asahito
2026-05-09 23:12:43
5143文字
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XYZ①

前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/7583585 一部R18です
続編である今作の第1章(錦上京キャラ中心)はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/14625442 一部R18です
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。

例大祭お疲れさまでした。案外この現パロシリーズ読まれていてびっくりしました。

 繋がりを断ち切った、断ち切られた筈が。また繋がろうと手を伸ばしてくるのはどういう意図があるというのか。
 勿論親子なのだから血の繋がりはあるし。私は、父の事は嫌いではない。寧ろこんな娘をよくここまで育ててユイマンとの結婚も許してくれたと思う。
 これからは妹とその伴侶が父の会社を手助けしていくだろうが。それでも私との繋がりを断ち切らないのは、何かがうまくいかなかった時の保険として私をユイマンを通じて傍に置いておきたいのか。
 牡丹鍋は評判通りに美味であり、豚肉より野性味や引き締まった食感はユイマンのお義父さんが捕って来てくれた記憶の通りだった。
 〆のうどんもつければよかったとユイマンは言っていたが。そう言える彼女の度胸には驚くばかりである。あんな話をしておいて。
 結局あの後にユイマンも私もそのことについてはいったん置いておきましょう、と結論付け。店に支払いをして店員から見送られた後。
……阿梨夜。これからどうする?」
 店を出て一歩、少し遠慮がちにユイマンは私に尋ねる。言うタイミングが悪かったというのは彼女も分かっていただろう。
 言ってしまったら私に何かしらのダメージを与えると。私の血筋のせいで彼女を傷つけ続けているという負い目をユイマンは分かっていて、それでも私に言わなければならないほどの情報だったのだ。
 あの店主のバーに行ってゆったりお酒を飲む、という気分には正直なれない。彼女には聞きたいことは沢山ある。その情報は、いつ分かったことなのか。
 守秘義務があるから私には言えないのは理解していても。また彼女を滅茶苦茶にされるのなら、もうあんな会社辞めてしまえと言うしかないだろう。
「少し歩きましょうか。夜景が綺麗だし」
 またここで機嫌を悪くして喧嘩になっては何も反省していないことになる。彼女が店の中で話したのは、店の中で私が激昂したりすることはないと計算しての事か。 
 どのタイミングで言ったとしても。私に良い結果になる筈はないと彼女は分かっているのだろう。
 だからこそ。何も気にしていないふりをして彼女と一緒にいることを選んだ。この店の近くは大きな橋が架かっており、その下には船が通れる川が流れている。夏には大きな花火大会も開催されるので整備された河川敷と言っても良いだろう。
 明るい街灯もつけられており、ジョギングをする人や散歩をする人、私たちの様にデートをする人もいて。人通りの少ない道ではない。
 手を差し伸べるとユイマンは少し安堵の表情を浮かべて私の手を取った。私の方から手を差し伸べるのは珍しいけど、不安になる彼女を安心させたかった。
 少し歩いていけば橋が見えてきており、横から階段を使えば川沿いの道に降りることができる。かつて水運が今よりも盛んだった時に使われていたこの川は、屋形船がいくつも行き来しており中では宴会が開かれているのが見えた。
 私が彼女の手を握ると、ユイマンもそっと握り返してくれた。人通りがあるにしてもまばらな場所は、私達を気にする人もおらず風景の写真を撮ったり走り続けたりと自分のしたいことに没頭している。その温かな無関心がありがたかった。
 とりあえず駅に近い方に歩こうと、指を絡め合わせながら歩き続ける。無言だけど、ユイマンの手を冷やさないようにと私の熱を送る。風が少し吹いてもう冬が近づいてきていると思うと、薄手のコートの襟を寄せて自分の熱を少しでも保とうとした。
 鼻を掠める潮の香り。この先は海があるのだった。ここもフィールドワークで何回か歩いたことはあるし沢山知識を身に着けた場所であったけど。今はユイマンにその知識を語ることはない。
