奥芝
2026-05-10 00:13:26
2188文字
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原藤ワンドロ/ワンライ 第20回 藤の花

+1.5hくらい
花見に行く原(→)藤 現パロ

うっすら某市のあそこをイメージしましたが、架空のフラワーパークです!

 せっかく休みが被るのだし、今年はGWゴールデンウィークらしくどこか行こう! ということで、いつもの顔ぶれで郊外へ花見に出掛け、ついでに近くの温泉宿で一泊してくる……という、小旅行の計画を立てていたのだ。
 永倉さんから急な仕事が入り行けない旨の連絡があったのは、前日の夜のことだった。
 みんな揃わないなら高速バスや旅館の予約をキャンセルしてもよかったけれど、永倉さんが「いいから、お前らだけでも行ってこいって! 俺に構わず」と強く言うものだから、まあ、それぞれ働いているんだし、こんなこともあるか……と割り切って、予定より一名減、僕と原田さんで向かう運びになった。
 原田さんと二人だけで遊びに行くのは、なんだかんだで初めてのような気がする。いつもは大体、永倉さんとか斎藤さんとか河上だとか、誰かしら一緒にいたから。道中、どんな話をしようか? 永倉さんに話しかけられて、怠そうに返しながらも楽しそうにしている(器用な人だ)記憶はあるものの、あの人って最近どういうことに興味を示しているのか、具体的にはわからない。……カレーか? でも、カレーだけで一時間も二時間も喋れないよな……
 明日の話題を探して彼のSNSアカウントのホームを遡っていたら、あまり眠れないまま朝を迎えてしまった。



 集合場所に到着すると、原田さんが僕の顔を覗き込んで眉を下げた。
「平助、眠そうだな。大丈夫か?」
「ああ、ちょっと、寝付けなくて……。遠足前の子どもみたいで、恥ずかしいですけど」
「俺もあんま寝れなかった。今日ばかりは絶対、遅刻できねえと思って」
 たかだか遊びの約束だというのに原田さんたら、やたらと真剣な顔をして言うものだから、面白い。
「あは、そうですよね。このバス、発車時刻になったら、揃ってなくても出発しちゃうらしいですし」
……いや、まあ、うん」
 いつもはっきりとものを言う原田さんにしては、歯切れの悪い返し。この人も、確かに寝不足であるらしい。
「移動中に、少しでも眠れたらいいですね」
 そう言い置いて、バスが走り出すなり寝入ってしまい、原田さんに「着いたぞ」と肩を揺すられるまで目覚めなかった僕だった。
 『花見』といっても、もう桜の時期でもないので、主役は藤だ。今日訪れた公園の藤棚は、なんと一千平方メートルもあるという。……これも昨日のネタ探し中に知ったことだけど、話題にする機会はあるかな?
 国民の休日らしく人でごった返す広大な公園内を、原田さんと歩き回りつつ乾杯して、乾杯しては歩き回って、園内のあちこちで販売されているアルコールに足を取られながらも花を愛でて、気付けば日没を迎えていた。
 日中も地元ではお目にかかれない規模感の植栽が目を惹いたが、ライトアップされた色とりどりの藤の幻想的な眺めはまさに圧巻だ。ここまで足を伸ばして良かったと感じさせてくれる。永倉さんに送ってあげようと何枚か撮ってみたものの、素人のスマホ写真などでは写し取れない。すみませんが今度ご自身で見に来てください……と、労働中であろう永倉さんに念を送ってみた。
 それにしても――
「親子連れは帰っちゃったのか、いつの間にかカップルみたいな二人客ばかりになってますね。確かにすごくロマンチックな雰囲気ですし、僕たちってわりと場違いかも」
 傍の彼にそう囁くと、
……じゃあ、『場違い』じゃなくするか」
 ぼそっと言葉が返ってくる。
「え――
 見上げると、原田さんの手が伸びてきて、風に掻き乱された髪を直してくれた。
 ……場違いじゃなくするって、そのまま受け取ると、この場に馴染むようにするってことで……まさか、僕たちでカップルをやる・・っていうのか? それ・・らしく顔が近付いてきているし、頬なんか撫でられたりしてるけれども。視線を合わせるにも苦労する三十センチの身長差を埋めて、今はごく近くにある原田さんの顔。目つきはとろんとしていて、鼻先に当たる吐息は熱く、酒臭い。……なんだ、ただの酔っぱらいか。
……っはは、原田さんって、そんな冗談言うんですね? 今のはちょっとドキッとしましたよ」
 胸元を指先で突いてやると、弾かれたように頬に添えられていた手が離れていく。
「え。あー……そ、だな」
 原田さんは何やらもじもじとし始め、ベンチに座り込んでしまった。自分から始めておいて、だんだん恥ずかしくなってきたんだろうか。いつも飄々としている原田さんが。今日はこの人の珍しい姿を色々と見るなぁ……と、こちらもなんだか面映い気持ちになる。
「花は十分堪能しましたし、僕たちはそろそろ出ますか。今からだと、ホテルに着いたら八時過ぎるな……すぐにご飯を運んでもらいましょう」
 頭を切り替え、原田さんの腕を掴んでよいしょ、と立ち上がらせる。俯けていた顔を上げた彼は、不完全燃焼……とでもいうような、すっきりしない表情だった。
「平助……続きは、宿に着いたらな」
「ったく、はいはい。わかりましたよ」
 『続き』って、妙な悪ノリを始めるくらい飲んでおきながら、まだ酒が足りないのかよ……と呆れつつ、軽く返してやる。
 到着後、原田さんから続き・・の話をされて、藤の花見に出掛ける前とは全く別の関係を築いていくことになるなんて、このときの僕は知る由もないのだった。