紫よか
2026-05-08 17:33:30
1876文字
Public 刀剣乱舞
 

明日も晴れますか

大和守安定×蕚 梅雨のある日、雨上がり

「あ! 安定! 雨、やんできたよ!」
「本当だ。これで本丸に帰れるね」

 ざあざあと通り雨に晒されていた万屋街の空に晴れが訪れる。現世のリアルタイムの再現にすぎないそれも、当たれば濡れてじっとりと冷たい。おてんばな審神者の少女が濡れて帰りたいとごねるのをなんとかなだめて、大和守安定と彼女は駄菓子屋の軒下で雨宿りをしていた。
 大和守安定がなだめるために買った二袋目の駄菓子をたいらげ、少女は空の下に出てくるくると回った。着慣れた軍服の黒い膝丈のスカートがふわりとふくらむ。スカートの下に穿いているペチコートがちらりと見えたのを目の当たりにした大和守安定は、口から出かけたはしたないとたしなめる言葉をぐっと飲み込んだ。太陽を喜ぶ花のように笑う幼い主に水を差したくなかったのである。

「さ、主。帰ろうか」
「えー? やだー!」
「もう買い物は済ませたでしょう。お菓子も二つも食べたし。そろそろ遠征部隊も帰ってくるんじゃないかな」
「そうだけど……
「もう……どうしたの」
「まだ買いたいもの、あるもん。ふえたもん」
「ええ……?」

 買い物の荷物は本丸に転送してある。元気いっぱいの審神者の少女がいつ電池切れを起こして寝落ちするか分からなかったため、大和守安定は彼女をいつでも抱き上げられるようほんのわずかな転送料を払って荷物を無くした。こういった細かいサービスに細かい金銭が必要なのは、いつの時代も変わらないのである。

「何がほしいの? ……お菓子はダメだよ? 夕飯が入らなくなっちゃう」
「んー、えっとね、えっとね」
「ちゃんと聞くから、ゆっくり話してごらん。……内容によるけど」
「そんなたいへんなものじゃないよ、あのね安定……

 審神者は手を後ろに組み、ゆらゆらと左右に揺れる。照れくさそうにはにかむものだから、その理由のわからない大和守安定は首をかしげた。

「踊らないの」
「おどってないもん! あのねあのね、うてな、てるてる坊主さん作りたい!」
「てるてる坊主って……紙を丸めて顔を描くあれ?」
「うん! 安定のじだいにもあったでしょ?」
「あったけど……ああ、もう梅雨だもんね。雨の日が続くと、本丸の外に出るのも億劫になるか」
「おっくうってなあに?」
「めんどくさいなーってこと」
「そっか! そう! おっくう! うてなね、えへへ、えっとね……てるてる坊主さんたくさん作ってね、うてなね……
「お、落ち着いて?」

 きゃっきゃと物を言う前に少女は跳ね回る。わざと水たまりを足を入れる。それを見た大和守安定は頭の中で、先代の審神者のお下がりのレインブーツを残しておいて良かったと安堵した。

「はれた日に、よろずやさんの街で安定とおててつないでデートするの。雨があがったあとの、いいにおいをいっぱい吸って、公園にいったりするの」
「雨上がりの空気の匂いか……そういえば、あるね、雨の匂い」
「うふふー。安定、うてなとデートしよ」

 先ほどまでのはしゃぎぶりは鳴りをひそめ、審神者は大和守安定の顔を確かめるように覗き込んだ。その表情が歳不相応に大人びて見え───大和守安定は、この子は自分に本気で恋をしていると改めて自覚するのであった。あまりにも幼くてまっすぐな信頼と慕情。それでもそれに応えるのは、まだ早いような気もして、しかし同じくらいの愛情で応えてしまいたい気もして、彼は曖昧な困ったような笑みを浮かべて、こんな彼女を試すようなことを言ってしまうのだ。

「じゃあ主、明日は晴れると思う?」
「あした?」
「うん。明日。明日は、どう思う?」
「んーとね」

 彼女は幼くも聡い少女であった。試されていることに気づいたのか、しばし考え込む。そして、にぱっとやはり花咲くような笑顔を彼に見せた。

「はれるよ! はらすよ!」
…………そう」
「うてながてるてる坊主いっぱいつくるからね。安定は、安心してあしたはれるーって思って眠っていいんだからね」
……ふふっ。ありがとう主。じゃあ……てるてる坊主用のティッシュでも買いに行こうか」
「うん!」

 差し出した彼の手のひらに、小さなやわらかい少女の手が重なる。
 明日も晴れますか。───この気持ちに応えてくれますか、という、切なる愛の言葉。回りくどい言い回しで、年下の少女に試すような物言いをしてしまうことにほんの少しだけ恥じらいを感じながら、それでも大和守安定は彼女のふわりと空気に漂う雨の香りのような優しい愛情に包まれることに幸福を感じるのであった。