2026-01-06 22:41:24
2290文字
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三が日のくりつる


 正月もとい三ヶ日ぐらいは本丸も休みにしよう、と主が提案したので、とある本丸は全員三日間の休暇となった。出陣してもいい、ではなく禁止を言い渡されている。常日頃忙しいのだから、半強制的に皆休ませるという審神者なりの気遣いであった。
 ◉
「暇だなあ」
 鶴丸国永の声はよく通る。恋刃である大倶利伽羅の部屋で特に目的もなくだらだらとテレビを鑑賞している最中だった。大倶利伽羅も同じく、鶴丸の横でテレビ画面を眺めている。一月三日、と表示されていた。休みは本当にありがたいし贅沢な願いだとはわかっているが、手合わせだけでなくそろそろ戦場の風を浴びたいのも事実だった。
……そうだな」
 独り言だったかも、とは頭を過ったが、鶴丸の言葉に同調する。ジャージの裾をきゅ、と掴まれた。
「伽羅坊、ちょいと遊ぼうか」
 横を振り向いて連れ合いの顔をじっと見れば、悪戯っ子のように口許をにやにやさせている。
「また羽子板でもしたいのか。ならば、絶対に勝つ」
 正月早々、年明けらしく戦ってみるのも一興と二振で羽子板をした。伊達の刀も見守る中、結果はそれぞれ十勝ずつで終了となった。なんせ負けず嫌い同士なのでいくらでも続行できる気概に溢れていたが、ちょうど十の勝ち星でキリがいいからやめた方がいいと燭台切光忠に諭されたのだ。
「うーむ、それもいいが。新年の伽羅坊に触れたいな」
 うたた寝に落ちてゆくように、大倶利伽羅の肩口にぼすっと体を預けてきた。体温が心地よい。
「新年の?」
 もう三日だし、それに別に年を跨いでも自分は自分だろう。よくわからん、と思いながら朱色の襟足を弄った。
「そう。年を新たにすると、纏う神気もなんだか少し変わる気がするし……
 とにかく、心持ちの話だと続ける。
「まあ、今年もどんなきみでも欲しいってことさ」
 鶴丸が寄り掛かられていない方の手で、テレビの電源をそっと消した。どう考えても、もう点けておく必要はない。連れ合いに向き合い、彼の頬を手の甲で撫でた。空っ風が部屋の障子を揺らす。高い鼻梁に淡雪のような接吻を贈った。
「口じゃないのかよ」
 鶴丸が不服そうにくちびるを尖らせる。反抗のつもりなのか、わざと強い力で抱き締められた。
……後でしてやる。今してしまったら、もう止められない」
 そう言うと、今度は鶴丸の眼許に口付ける。御簾が降りるように、ふ、と銀色のまつ毛が伏せられた。
「俺もあんたも」
 急激に燃え上がりそうな欲をよくよく抑え込んで、まぶたに一度だけくちびるを寄せる。そして、すぐに離した。
「そう、だな……
 大倶利伽羅の胸許にぽふ、と顔を埋めてくる。首飾りが揺れて、まるで囁くような金属音を立てた。彼も同じ気持ちなのだろう。それ以上言い返されることはなかった。なかなか面を上げようとしない恋刃の背を、子どもを寝かし付けるように柔く叩く。爽やかな空気が二振の肌をなぞる。やはり、鶴丸の言うように新年は風も瑞々しくなるのだろうか。今年も腕の中に大切な存在が居る事実を噛み締める。翼を広げて飛び去った遠いあの日を何故か思い出してしまった。
「ふう」
 満足したのか、眩しい陽光のごとく笑みを見せる。まるで初日の出を拝むような気分だ。
「やっぱり、夜の闇が本丸を覆った頃にじっくり触れ合うとしよう。今からは――そうだな、一緒に昼寝でもしようぜ」
 時間を気にせず怠惰に眠るのも、彼らにとってはちょっとした贅沢である。明日からはまた本丸の一員として内番に勤しんだり、戦場を駆け回ったりする毎日が紡がれてゆく。束の間の休息をふたりで愉しむのは悪くなかった。誘いに対して素直に頷く。
「よーし、じゃあ布団を敷くか」
 物の所在は全部頭に入っているようで、布団を収納する棚を迷いなくすぱんと開けた。
「俺の部屋なんだが」
 鶴丸が大倶利伽羅の布団をいそいそと敷くと言うのもなんだか不思議な光景だ。早速棚の中を漁る彼に、自分でやるから、と待ったを掛けた。
「別にいいのに。俺が言い出したんだし」
「座っていろ」
 えー、と言いながらもそのまま腰を降ろした。毎日慣れ親しんでいる動作なので、あっという間に床を延べ終わる。当然、布団はひとり分のみだ。日だまりで遊ぶような温かな匂いがふわりと舞った。
「そら」
 終わったことを告げると、鶴丸が遠慮なく布団に入り込んだ。
「きみも早く来いよ。まさか、俺だけ寝てるのを見る方が好きなんて、ないよなあ?」
 木蓮のような華やかな表情を崩す。ふふ、と笑いながらいざなう様子からすると大倶利伽羅を揶揄っているのだろう。
「全く……
 ぼやきながらも隣に潜り込んだ。正直な所を明かせば、鶴丸がすやすやと幸せそうに眠る顔を側から眺めるだけでも心が満たされると確信している。だが、恋刃の誘いを蹴る気もなかった。
「伽羅坊、明日の予定は?」
 昼寝をしよう、と言った割には積極的に話し掛けてくる。寝かせる気があるのだか、ないのだか。
「遠征だ。三日間ぐらいと聞いている」
「そっか。俺は出陣」
 連隊戦で顕現したばかりの新刃の練度上げも兼ねたものだと言う。忙しい毎日が幕を開けることとなりそうだ。その後もしんしんと雪が降るように静かに語らっていると、いつの間にやら微睡みが訪れてきた。
「ああ、眠くなってきたな……。おやすみ、伽羅坊」
 彼も同じだったらしい。眠気に身を任せ、目を伏せた。この一年も、美しい白雪のような男の隣に居たい。天に願うことはしない。大倶利伽羅自らの決意だった。すう、と穏やかな寝息が聞こえ始めた。