「パパ〜〜!」
次の瞬間、涙混じりの甲高い子どもの声とともに、小さな人影がどしんっと勢いよくタキの足もとへ突進する光景が目に飛び込んできた。
突然の出来事に脳内の処理が追いつかない。しかし呆気に取られる俺よりもさらに混乱を極めた叫び声が、耳をつんざく。
「パ、パパだと
……
っ!?」
「あ、ははっ、あはははっ!」
「おいっ、ヒュー!」
どういうことだタキと、今にも飛び出して掴みかかりそうなユージン先輩を慌てて羽交締めしながら、隣で肩を震わせている王子様をひと睨みすると、やれやれと言いたげな表情で肩を竦めて見せる。
「はいはい、分かったって。ねぇユージン、落ち着いて?」
「ヒュ、ヒューゴ様! まさかタキの奴、あんな大きなこ、こど、子どもっ、が!」
「うんうん、驚きだよねぇ。見てよ、髪色なんてそっくりだよ。あれかな、ミーティアに入る前に旅先で
……
」
「タ、タキ、貴様ーッ! レイという存在がありながら
……
っ!」
「わっ! ちょ、ちょっと待ってくださいユージン先輩!」
鬼の形相を見せるユージン先輩とそんな先輩を押さえ込むのに必死な俺を眺めながら、ヒューゴが目尻に溜まった涙を指先で拭っている。おい、笑いごとじゃないぞこれ、どうするんだ。
「悪ふざけが過ぎるぞ、ヒューゴ!」
「あはは。ごめんごめん。ほらユージン、ステイ」
「はっ!」
「
……
そんな、犬みたいな
……
」
「まぁただの迷子とかそういうオチなんだろうけど
……
面白いものが見られそうだし、このまま眺めていようよ」
そう言って、建物の陰に隠れながら曲がり角の向こう側を窺うヒューゴが、おいでと手招きする。
その隣に渋々並ぶと、落ち着きを取り戻したらしいユージン先輩もタキたちの様子を気にしつつも、ヒューゴの背後を守るように直立不動の姿勢を取っている。何なんだこの状況は。
「はぁ
……
つくづくお前は悪趣味だな」
「はい、不敬」
「今さらだろ」
「ふふ、まぁね」
互いに軽口を叩きながらも、俺たちの視線は前方のタキたちをまっすぐに捉えていた。
タキの脚にしがみつきながら、わんわんと声を上げて泣きじゃくる赤髪の男の子。驚きのあまり目をまん丸にしたのは一瞬で、すぐにタキはその場にしゃがみ込んだ。レイもまた同じようにしゃがむと、小さな男の子と目線を合わせるようにして何やら話しかけている。
顔を真っ赤にして大粒の涙をぽろぽろと溢す男の子の頬を、やさしい手つきでハンカチで拭ってやるレイの横顔は、いつもよりも随分と大人びていた。
隣から伸びた大きな手のひらが、男の子の丸い頭をわしゃわしゃと撫でていく。心配するな、任せろと言うように、頼もしく笑ったタキが小さな身体をひょいと抱き上げて肩車をすると、男の子はぴたりと泣き止んだ。
さっきまで泣いていたのが嘘のように高い視界に目を輝かせる無邪気な姿に、タキとレイは顔を見合わせて笑う。
何を話しているのかまでは聞こえないけれど、きっと迷子になった男の子の家族を見つける算段をつけているのだろう。
肩の上に乗った男の子を支えるように脚を持ってゆっくり歩くタキと、そんなタキに寄り添いながら時折男の子に話しかけるレイの姿は、何も知らない道行く人が見たら仲の良い家族に見えるに違いない。
きっとこの光景は、いつか訪れる未来だ。そうであればいいと、心から思う。
「うーん
……
からかってみようかと思ったのに、何だか見せつけられちゃったね」
「
……
ヒュー、お前なぁ
……
」
「タ、タキ
……
」
「えっ、ユージン先輩
……
な、泣いてる
……
」
「ふ、ふふっ
……
あは、あははっ」
小さくなっていく後ろ姿を見送りながら、笑い過ぎてくずおれそうなヒューゴと目を真っ赤にして感じ入るように遠くを見つめるユージン先輩に挟まれ、俺はこんな風に笑ったり泣いたりしながら過ごす時間がいつまでも続けばいいのにと願った。
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