 ふと、ユイマンは足を止め。私もそれに従い足を止める。何か言いたいことがあるのだと、分かったから。
 あたりを見回すと散歩者用のベンチがあったので周囲に浮浪者がいない事を確認してからそこに座った。
「ごめんなさい。あんなこと言って」
 先に切り出したのはユイマンだった。両手を組んで足の間に置き、うつむいたまま私に謝罪する。
 私も聞きたい事問い正したい事、溢れて止まらなかったけれども。彼女を傷つけないような言葉選びを必死に頭の中で考え続ける。
……その情報って、部外者の私に言っていいものなの」
 そうして出た言葉は。もう私はあの血筋の争いごとに巻き込まれたくないと言う気持ちを含んだような言葉だった。
「正直言えば、まだ社内でしか言われてない事だけど。阿梨夜には伝えなきゃいけないって思ったの」
 マスコミに公表した後に分かった場合、私が何故言わなかったのか怒るのを見越していたのだろう。
「それに」
 ユイマンは顔を上げて私を見つめる。そして私の手を握り、静かに語った。
「豊姫さんに呼ばれて。阿梨夜には先に伝えて置いて欲しいってお願いされたの」
……!?」
 なんで豊姫がまた出て来るんだ。ユイマンを追い詰めた方の側の奴が私に伝えてくれというのは何のつもりだ。
 反射的に何かを言おうとした私を遮るようにユイマンは言葉を続ける。
「この前豊姫さんがまた退社の時来て……私と個人で話したいって。そこで合併の話を聞かされたの。合併って言っても阿梨夜のお父さんの会社の傘下になるって」
「ちょっと待って、父の会社ってそういう部門はなかったでしょう」
 私の父の会社は山林の分野に強く。土地や建築、土木工事などの方で力を持っている会社だという事は私ですら理解している。
 それがいきなりシステムの会社と合併するなんてない話ではないが、あまり妥当性を感じない。
 ユイマンもそれは思っていたらしい。何故そうなるのか、そして何故ユイマンだけを呼び出したのか。
「阿梨夜の言う通り、畑違いよ。けれど労働問題を起こしたうちの会社はマスコミに叩かれたり、監査が入ったりしたことで大分疲弊していたみたいなの」
 インフラ関連のため簡単には崩れることはないにしても。火消しのためにかけた労力や金額はけた外れの損失を生み出したという。
 正しく労働をさせていれば何もなかった損害を、一気に生み出し。問題のある社員を左遷や解雇したとはいえ、長年勤めた人間を失うことは人材の喪失にも繋がる。
 クリーンな環境を目指すために新しい人材を投入したところで所詮現場を知らない素人を置いたら、現場の疲弊は増すだけであろう。
 言わば手負い状態の企業。あの企業の創設者も沢山いる父の兄弟のうちの誰かだっただろうが。伝統のある企業を潰すと言うのは私の血筋の中で死を選んだとしても、どこまでも恥晒しと罵られる事だろう。
 父の兄弟つまり、豊姫の父親の心労は、自業自得とはいえ想像を絶するものだ。
 会社を潰すくらいならば。一瞬の恥を忍んでも生き残ることを選ぶ。生き残り継続し続けた奴が意味があるのだと。
「救済合併……ってことになるのかな」
 いくら兄弟とはいえあの父がそれを認めると言うのは。宗家と分家のようなどちらがより血筋として純粋であるか、というコンプレックスからか。
「そうね。それに近いと思う」
 それとも、あの妹の結婚と何か関りがあるのか。
「今うちの会社にいる交代した重役たちの中に……今は豊姫さんもいるけど、これからは阿梨夜の妹さんの旦那さんも入って来るらしいの」
「え……妹の、旦那さん?」
「テコ入れとして呼んだ方だからずっとうちの会社にいるかはわからないけど。結局新しい血を入れないといずれその血は腐るからって豊姫さんが……
 私の身内にがちがちに固められて。ユイマンはそれでも働こうというの?働かなくていいから私と一緒にいてくれれば守ってあげられるのに。
 昔から続いていると言うだけの面子を保つためのやり方に。彼女をこれ以上巻き込みたくない。
「ユイマン……
 新しい就職先を探すのは難しいと思うけど、もうあんな場所にいないで欲しいと言いたかった。
 あんなに苦しんでまで何故貴方はあそこで働こうと思うの。
「けど豊姫さんは、私はもう巻き込まないって約束してくれたから……私はシステムの事に専念すればいいって」
「あいつの言う事なんて信じちゃダメ!離れなかったらまた……
 思わず大きい声を出してしまい、ここが人通りの有る道であることを思い出しはっと口を噤む。
 ユイマンは私の肩を抱き宥めるように優しく摩る。
「そう言うと思った。だから、悩んでいたのよ。隠し通す事も考えたけどいずれ貴方にはばれてしまうでしょ」
……
「去年ずっと阿梨夜が私を守ってくれたことは知っている。私が元気になれたのは貴方のお陰だって……
 私の躰を犠牲にして彼女を守ろうとしたことを。ユイマンは覚えているし、悔やんでいる。私たちの間は傷だらけで、それでも繋がっていようと足掻き続けた。
 それでも足掻き続けるのを嘲笑うように。私の血が結果的に彼女を傷つけようとする。
 ユイマンは摩っていた手を離すと。指輪を嵌めている方の手で私の頬をそっと撫でた。体温の低い白の指先が、私の熱を奪う。
「だけど、貴方はいつだって良かれと思って私から何かを奪おうとする」
 ハンマーで脳天を殴られたような衝撃が、走った。
 奪おうなんて、思ったことはない。いつだって与えたい。彼女を傷つけたくないという気持ちから私は行動している筈なのに、彼女にとってそれは迷惑だったのだろうか。
「自分の仕事を辞めて一緒に実家に戻ろうとも言ってくれたけど。阿梨夜が自分の仕事が気に入ってるのがわかっていたもの」
 迷惑だった、という自覚から。躰が無意識に震えだし唇が戦慄く。どう行動すれば彼女を不満にさせずに済んだのかが分からなくて。
 私の急激な態度の変化にユイマンは何故か笑っていた。
「なりたかった仕事だものね。子供の時から一生懸命勉強して、私を守ろうとしてた時も休まないで……だから、辞めるなんて言って欲しくなかった」
「ユイマン、私は……
「私の為に貴方が仕事を辞めたら、阿梨夜の夢を奪った足枷を一生背負えってことよ。私が貴方を守ることは許してくれないの?」
 その瞳は、威嚇する蛇の瞳孔とよく似ていた。今ここが野外でなければ私を食らいつくすような牙が喉元に掛かっている心持がした。
 いっそここで喰われて死んでしまえば。死体の処理以外は彼女にこれ以上迷惑を掛けずに済むなら、それでもいいのかもしれない。
 指先を私の頬から離し彼女はバッグから何かを取り出した。それは見慣れた小さな箱。私の書斎に置いてある小箱を彼女は持って来ていたのだ。
 その中には私の指輪が入っており。彼女はそれを手に取って私の左手を反対側の手で持ち上げた。
「私だってシステムの勉強して、少しは上から信頼されるようになった。私が力をつければいつか文句は言われなくなる」
 使われる側の技術者の強みは。背こうと思えば雇用主に致命傷を与えらえるという事だ。システムの中身を知っているという事は、脆弱な部分も知っている。
 そこを突かないのは法律や良心というものだが。それを取り払えば全てを滅茶苦茶にすることは可能なのだ。
 たとえいくらでも技術者には代わりがいると言われようと。攻撃する隙があるなら、いつだって誰だってその刃を向けることはできると。
「阿梨夜の守りたい気持ちは凄く嬉しい。だからこそ、私も貴方の続く苦しみは背負いたい」
 私の左手の薬指にゆっくりと、銀の指輪が通される。常に嵌めているわけではないからつける必要がある時は、こうやって結婚式の時の様に互いの指に通し笑い合っていた。
 一回も式は挙げたことはないけれど。私たちが結ばれていると感じられる瞬間を、今も感じている。誰も招かれることのない二人だけの式。
 お互い左手を掲げその証を見せ合い。私は半分涙目になりながらも彼女に笑いかけた。
……情けないパートナーで本当にごめんね」
 彼女の手を取ってその指先に口づける。誓いは何度誓ったとしても、それを確かめたくなる弱さを私は拭えない。
 幼い頃私の背中を追って泣いていた彼女の面影はもう、ない。そこには私のパートナーとして歩んでくれると言う意志を持った彼女がいるだけだ。
 私無しでも自由に生きていける彼女を。縛り付けたと言う足枷を私は背負って行こう。
「阿梨夜も職場で何かあったら言うのよ?どんな偉い人でも猟銃で一発撃てば誰だって……
「待って、それは駄目」

 多少縛り付けておかないといけないことは、少しはあるかもしれないけれど。それは幸福な足枷なのだろう。



続く